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業界別M&A
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2025年6月の物流業界M&Aまとめ

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目次

件数の推移

上半期の物流業界のM&Aを振りかえって

2025年も折り返しを迎えた6月、物流業界では今月も10件を超えるM&Aが公表されました。
今年に入ってからの累計件数は6月末時点で80件を超え、昨年1年間の121件を大きく上回るペースで業界再編が進行しています。

 日本の産業全体でも、後継者不在や事業承継ニーズの高まりを背景にM&A件数は増加傾向にあり、2024年には年間約4,700件、2025年上半期には2,509件(前年同期比+7.1%)が公表されています。しかし、物流業界におけるM&A件数の増加は全産業平均を大きく上回る水準で推移しており、特に中小事業者を中心に再編の動きが急速に高まっている点が特徴です。

トナミと日本郵便の資本提携、日新のMBO、SBSグループによるブリヂストン物流の子会社化といった大型案件も目立ちますが、足元では中小物流企業によるM&Aが件数ベースで増加しており、全体の再編ペースを押し上げる主要因となっています。

背景には、「2024年問題」をはじめ、燃料費・人件費の上昇や深刻なドライバー不足といった業界固有の構造的課題が顕在化していることが挙げられます。さらに、改正物流二法の施行や監査の厳格化といった制度面での規制強化も重なり、物流業界の経営環境は一段と厳しさを増しています。

こうした中、規模の追求や人材確保、収益性改善を目的とした戦略的なM&Aによる再編・統合が、他業種と比較しても非常に活発に進んでおり、厳しい環境の中での生き残りや、さらなる成長を賭けたM&Aが、今後さらに加速していくことが予想されます。

6月の代表的な公表M&A一覧

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年6月6日

有限会社農産ベストパートナー (未上場・熊本県)

株式会社ヤマタネ(未上場・東京都)

異業種M&A/株式取得

2025年6月8日

陽品運輸倉庫株式会社(未上場・千葉県)

三和エナジー株式会社(未上場・神奈川県)

株式取得

2025年6月13日

株式会社アペックス/西金運輸株式会社/有限会社藤和商運/大栄自動車工業株式(未上場/石川県他)

トナミホールディングス株式会社 (6月を以て上場廃止/富山県)

吸収合併

2025年6月13日

株式会社ピアレス (未上場・東京都)

株式会社ヒガシホールディングス(9029・大阪府)

異業種M&A/株式取得

2025年6月16日

株式会社enstem(未上場・東京都)

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社(9147・東京都)

IT企業への資本参加

2025年6月18日

株式会社エコ配(未上場・東京都)

CBcloud株式会社(未上場・東京都)

株式取得

2025年6月27日

株式会社Side Express(未上場・埼玉県)

株式会社Trasaburou(未上場・千葉県)

異業種M&A/株式取得

2025年6月30日

ブリヂストン物流株式会社(未上場・東京都)

SBSホールディングス株式会社(2384・東京都)

株式取得

<2025年6月の物流業界 代表的な公表M&A>

今月は、物流企業による異業種企業の子会社化、異業種からの物流業参入、グループ内での組織再編、物流子会社の取得、さらにはIT企業への資本参加など、スキームや目的が多様化したM&Aが相次いで公表されました。

この背景には、標準的運賃の導入が議論されるなど、業界全体で市場の均質化が進んでいることが挙げられます。その結果、物流企業各社の間では「ただ運ぶだけ」の従来型サービスでは、もはやこれまでのような収益性を維持できないという危機感が高まっています。

こうした危機意識を受けて、中堅・大手物流企業の間では、他社との差別化を図るための戦略づくりが進んでおり、各社独自のビジネスモデルが構築されつつあります。

たとえば、センコーは従来の3PLや物流事業に加えて、保育園や福祉事業などのライフサポート事業を成長の柱に位置づけており、実際にこうした分野の企業を譲り受けることで、運送事業との補完性を活かした多角化を推進しています。

一方、幹線輸送を主力とする中堅のフジトランスポートは、M&Aによってトラック整備機能やディーラー機能の内製化を進めており、本業である運送事業の価格競争力強化を図っています。

