急成長スタートアップ企業の決断、戦略的に勝ち切れる道はIPOではなくM&A

ご成約概要
譲渡企業 | 譲受企業 | |
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会社名 | NINJAPAN 株式会社 | 株式会社ODKソリューションズ(3839) |
代表者氏名 | 創業者 新井翔太 | 代表取締役社長 勝根秀和 |
所在地 | 東京都新 宿区西新宿3丁目9-6 OYA ビル7F | 大阪市中央区道修町1丁目6番7号 |
事業内容 | キャリア 構築サービス『Abuild®就活』(就活塾事業) 『Abuild 新卒戦略採用』(インターン支援事業) | 情報処理アウトソーシングサービス、ソフトウェアの開発及び販売、情報提供サービス |
譲渡時の年齢 | ー | - |
2020年に新井 翔太氏と景介氏が兄弟で創業したNINJAPAN株式会社は、キャリア構築事業『Abuild®就活』を通じて、就活生をはじめとした学生のポテンシャルを最大化するサービスを提供しています。わずか数年で就活塾業界最大手に躍り出る急速な事業成長を実現してきたNINJAPAN株式会社ですが、更なる成長加速を実現するため「信頼」と「情報」を有する上場企業グループへの参画を決断しました。未来を見据え、課題が顕在化する前に決断を行った背景についてお話を伺います。
プロフィール
NINJAPAN株式会社 創業者 新井 翔太
甲陽学院中学・高等学校
京都大学総合人間学部、京都大学大学院人間・環境学研究科
米国投資ファンドで長期インターン(Taiyo Pacific Partners)
外資系投資銀行、外資系資産運用会社(Deutsche Bank Group)
著書『外資系投資銀行まで完全攻略 最強の就活フレームワークABUILD』
監修『スピード攻略WebテストTG-WEB ’24年版』『スピード攻略WebテストTG-WEB ’25年版』『スピード攻略WebテストTG-WEB ’26年版』
監修『面接&自己PRの正解例』
共著『ゆとり京大生の大学論』
経産省/JETRO始動Next Innovator 7期
J-StarX (シリコンバレープログラム)初代選抜、J-StarX 審査員賞(Shin Matsumura賞)受賞
Panasonic Boost Contest社外審査員
京都大学吹零会幹事(起業家コミュニティ)
NINJAPAN株式会社 創業者 新井 景介
早稲田大学国際教養学部卒業。在学中に不動産管理仲介会社を創業し、採用・人材コンサルティングに従事。その後、不動産大手の社長室兼経営企画部に当時史上最年少で参画。経営コンサルティング会社のインキュベーション事業の責任者を経験し、人材サービス企業の代表取締役社長に就任。海外への人材紹介、コンサルティング経験を経て、2020年NINJAPAN株式会社を創業。
会社紹介
ガムシャラに引き当てた「就活塾」というブルーオーシャン
ーまずは NINJAPAN株式会社(以下、NINJAPAN)の事業内容を教えてください。
新井景介氏(以下、景介氏):NINJAPANは「埋もれた資源を発掘し、個人や組織のポテンシャルを最大化する」をミッションに、次世代のリーダーとなる人財とコミュニティの育成として、自走出来る社会人を育てる『Abuild®就活』という塾を運営しています。
トレーニー(生徒)の根底にある“やりたい”を吸い上げ、ベストマッチする企業を見つけ、戦略的に内定を獲得します。偏差値40台の大学から外資系消費財・外資系コンサルや偏差値50台から外銀など「そこから内定取れるの?」というジャンプアップを生み出していて、毎年感動の嵐に包まれています。

ー目覚ましい成長を続けてきた『Abuild®就活』の誕生背景を教えてください。
景介氏:元々、NINJAPANの創業事業は「インバウンド向け観光サービス」でした。コロナの影響で観光需要が縮小し、国内向けの飲食サービスに切り替えようと模索しましたが不要不急の外出自粛でそれも難しく、創業数ヶ月で生きるか死ぬかの状態に追い込まれた過去があります。
この時点で会社を畳む選択もありましたが、せっかく起業したのだからもう少し足掻いてみようと。そこからは、IT系の会社を手伝ったり、経営コンサルを引き受けたりと業務委託で食い繋ぎながら、新しい事業に挑戦しては撤退してを繰り返していきました。
12個ほど新規事業にトライした頃でしょうか。兆しが見えてきたのが『Abuild®就活』です。当時、私たちは1・2週間のスパンで事業の継続決断していたのですが、『Abuild®就活』は初めての問い合わせが来た翌月には400万円ほどの売上を作ることができたのです。そこからこのサービスの可能性を感じ、本腰を入れていきました。
M&A検討のきっかけ
課題に対し戦略的に勝ち切れる道は、IPOではなくM&A
ー M&Aを検討するきっかけについて教えてください。
新井翔太氏(以下、翔太氏):私たちは「埋もれた資源を発掘し、個人や組織のポテンシャルを最大化する」をミッションとする会社です。創業時から数多くの事業アイディアにトライしてきましたが、全てこのミッションに関連するもので実行してきました。ですので『Abuild®就活』の一本だけでなく、さまざまな新規事業を展開することを目指しています。
しかし、就職活動はある種のイベント行事で季節性があります。新規事業にトライすると、体制を作っているうちに『Abuild®就活』の繁忙期がきてしまう。『Abuild®就活』は年々規模が拡大していき常に人手がギリギリな状態だったので、新規事業のリソースも『Abuild®就活』に回さざるを得ない等、思うように新規事業を展開することができていませんでした。
