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2025年8月の製造業M&Aまとめ

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目次

8月の主な公表M&A一覧

2025年8月は20件を超えるM&Aが公表されました。主なM&Aは以下表の通りです。大企業によるTOB(株式公開買い付け)のみならず、中堅・中小製造業のM&Aも多く公表されており、多くの企業にM&Aという選択肢が拡がっていることがわかる月となりました。

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年8月1日

株式会社スクーティー(未上場・東京)

一井HD株式会社(未上場・岡山)

株式譲渡

2025年8月1日

株式会社丸佳製作所(未上場・愛知)

澤久工業株式会社(未上場・愛知)

株式譲渡

2025年8月5日

森田産業株式会社(未上場・大阪)

中央自動車工業株式会社(8117・大阪)

株式譲渡

2025年8月6日

明星電気株式会社(株式会社IHI子会社・7013・東京)

能美防災株式会社(6744・東京)

株式譲渡

2025年8月6日

新潟トランシス株式会社(株式会社IHI子会社・7013・新潟)

株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズグループ(未上場・東京)

株式譲渡

2025年8月8日

株式会社神田鉄工所(未上場・兵庫)

株式会社技術承継機構(319A・東京)

株式譲渡

2025年8月25日

株式会社アルファーシステム(未上場・長野)

株式会社技術承継機構(319A・東京)

株式譲渡

【Pick Up M&A】技術承継機構(NGTG)のM&A戦略!

日本の製造業、とりわけ中小企業の現場には、数十年をかけて磨かれてきた匠の技が眠っています。しかし、その多くは人材不足や従業員の高齢化によって途絶の危機に瀕している現実があります。そこで立ち上がったのが「株式会社技術承継機構(NGTG=Next-Gen Technology & Governance)」です。彼らのビジョンは、技術を次世代に繋ぐことです。単なる資本取引ではなく、経営者の想いと社員の技能を未来に橋渡しすることを使命としています。

技術承継機構のビジョンとM&Aの考え方

技術承継機構は、「日本の製造業の技術を次世代へ繋ぐ」ことを掲げ、製造業における事業承継課題の解決をミッションとしています。単なる企業の買収や規模拡大ではなく、職人技の承継と企業の持続的成長を重視している点が特徴です。

M&Aにおいては、財務や法務の調査に加え、現場の加工能力・工程設計・品質システムまでを精緻に分析し、譲り受けた会社に則した経営統合を実行していきます。さらに、技術者の暗黙知(勘・コツ)を仕組み化し、若手育成へ繋げることで次世代へと橋渡しを進めています。

背景と戦略

日本の製造業は後継者不在と人材不足が深刻化し、長年培われた技術が途絶えるリスクが高まっています。加えて、半導体や電気自動車、FA装置といった成長産業における需要変動、調達リスク、環境規制への対応が経営を圧迫しています。この状況を踏まえ、グループ内で取引先の開拓や技術協力、製造委託等によって顧客とノウハウ連携が可能となり、グループ各社がこれまで以上に業績を伸ばせる戦略を実行しています。

買収後の成長支援に関して

技術承継機構は買収後に段階別に効果的な成長支援をしており、仕組化されたバリューアップマニュアルであるNGP(NGTG Growth Program)を適用しています。

成長支援内容:

譲受~半年

・全社員と面談し、会社の現状を把握 
・実施可能な施策から早期に実行(ITツール活用、 組織体制見直し等) 
・事業計画の策定

半年~2年

・事業計画の実行 
・幅広い成長支援 (バリューアップ)施策を実行

3年目以降

・海外含めた事業拡大  
・更なるM&A

以下、具体的に使用されているNGPの内容になります。

NGP(NGTG Growth Program):