そして今月は、まさにこうした業界変化を象徴するようなM&A事例が見られました。その代表的な動きをご紹介いたします。

【Pick Up M&A】ブリヂストン物流株式会社×SBSホールディングス株式会社

2025年6月30日、SBSホールディングス株式会社(以下、SBSHD)は、ブリヂストン物流株式会社(以下、ブリヂストン物流)の66.6%を約80億円で取得する株式譲渡契約を締結したと発表しました。10月のクロージングを予定しており、本件によりSBSHDの連結売上高は5,000億円に達する見込みです。

SBSHDは2003年の上場以来、一貫してM&Aを成長戦略の中核に据えてきました。上場翌年には雪印物流を、さらにその翌年には東急ロジスティックを買収。その後もリコー、東芝、古河といった大手企業の物流子会社を取り込むことで、売上高は200億円から5,000億円規模へと飛躍的に拡大しています。

同社のM&A戦略の特徴として挙げられるのが、株式の66.6%取得という出資比率です。これには元親会社との関係性を維持しながら、配当などを通じて成果を還元する意図が込められており、M&A後も協調的な関係を保つための工夫が見られます。また、単なる資本の移動にとどまらず、荷主ネットワークの内製化と物流機能の最適化を同時に実現する仕組みとして機能しています。

物流業界では近年、共同配送や混載による効率化が求められていますが、荷主企業同士の意向や制約が複雑に絡み合い、全体最適の実現は困難でした。そのような中、SBSHDは中立的な立場から物流子会社を束ね、サプライチェーン全体の最適化に取り組むことで、業界内でも独自の存在感を強めています。

今回のブリヂストン物流の取得は、特に自動車関連の物流領域強化を狙ったものであり、既存の古河物流やNSKロジスティクスなどと連携することで、国内外の自動車産業との接点を一層拡大する構えです。また、ブリヂストン物流の拠点網とSBSHDの既存ネットワークとのエリア補完により、さらなる効率化とシナジーの創出も期待されます。

※本件の背景や詳細については、別途掲載の解説コラムをご参照ください

今後、大手物流企業はM&Aを通じて荷主企業を巻き込みながら、物流の高度化・効率化を一層進めていくと見込まれます。こうした動きの中で、十分な提案力を持たない物流企業は、価格競争に巻き込まれるリスクがさらに高まることが懸念されます。

このような状況下で求められるのは、「運ぶだけ」「保管するだけ」といった従来型サービスからの脱却であり、多少価格が高くても選ばれる、差別化された強みを確立することが必要です。

そのためには、自社のサービス内容や強みを客観的に把握し、競合他社との違いを明確に言語化できる状態をつくることが重要になります。これは、荷主企業への営業活動や運賃交渉においても、「なぜウチを選ぶべきか」を、説得力をもって伝えるための土台となるでしょう。

もちろん、こうした競争優位性を自助努力で築くことは理想的です。しかし、人的・資金的な制約から、必ずしも自力で実現できない場合もあるでしょう。そうした場合には資本政策を活用し、外部の力を取り入れることで優位性を確保するという選択肢も非常に有効なうち手です。自社の立ち位置や強みを見つめ直し、変化に対応する経営が今求められています。

業界のニュース

運送事業許可に「5年ごとの更新制」導入へ、事業制度に30年ぶりの大改革

2025年6月4日、参議院本会議において「改正貨物自動車運送事業法」および「貨物自動車運送事業適正化体制整備推進法」からなる、いわゆる「トラック二法」が可決・成立しました。これにより、トラック運送業の事業許可は、従来の無期限から5年ごとの更新制へと変更されます(施行は公布から3年以内の見込み)。

この制度改正は、1990年の物流二法による規制緩和以来の大きな方針転換であり、全日本トラック協会・坂本克己会長の強い働きかけが実現の後押しとなりました。

今回の改正の柱は以下の3点です。

① 運送事業許可の5年ごとの更新制導入
許可の更新時には、以下の観点から審査が行われる見込みです。
・適正原価を下回る運賃で運送していないか
・運転者の処遇(給与・労働時間)が適正か
・安全管理(点呼・指導・健康診断など)が適切に行われているか