景介氏:繁忙期で新規事業が頓挫してしまうという状況は、言ってしまえば内部的な課題なのですが、就活市場にはマーケットサイズの課題もあります。
就職活動にお金をかけてよりハイレベルな会社に入社しようとする人は一定層いるが、爆発的にはいない。
一方で、大学受験の予備校市場は約2,500億円と言われており相当に大きいマーケットなんですね。偏差値の高い大学に入学するための投資より、そこまで高い偏差値の学校でなくても東大・京大・早稲田・慶應などに進学した人と同じ企業に就職できる投資の方が経済合理性は高い。だからこそ、我々としては大学受験の市場規模を超えられる自信がありました。就活塾市場のマーケットリーダーとして業界(市場)を育てていく活動をしてきましたが、独力では何も変えられない。
翔太氏:事業が順調に伸びていき、マザーズ(現:グロース市場)の上場企業と同等の会計レベルに達しそうになっていたので、IPOも視野に入れて監査法人の方と話をしたり、実際にどんなマイルストーンで進めることができそうかなど聞いたりもしていました。
そうした中で景介から「M&Aってどうかな?」と話しをされ、大きい企業とM&Aをすれば、信頼を獲得し、さらには資金力も獲得できます。内部的な課題でもあったリソース面でのサポートも期待できることもあり、IPOではなくM&Aを選択しました。
お相手探しの軸
両者の強みと育てていきたい領域がマッチ
ー成長のための課題が明確だからこそ、譲受企業の選定も解像度が高そうですね。マッチングの条件を教えてください。
翔太氏:「就活塾」という業界を広げる戦いは文化との戦いです。
就職活動でお金を払ってキャリアを考えていく、という新しい文化づくりにリソースを投下し続けなければ市場は10億円・20億円・100億円と育っていきません。ですので、資本力という観点をまずは大事にしていました。
また、より良いキャリアを考えるためには、そもそも高校時点からキャリアを考えていき、その延長として大学で何をするか。高大社接続(高校・大学・社会で一貫した考え)でのキャリア育成を浸透させていくことが必要です。これも単独で挑むと、相当時間がかかります。そのため、高校領域であったり社会人領域で事業を展開している企業。あるいは大学領域でも我々のカバー範囲外のところで事業を展開している企業と連携していくことを考えていました。
そして事業シナジー。僕らだけでなく、相手の事業も拡大が見込めることが大事です。
ー 上場企業に譲渡した形になりましたが、そうした資本力・事業領域・シナジーがマッチする会社であれば未上場企業と手を組む可能性もありましたか?
翔太氏:そうですね。
ただ、もう一つの観点として「信頼獲得」という狙いがあります。
特に日本は新しいことに対する抵抗が大きいこともあり、怪しさや疑いといった疑念を払拭できる要素として「上場企業」という旗印はわかりやすく、スムーズに信頼を獲得できると思っていました。
ー2024年10月2日、ODKソリューションズとのM&Aが成立しました。NINJAPANがODKソリューションズ(以下、ODK)と手を組んだ背景を教えてください。
翔太氏:ODKの主力事業に大学受験ポータルサイト『UCARO®(ウカロ)』というサービスがあります。『UCARO®』は、高校生の皆さんが大学情報収集から大学受験の出願、そして大学入学の手続きまで、大学受験に関するやり取りをウェブだけで完結できるサービスです。現代の大学受験生の半数以上が利用しているサービスであり、ODK社としては『UCARO®』をもとに更なる企業成長を目指しています。
我々としても『Abuild®就活』と『UCARO®』が連携することで、それだけ多くの人に“より良いキャリアの可能性”を提案することができ、高校・大学の接続に関与する機会を得ます。
それだけではなく、ODKはグループ会社を通じて大学低学年の学生向け事業『キャリポート®』を提供しています。『キャリポート®』は大学低学年の時から様々なキャリア・社会体験に参加し、社会とのつながりを得ていくサービスで、『Abuild®就活』とはM&A以前から協業していました。元々の協業内容を、我々のコンテンツ力と先方の持っているリソースを掛け合わせることでより発展させ、今後は大学生初期から合同インターンの施策を実施したり、大学生向けのメディア事業であったり、長期インターンシップだったりを通じて大学・社会人領域を繋げていけると思っています。
他にもシナジーはいくつもありますが、ODKとのM&Aで僕たちは高大社接続の実現を果たすことができる。
もっと大きい未来図でいくと、ODKが掲げているビジョンは「データに、物語を。」と言うものです。教育事業からNFTを活用したキャリア形成支援を展開しており、個人がどのような体験をしてきたか、どのような経歴を持っているか、データを通じてその人やモノゴトを知ることができるようになります。世界を作ろうとしています。
逆に『Abuild®就活』は「物語をデータに」していこうとしています。僕はこのデータをHRTech領域にも活用していきたいと考えています。「人財バリュエーション」という表現を使っているのですが、企業の価値評価にあたってそこに所属する個人の価値部分まで数値化できる未来は作れるはずです。現代のように人的資本を定型的な指標で数値化するのではなく、本当の意味で個人の強みとバリューが輝くそういった人財バリュエーションの世界を作りたいと思っています。
スタートアップ企業に向けて
経験に勝る学びなし、M&Aは自らのキャリアに節目をつくる
ー今回、スピカコンサルティングのM&A仲介を通じてのご成約となりましたが、スタートアップ企業のM&Aに仲介は必要でしょうか?
