2025年9月の食品業界M&Aまとめ
9月の代表的な公表M&A一覧
2025年9月の食品業界のM&A件数は22組(公表ベース)
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで22件となり、1~9月の累計件数は134件となりました。なお、前年同月は13件、前年1~9月の累計件数は105件となっており、前年と比較して食品業界のM&Aが活発化していることが分かります。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
|---|---|---|---|
2025年9月1日 | 株式会社アイビイケイ(非上場・茨城) | モトヤユナイテッド株式会社(非上場・岡山) | 株式譲渡 |
2025年9月1日 | 有限会社ライスアイランド(非上場・神奈川) | ダイセーホールディングス株式会社(非上場・東京) | 事業譲渡 |
2025年9月1日 | 斎藤商業株式会社(非上場・千葉) | 株式会社久世(東証:2708・東京) | 事業譲渡 |
2025年9月2日 | 株式会社鈴屋(非上場・東京) | シャディ株式会社(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月2日 | 東葛食品株式会社(非上場・千葉) | 昭和産業株式会社(東証:2004・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月2日 | 株式会社ラマイ(非上場・北海道) | 株式会社USEN(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月2日 | 株式会社デリカシェフ(非上場・埼玉) | 株式会社武蔵野(非上場・埼玉) | 株式譲渡 |
2025年9月2日 | MERCER OFFICE株式会社(非上場・東京) | SYNC Group株式会社(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月4日 | 株式会社萬平(非上場・神奈川) | 株式会社西原商会(非上場・鹿児島) | 株式譲渡 |
2025年9月4日 | 株式会社グッドクリエイト(非上場・東京) | 株式会社ガーデン(東証:274A・東京) | 事業譲渡 |
2025年9月10日 | Freshmart Singapore Pte Ltd(非上場・シンガポール) | 富永商事ホールディングス株式会社(非上場・兵庫) | 株式譲渡 |
2025年9月10日 | 有限会社高千穂漢方研究所(非上場・兵庫県) | 有限会社二軒茶屋餅角屋本店(非上場・三重県) | 株式譲渡 |
2025年9月11日 | Hodo, Inc.(非上場・アメリカ) | カルビー株式会社(東証:2229・東京)・相模屋食料株式会社(非上場・群馬) | 株式譲渡 |
2025年9月16日 | 株式会社すし弁慶(非上場・鳥取) | SRSホールディングス株式会社(東証:8163・大阪) | 株式譲渡 |
2025年9月16日 | 株式会社ピソラ(非上場・滋賀) | 株式会社串カツ田中ホールディングス(東証:3547・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月18日 | 奥野食品株式会社(非上場・三重) | 株式会社ルミエール(非上場・大阪) | 事業譲渡 |
2025年9月18日 | 株式会社島田食品(非上場・神奈川) | 株式会社OICグループ(非上場・神奈川) | 株式譲渡 |
2025年9月24日 | ファームストン株式会社(非上場・東京) | 白鶴酒造株式会社(非上場・兵庫) | 株式譲渡 |
2025年9月25日 | ADiRECT SINGAPORE PTE. LTD.(非上場・シンガポール) | スターゼン株式会社(東証:8043・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月26日 | FB Food Service (2017) Co., Ltd(非上場・タイ) | フジッコ株式会社(東証:2908・兵庫) | 株式譲渡 |
2025年9月26日 | 株式会社明友(非上場・山形) | 株式会社古窯ホールディングス(非上場・山形) | 株式譲渡 |
2025年9月30日 | 株式会社北海道加ト吉(非上場・北海道) | 株式会社ちぬやホールディングス(非上場・香川) | 株式譲渡 |
<2025年9月の食品業界公表M&A>
今月は4件のクロスボーダーM&A(海外企業とのM&A)が見られました。2025年に入ってから私たちが集計している件数で11組(うち、アメリカ5組、シンガポール3組)です。アメリカでのM&Aが多いのは市場の大きさに加え、関税の影響などもあるかもしれません。