営業

・新規顧客獲得のための営業戦略立案
・ウェブサイトの刷新

開発製造

・製造コストの削減 
・オペレーション最適化、整理整頓はじめ5Sの徹底

人事

・採用強化 
・頑張った人が報われる効果的な人事評価制度 
・従業員教育プログラムの拡充

経営管理

・必要に応じた組織改編、意思決定プロセスの変更 
・予算や設備投資計画の策定、経営数値の管理強化

IT

・各種SaaSなど業務効率用ITツールを低コストで導入 
・自社で生産管理システムやAIを用いた画像検査装置、IoTを用いた現場管理、システムなどを開発し導入

(出典:技術承継機構公式サイト「成長プログラム」)

このように、技術承継機構は中小製造業の基盤技術を継承しつつ、経営基盤の整備を行うための施策を具体的に打ち出しています。また、在籍するメンバーを大切にし、現場力と人材力を磨き上げることこそ成長の源泉であることを示しており、譲り受けた全ての会社の業績向上を目指した経営支援が行われています。

技術承継機構のM&A戦略を踏まえた今後の製造業のM&Aについて

技術承継機構の一連の取り組みは、製造業の事業承継において新たな方向性を創出しました。従来は企業規模拡大や顧客獲得を目的とする事例が多く見られましたが、現場の高齢化が進む現在では、それに加えて技能伝承、人材確保、技術基盤の持続性といった観点が不可欠となります。

特に、AIや自動化を中心としたデジタル技術の導入は、中小製造業でも避けては通れないテーマです。譲受先の現場の見える化を実施し、KPIを可視化するアプローチは、今後のM&Aにおける標準的な統合プロセスになると考えられます。一方で、今後も人材不足はさらに深刻化していきます。M&Aを通じて熟練技術者を確保し、そのノウハウを仕組み化して若手へ継承していくことが、業界再編を推進する大きな原動力となります。つまり、「企業を買う」のではなく、「技術と人をつなぐM&A」への発想転換が求められます。

さらに、顧客基盤の多角化も重要な課題です。特定の産業や大手顧客1社に依存する構造はリスクを増幅させるため、M&Aを通じて顧客や産業分野を広げ、リスク分散と収益性向上を同時に実現するモデルが主流になっていくと予想されます。

業界のニュース

倒産件数が示す「静かな圧力」

2025年8月の企業倒産件数は751件と、今年に入って最少の水準となりました。数字だけを見ると「落ち着きを取り戻した」と捉えられがちですが、1〜8月累計では6,710件(前年比+2.4%)と増加しており、決して安心できる状況ではありません。物価高やエネルギーコストの上昇、人手不足、借入返済の重荷といった構造的な課題が、中小製造業の経営をじわじわと圧迫し続けています。価格転嫁が進みにくい現場では利益率が細り、表面的に倒産件数が減っていても、実際には「なんとか持ちこたえている」企業が増えているのが実情です。こうした“静かな圧力”は単なる数字以上の意味を持ちます。見かけ上の倒産減少の裏で、経営者が真剣に次の一手を模索する局面は広がっており、その兆しを早く捉えて具体的な道筋を示していくことが、今後ますます重要になると感じています。

まとめ

技術承継機構の取り組みは、単なる規模拡大ではなく、技術・人材・地域を未来へつなぐM&A を実践している点に特徴があります。買収後のPMIでは技能承継や人材育成、DX化に重点を置くことで、属人的でない経営体制を構築しています。これは、製造業が抱える課題に対する、1つの具体的な解決策となっています。

また、2025年8月の倒産件数の推移が示すように、表面的には落ち着きを見せても、中小製造業の現場には物価高・人材不足・借入負担といった「静かな圧力」が確実に広がっています。こうした環境下では、経営者が「次の一手」を模索し始める動きが顕在化しており、技術や人を未来につなぐM&Aの必要性はますます高まっています。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

石渡 隆也

神奈川県出身。横浜市立大学院生命ナノシステム科学研究科卒業後、2025年に新卒でスピカコンサルティングに参画。

担当者:石渡 隆也部署:製造業支援部役職:M&Aコンサルタント

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