② 再委託の回数制限(2次請けまで)に対する努力義務
多重下請け構造の是正を目的に、元請け事業者には、運送業務の再委託を原則「2回まで」に抑えるよう努めることが求められます。(ただし現状は努力義務に留まる) 

③「適正原価」を下回らない運賃設定の義務化

国土交通省が今後算出・公表する「適正原価」に基づき、運送事業者は継続的にその水準を下回らないよう努めなければなりません。荷主に対しても、その水準に沿った支払いが求められることとなり、従わない場合は是正指導の対象となる可能性があります。(適正原価は、国土交通省が、人件費や車両維持費等を積み上げて地域ごとに算出する方式で、著しくその基準を下回る場合、事業許可の更新を行わない等の対応がとられます)

国は2020年より「標準的運賃」の公表を行ってきましたが、あくまで参考値にとどまっており、法的拘束力がないことから、実態としては依然それを下回る運賃での委託が横行していました。今回の改正は、実効性のある運賃是正策として、荷主・運送事業者双方に適正取引を促す強制力を持った法的枠組みを整備するものとして期待されています。

法改正を受けた物流業界の変化と今後の課題

ではこの法改正を経て、物流業界はどのように変化するでしょうか。

トラック二法に限らず、5月の下請法(下請代金支払遅延等防止法)の改正や、4月の改正物流二法の施行など、昨年の2024年問題に続いて物流を取り巻く環境は大きく変化しています。 

これにより物流企業各社が直面するリスクは、以下の3つが考えられるのではないでしょうか。

①法令対応に伴うコストと労力の増大
たとえば、実運送体制管理簿の作成義務が課されたことにより、運行の都度、書面での委託・金額・荷量・ルートの明記と交付が求められるようになりました。これまで電話や口頭、慣習ベースで行っていた業務に対し、煩雑な書面手続きや記録管理が必要となり、特に中小企業にとっては事務負担とコストの増加が避けられません。

ITシステムでの対応が理想ではあるものの、規模の小さな企業には導入・運用ともに高いハードルがあり、事務要員の確保や業務効率の低下による利益圧迫リスクが懸念されます。 

②法規制強化による「下請け仕事」の限界
法改正では、運送原価の適正性が強く求められるようになりました。これにより、従来のような「庸車(下請け)への丸投げ」によって、元請の取り分を確保するモデルが機能しなくなるケースも増えています。

庸車に出す際の運賃が適正原価を下回る場合、そもそも委託ができなくなり、自社台数の範囲内でしか仕事を受けられないという構造になります。

これは、受注機会の減少や売上の縮小につながり、利益率低下という深刻な影響をもたらします。

 

③一定の台数規模を持たない企業は“仕事すら取れない”時代へ
改正下請法では、二次下請け以降の原則禁止が明確化されました。これにより荷主・元請け企業は、仕事を振る先として「自社で走り切れる体制が整っている会社」を選ばざるを得なくなります。

この結果、一定の規模と稼働力を持たない企業は、荷主から仕事を請けられなくなることが増えるでしょう。実際に、大手荷主がこれまで依存していた大手物流会社を見直し、地場の実運送力を持つ企業へとシフトする動きも現れています。

一方、大手物流会社も「庸車頼み」から脱却するため、自社車両・自社ドライバーの強化に動いています。たとえばSBSホールディングスは、今後ドライバーの3分の1を外国人労働者で補う構想を打ち出し、安定的な輸送力の確保と人材難への対応を進めています。

まとめ 自社で“走る力”が生存と成長のカギ

今後の物流業界では、「自社で走り切れる輸送力を持つこと」が生き残りの条件になると考えられます。
法改正が求める“適正性”に応えるためには、属人的な運用や不透明な委託構造から脱却し、一定の事業規模と管理体制を構築することが必須です。
中長期的には、規模の拡大、IT投資、外国人材活用などを含めた経営戦略の再構築が不可欠であり、企業体力のない事業者は淘汰される厳しい時代へと突入しています。まずは自社の立ち位置や競争力を把握し、今後の成長、事業の継続に必要な競争力を獲得する手法を模索することが求められています。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

上野 空良

京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。

担当者:上野 空良部署:物流業界支援部役職:M&Aコンサルタント

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