2025年11月エネルギー業界M&Aまとめ
11月の代表的な公表M&A一覧
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2025年11月10日 | (株)イマイ[岡山県] | 浅野産業(株)[岡山県] | 株式譲渡 | 岡山県高梁市エリアにおける生活インフラの安定供給を強化 |
<2025年11月のLPガス業界 公表M&A>
(株)イマイは、岡山県高梁市にてLPガス・燃料油の販売、サービスステーションの運営をおこなっている企業です。同様に先月10月30日には、北海道札幌市にてLPガス・灯油販売、サービスステーションの運営を手掛けるサンシン油業(株)が藤田産業(株)へ事業を承継させたという事例が公表されました。
このように、LPガス販売事業者の中には、サービスステーションの運営も同時に手掛けている事業者は多く存在し、そういった事業者のM&Aも業界再編に合わせて加速している状況です。
業界のニュース
石油業界の再編を振り返る
石油業界は既に再編の終焉を迎えております。現在、国内の石油元売大手は、ENEOS(株)、出光興産(株)、コスモ石油(株)の3社に集約され、国内サービスステーションの大半がこれらの系列です。1994年にピークの60,421ヶ所を数えたサービスステーションは、2024年には27,009ヶ所まで減少、実に30年で「半分以下」にまで集約された計算になります(「資源エネルギー庁 揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)」より)。なぜ、これほどにまで給油所が減ったのか、これまでの石油業界の歴史を遡ってみようと思います。
<1>「特石法」という保護下の崩壊
1990年代前半、当時のサービスステーション経営は、ある意味で「約束されたビジネス」でした。その根底にあったのが「特石法(特定石油製品輸入暫定措置法)」という法律になります。「特石法」とは、ガソリンの輸入を石油精製能力を持つ元売りのみに限定し、商社や流通大手が安価な海外ガソリンを持ち込むことを事実上禁じた法律です。さらに、エリアごとの出店規制や需給調整も機能しており、サービスステーション業界は国の手厚い保護下にある状況でした。そんな中、1996年に特石法が廃止。この規制緩和を機に流通大手がプライベートブランドサービスステーションを開業し、破壊的な安値を掲げ、既存店は価格競争に巻き込まれました。
<2>セルフ給油の登場
1998年には消防法の改正により「セルフ給油」が解禁されました。人件費を削れるセルフ化は一見、福音に見えましたが、セルフ化には、最新の計量機や泡消火設備など、数千万円から億単位の設備投資が必要となり、これがサービスステーションの命運を分けたとも言えます。資金力のある大手特約店はセルフ化して生き残り、投資余力のない個人店は、価格でもコストでも太刀打ちできず、静かにシャッターを下ろしていきました。
<3>地下タンクが突きつけた最後通牒
2000年代に入り、ハイブリッド車の普及でガソリン需要が頭打ちになる中、業界にトドメを刺したのが「地下タンク問題」です。2011年2月、消防法の一部改正(危険物の規制に関する規則)が施行され、40年以上経過した老朽化地下タンクに対し、高精度の油面計設置や改修工事が義務付けられました。この規制対応には数百万円から、場合によっては1,000万円を超える投資が必要とされ「後継者もいない。ガソリンも売れない。そこに1,000万円をかけて店を続ける意味があるのか?」多くのオーナーが廃業を決断したのは、まさにこのタイミングでした。
サービスステーションが挑む多角化戦略と、改正省令が加速させるLPガス市場の再編
こうして「半分以下」にまで縮小したサービスステーション業界ですが、生き残りをかけ、現在、以下のような様々な戦略を駆使して業態転換を進めています。
・収益性・安定性の高いLPガス販売の強化
・洗車コーティング、車検、カーリースなど、カーライフ・トータルサポート業への業態転換
・「立地」という強みを物流拠点や災害時拠点として活用し、キャッシュポイントを増やす
特に、冒頭述べたように、LPガス販売を兼業する企業は未だに多い状況ですが、そのLPガス業界において、2025年4月に改正省令が施行されました。この改正は、業界の不透明な商慣行を是正し、LPガス業界の再編をさらに大きく加速させる要因となっています。
LPガス販売とサービスステーション運営兼業事業者のM&Aにおける業界特有の論点
上述した事例のように、LPガス販売とサービスステーション運営を兼業する事業者によるM&Aは近年増加しています。こうした事業者のM&Aには、業界特有の事情が反映された以下のような特徴が見られます。
<1>サービスステーション事業の「特約店契約」による制約
サービスステーション事業の譲渡においては、石油元売会社との特約店契約が買い手企業選定に大きな影響を及ぼします。特約店契約の制約により、譲渡先が元売会社の意向に沿う企業に限定されるなど、買い手企業を選ぶ上で大きな制約が生じます。
<2>事業を分割して譲渡する「会社分割スキーム」の存在
LPガス事業とサービスステーション事業は、収益構造や必要な設備投資が異なるため、両事業を分割するケースが見られます。
<3>企業評価における閉鎖リスクのディスカウント
企業評価を行う際、将来的な設備更新費用やSSの解体・土壌汚染対策費用などのリスクが、負債として引当処理されます。これにより、将来の閉鎖リスクを考慮し、純資産からディスカウント(減額)して評価される傾向があります。
まとめ
LPガス販売とサービスステーション運営を兼業する事業者のM&Aは、業界再編の加速とともに増加の一途を辿っています。しかし、特にサービスステーション業界においては、特約店契約や閉鎖リスクの財務評価といった業界特有の論点が多数存在するため「M&Aをしたい」と望んでも、これらの課題を乗り越えることは一筋縄ではいきません。このような複雑な論点が多いからこそ、早めにしっかり準備しておくことがM&Aの成功の鍵と言えるでしょう。
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福島県出身。芝浦工業大学システム理工学部卒業後、2022年からスピカコンサルティングの立ち上げに参画。