翔太氏:実際に自分が当事者となって仲介の必要性を非常に感じました。私は外資系投資銀行時代にセルサイド・バイサイドM&Aどちら側にも関わってきましたが、そんな経験やスキルがある人でも、絶対に仲介はいた方がいいですね。
当事者になると、どれだけ合理的に考えても創業した会社や事業に感情や想い入れが強くあるので、冷静でいるつもりでも実際はそうではいられないことが多いからです。
景介氏:特に交渉が発生し合う状況だと絶対に必要でしょうね。
翔太氏:そもそもM&Aをやったことがないとか、知識がないって人は誰かアドバイザーを入れないと本格的なM&Aについては成り立たないと思います。座学でMBAを取得して、ファイナンスの勉強をしたことがあり、M&Aの流れも基本的には把握できていますよって場合でも単独での上場企業とのM&Aは相当厳しいと思います。中立的な専門家がいないと、特にスタートアップは経営者も事業にフォーカスしていて、余力のある状態ではないはずです。また仮にCFOがいたとしても、財務管理に加え、現場で動いていたりするのでなかなか単体のリソースだけでは成り立ち得ないですよね
そういう意味でもスピカのような存在はいなければならないと、思いました。
ースタートアップ経営者のM&A仲介選びにアドバイスがあれば教えてください。
景介氏:IPOの可能性もある中で、M&Aを検討するということは、決まりきってないことが多いという状態。だからこそ、自分自身が求めていることをより「言語化して」「寄り添ってくれて」その回答をコーチングするくらいのコンサルタントじゃないと上手く進まないと思います。
翔太氏:あと「夜中まで対応できる」ですね。リアルにそうだと思いますよ!このご時世にこんな発言はどうなのかなと思っちゃうんですけど(笑)。
我々スタートアップ企業が大企業に勝てることって「スピード感」と「柔軟性」と「熱意」しかないと思うんですよ。資本力とか組織力とかは圧倒的に大企業の方があるからこそ、これらの要素でスタートアップが負けたら終わりです。土日や夜中まで気軽に対応してくれたのは、地味にめちゃくちゃ大事でしたね。
ー最後に、スタートアップでM&Aを検討している経営者へのコメントをいただけますか?
翔太氏:日本のスタートアップ企業はM&Aが少なく一割くらいと言われている一方で、アメリカだとその真逆で9割近くがM&Aをしています。だからこそ、M&A自体のシステムが育っていることはもちろんのこと、譲渡オーナーがシリアルアントレプレナー(連続起業家)や投資家になっていく。そしてラーニングが蓄積されていって経済に資金が循環するエコシステムが形成されています。日本もM&Aの意識が少しずつ高まってきているのはとてもいい傾向です。
M&Aを選択すると、一回目の起業(事業)ではできないことに挑戦できるなと思っています。一回目は「事業を立てる」ということにフォーカスするので、どうしても課題ドリブンになる。日本のスタートアップとか、ベンチャー企業とかも「顧客の課題は?」というボトムアップの視点からビジネスモデルを組み立てていることが多いですよね。この思考法自体が悪いとかではないのですが、そこには一定の限界があると感じています。
僕の場合、次の事業を始めるにあたっては、ビジョンから始めようと思っています。「世の中は100年後にはこうなっていているべきだし、人類の向かっていく先としてこういう世界を作りたいからこういう事業をする」という考えです。2回目だからこそ、こうした未来思考でのビジネスに挑戦できると感じています。
景介氏:M&Aをすることは一つの区切りになりましたね。自分の人生を振り返った時の、一つの節目を作った感じです。また次のチャレンジの時にはこの経験を生かして、もっと大きなことができるはず。「世界を変えたい」とか「IPOしたいとか」自分の目指すゴール次第だと思うんですけど、そこに辿り着くための最短のルートってなんなんだっけ?と冷静に考えた時、今の体制・事業のままやった方がいいのか、それとも売却することで違う道もあるのか、はたまた別で会社を起こすのか?選択肢はたくさんある中で、僕たちはM&Aを選んだ。
スタートアップの経営者として、選択肢を多くもつことは大事ではないでしょうか。
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インタビュー・編集・撮影:近藤 英恵
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