2025年9月、カルビー株式会社は相模屋食糧株式会社とアメリカで豆腐や大豆加工食品の製造を手掛けるHodo, Inc.の株式の過半数を取得することを発表しました。カルビーが発行済株式の58%、相模屋食糧が10%を保有します。スナック菓子業界のリーディングカンパニーと、豆腐業界のリーディングカンパニーの2社が共同でアメリカの豆腐市場へ挑戦します。このM&Aで興味深いのは、カルビーのIRによると「クリーンプロテインとしての豆腐を北米市場に定着させることを目指す。」としていることと、相模屋食糧との協業によってM&Aを実行した2点です。
Hodoは、アメリカで高品質な豆腐や湯葉など植物ベースの食品を製造しており、その製品には有機の非遺伝子組み換え大豆を使用することで、タンパク質が豊富で栄養価が高く、グルテンフリーであることが特徴です。世界的に持続可能な食品の需要が高まる中、植物性タンパク質を豊富に含む豆腐は、加工度が低く原料に近い食品として、健康や環境問題への関心が高まるアメリカでも注目を集めています。日本の伝統食が私たちの認識とは少し異なって、クリーンプロテインとして海外で受け入れられるのは面白いと思います。カルビーはじゃがいもを原料としたポテトチップスが主力商品であるように、植物ベース食材をコアビジネスとする企業の姿勢が見て取れるM&Aとなりました。
また、豆腐事業への新規参入にあたり、自社だけでは足りない知見を相模屋食糧というパートナーによって解決している点も注目すべきポイントです。単体では実現できないことも専門家をパートナーに迎え入れることで可能になります。何事も自社だけで乗り越えようとするのではなく、資本も絡めた強力なパートナーを獲得していく柔軟なM&A思考がこれからの日本に必要ではないでしょうか。
業界のニュース
ニューヨークで50店舗以上のスターバックスが予告なく閉店
アメリカのスターバックスは、年末までに北米店舗の1%を閉店、900名の従業員の削減を発表しました。ニューヨークでは突如として50店舗以上が閉店しました。
かつてはカフェチェーンの成功モデルとされ、単にコーヒーではなく、自宅・職場に継ぐリラックスできる空間「サードプレイス」を提供する体験価値を訴求することで成功しました。一般的なカフェチェーンと比較しても高単価が受け入れられやすく、高い収益性からパート・アルバイトも含めたストックオプション制度を1991年からいち早くスタートするなど常に注目される存在でした。
しかし、時代は変わり、現在はその高単価が客足を遠のかせているとのことです。2024年にオンライン金融サービスマーケットプレイスを運営するレンディングツリー(アメリカ)の調査では、アメリカ人の既に8割がファストフードを贅沢品として認識しているとの結果が出ました。スターバックスはカフェチェーンとしては高価格帯に位置する印象があり、物価高が進む時代において消費者心理との乖離があったのかもしれません。
また、アメリカのスターバックスは2023年に労働組合を妨害するために、労働組合に加盟している店舗を閉鎖させたとの疑いから炎上した過去があり、かつてのリラックスできる空間というイメージも現地では希薄化している可能性があるようです。
日本でも、原料などが高騰する中で、食品業界の企業にとって高価格帯の顧客獲得は重要な戦略の一つと言えます。一方で、顧客自身が実質的な手取りが減少している中で、顧客の理解を得られない高価格戦略は難しいことは言うまでもありません。価格と集客のバランス、そして価格を上げたとしても顧客から理解を得られるための企業の在り方がより一層求められる時代になりました。
まとめ
カルビーが持続可能な植物ベースの食品で「食と健康」領域を推進しているように、企業の在り方が非常に重要になっています。かつてのアメリカ・スターバックスがパート・アルバイトも含めたストックオプションや顧客がリラックスできる空間などその在り方自体が賛同されていた中で、労働組合との軋轢など矛盾する内容が顧客離れに繋がっていることも、企業の在り方が重要になっていることを表しています。価格転嫁しなければ存続が難しい食品業界でありながら、多くの一般消費者が高単価を受け入れられないというジレンマの中で、企業経営の舵取りが難しくなっています。2024年に赤城乳業は主力商品のアイス「ガリガリ君」を8年ぶりに70円から80円に値上げした際には従業員によるお詫び画像を掲載しましたが、その際に今後の動向を考え、90円、100円、110円に値上げした際のお詫び画像も同時に撮影し、経費削減の為、撮影をまとめて1回ですませたというお笑いに変えることで顧客からの評価を得ていました。もともと低単価を長年続けてきた企業努力があったからこそ受け入れられたと思いますが、このように「ファンを作れるか」が現在の食品企業にとっては非常に大切になってくることでしょう。
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宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。