2025年8月の物流業界M&Aまとめ
躍進する3PL事業者たち
8月も物流業界ではさまざまな形式のM&Aが公表されています。ファンドが関与する案件や、他業種への展開、整備機能の内製化など、その狙いは多岐にわたります。
特に注目すべきは、大手3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業者の動きではないでしょうか。倉庫事業に強みを持つバンスポートを迎え入れたハマキョウレックス、コールドチェーン領域で実績のある山本水産輸送を傘下に収めたAZ-COM丸和、そして宝飾という異業種領域への展開を進めるセンコーグループなど、同じ3PL事業者でありながら、各社のM&A戦略には大きな違いが見られます。
一般的に、成功するM&Aには「縦のM&A」と「横のM&A」という二つの方向性が共通項として挙げられます。
「縦のM&A」とは、既存事業の川上または川下の領域にある企業を買収する形態を指します。たとえば、食品の小売事業を展開する企業が、自社商品の製造を目的として食品メーカーを買収するケースが該当します。物流業界では、ラストワンマイルに強みを持つヤマトが、生産物流という川上領域に強みを持つナカノ商会を譲り受けた事例がその代表です。
一方、「横のM&A」とは、現在と同じ事業領域で活動する企業を、異なる地域で展開することを目的に買収する形態です。物流業界では、和歌山エリアを中心にコールドチェーンを展開していたオプラスを、センコーが譲り受けた事例が該当します。
もちろん、これらの枠組みに当てはまらないM&Aが必ずしも失敗に終わるというわけではありません。しかし、過去に自社で展開した経験のない領域へ進出する場合は、相応のリスクが伴うことも事実です。
その点、今回のハマキョウレックスによるバンスポートのM&Aは、両社の得意とする領域が重なっているうえ、バンスポートがハマキョウレックスの注力エリアである静岡県に限定して倉庫を展開していることから、極めて高いシナジーが期待できるでしょう。
今月の代表的な公表M&A一覧
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
---|---|---|---|
2025年8月1日 | 株式会社バンスポート(静岡県) | 株式会社ハマキョウレックス(9037・静岡県) | 株式取得 |
2025年8月8日 | 株式会社ベリテ(9904・神奈川県) | センコーグループホールディングス株式会社(9069・東京都) | TOB |
2025年7月17日 | 菅原冷蔵株式会社(青森県) | ファーストブラザーズ株式会社(3454・東京都) | 株式取得 |
2025年7月17日 | 株式会社樋口ボディー(佐賀県) | 株式会社柳川合同(福岡県) | 株式取得 |
2025年7月31日
| 株式会社山本水産輸送(岡山県) | AZ-COM丸和ホールディングス株式会社(9090・埼玉県) | 株式取得 |
<2025年8月の物流業界 代表的な公表M&A>
【Pick Up M&A】バンスポート×ハマキョウレックス
2024年8月1日、株式会社ハマキョウレックス(東証プライム:9037、静岡県)は、株式会社バンスポート(静岡県)の全株式を取得し、完全子会社化したと発表しました。
ハマキョウレックスは、日本における3PL事業のパイオニアとして、幅広い商材に対応可能な物流アウトソーシング事業を展開しています。
同社の経営上の強みとして挙げられるのが、「日計収支管理」と「アコーディオン方式」と呼ばれる独自の運営手法です。
日計収支管理は、その名の通り、収支を日次で把握し、日々の改善につなげるという考え方です。多くは日割りの概算で運用されますが、日々の変化に気づけることで、現場の意識向上や早期の問題発見に効果を発揮します。
アコーディオン方式は、日々の物量に応じてスタッフ数を柔軟に調整する仕組みです。前日に予測される物量に基づき人員を微調整することで、無駄な人件費を抑え、コスト最適化を実現しています。
ハマキョウレックスは、過去に当時自社より売上規模の大きかった赤字企業・近鉄物流(現・近物レックス)を買収し、約5年で黒字化に成功した実績を持ちます。こうしたコスト管理手法が、大型M&Aを成功させた大きな要因の一つでしょう。
今回グループ入りしたバンスポートは未上場企業であるため、業績の詳細は公表されていませんが、ハマキョウレックスによるコスト管理手法の導入や、同社の特積み輸送ネットワークとの連携により、今後のさらなる成長が期待されます。
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京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。