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2025年7月の物流業界M&Aまとめ

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目次

ポスト2024

2025年も後半に入り、大手物流企業の第1四半期決算が出揃いました。2025年問題の峠を越えた今期は、各社ともおおむね順調な滑り出しを見せています。中でも、SGホールディングス、NIPPON EXPRESSホールディングス、セイノーホールディングスといった大手各社は、物流需要の回復と業務効率化の進展を背景に、堅調な業績を報告しました。

注目すべきは、こうした好調企業に共通して「戦略的M&Aによる非オーガニック成長」を実現している点です。海外M&Aを加速させるNIPPON EXPRESSホールディングス、C&FロジホールディングスへのTOBを成功させたSGHD、三菱電機ロジを傘下に収めたセイノーHDなど、いずれもグループ入りした企業とのシナジーを強力な成長エンジンとしています。

たとえば、SGHDの2025年3月期第1四半期決算では、営業収益が前年同期比+329億円と増収。この増収の大半を、昨年度グループ入りした名糖運輸・ヒューテックノオリンを擁するC&FロジHDの業績寄与が占めています。主力の宅配便事業の伸びは+11億円にとどまった一方、M&Aを起点としたロジスティクス事業の拡張が収益全体を押し上げる構図となっています。

近年、運送市場全体では輸送トンキロが横ばいで推移しており、トップライン拡大のためには「運賃の向上」と「仕事量の確保」が欠かせません。その手段として、M&Aは極めて有効な選択肢となっており、実際に現在は“M&A巧者がさらに業績を伸ばしている”という構図が鮮明になっています。

各物流企業にとって、今後の持続的な成長にM&Aは不可欠な経営手法の一つであり、実際に多くの企業がM&Aを実施しています。その動きは中堅・中小物流企業にも波及しており、業界全体で機運が高まっています。「自社がM&Aを実行しなければ、他社が実行してしまう」という競争意識が働いており、M&A市場は今後さらに活性化していく見通しです。

7月の代表的な公表M&A一覧

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年7月1日

東宝総合警備保障株式会社(未上場・東京都)

センコーグループホールディングス株式会社(9069・東京都)

株式取得

2025年7月1日

株式会社鈴木商店(未上場・北海道)

栗林商船株式会社(9171・東京都)

株式取得

2025年7月17日

Movianto International B.V.(オランダ)

日本郵船株式会社(9101・東京都)

株式取得

2025年7月17日

中部陸運株式会社(未上場・福井県)

富士興業株式会社(未上場・大阪府)

株式取得

2025年7月31日

アイエスライン株式会社(未上場・大阪府)

株式会社アイシン(未上場・大阪府)

吸収合併

【Pick Up M&A】 中部陸運株式会社×富士興業株式会社

今月は、大手による多角化や海外展開を目的としたM&Aが続くなかで、中小物流企業同士が生き残りと更なる成長を求めて手を結ぶ特徴的な動きも見られました。

その一例が、重量物輸送を手掛ける富士興業(大阪府)による、中部陸運(福井県)の子会社化です。

富士興業はこれまで、鉄鋼や建設資材といった重量物メインに、大型・特殊車両や天井クレーン付き倉庫を活用した輸送を手掛けていました。その強みは、重量物等特殊な荷物にも対応可能なまな板トレーラーや天井クレーンといった装備だけでなく、それらを扱える人材や現場力にもあります。また富士興業はかねてよりIT化に取り組んでおり、誤配防止のための自社システムを有しています。

しかし、2024年問題を越え、労働規制が強まる中で、これまでのような長距離運行が難しくなっており、既存の拠点(大阪・愛知・滋賀)から200km圏内の輸送ネットワークの拡張を企図していました。

一方、福井県でコンクリートパイルを中心に地場輸送を担ってきた中部陸運は、特殊重量物輸送の現場で長年評価を得てきた会社ですが、ドライバーの高齢化やIT対応の遅れが重荷になっていました。労働規制や人材難を受け、この先、単独では立ち行かなくなるという危機感を抱えていたといいます。

そうした中で、特殊重量物輸送という共通項を持つ両社は、互いのニーズを補完する提携を実施しました。

富士興業にとっては拠点網・ネットワーク拡大、中部陸運にとってはIT化・制度強化という相互補完が期待されるM&Aであるといえるでしょう。大手だけでなく、中堅・中小企業の間でも、「共に生き残り、次の成長をつかみにいく」ための動きが加速し始めています。

業界のニュース

経営者が知っておくべき人件費リスク

引越し最大手・サカイ引越センターがドライバーへの未払い残業代を巡って訴えられた裁判が、現在最高裁で係属中です。1・2審ではドライバー側が勝訴し、同社に約1,570万円の支払いが命じられましたが、サカイは「出来高払制賃金は労使合意に基づく正当な制度」として上告。二審から1年が経過した今も最高裁の判断は下されておらず、その判断の行方が注目されています。

本件の焦点は、出来高払いという名の下に法定の時間外手当(通常賃金の125%)を25%にとどめる給与体系が、労働基準法上認められるのかという点です。運送業界では基本給を低く設定し、歩合給と称した手当で賃金の大半を支給するケースも珍しくありません。しかし今回の裁判は、こうした仕組みが“人件費圧縮のための制度”と見なされるリスクを明らかにしました。今後、最高裁がどのような判決を下すのか、とても注目の事案となっております。

運送業界は、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、「残業できない・稼げない」という現場の声も強まっています。一方で、トラック運送業の有効求人倍率は2.12倍と高止まり(全業種平均1.2倍)。まさに長時間労働依存モデルの転換期にあると言えるでしょう。

さらに、今後は運送事業許可の5年更新制導入など、コンプライアンスを満たせない企業は市場から退出を迫られる可能性も出てきています。適法化やコンプライアンス遵守はもはやコストではなく、企業として生き残るための「投資」と捉えるべきではないでしょうか。

まずは、自社で整備している給与制度・労務ルールが、現在の法令に照らして適法かどうかを確認してみましょう。従業員の定着や満足度向上のために導入した制度であっても、運用次第ではリスクになり得ます。

簡易チェックリスト

  1. 完全歩合給を採用していないか

    (現在、完全歩合は違法です。最低賃金の遵守および「保障給」の設定が必須です)

  2. 出来高払いを理由に、残業代を支給していない部分はないか

    (出来高払いを採用していても、法定の割増残業代(通常賃金×1.25)を払う必要があります)

  3. 実際に支払っている賃金が、都道府県別の最低賃金を下回っていないか

    (特に、基本給が低く歩合給が中心となっている会社は注意が必要です)

  4. 荷待ち・渋滞などの時間を、労働時間に算入していない運用になっていないか

    (会社の指揮命令下にある時間は、原則“労働時間”として扱われます)

  5. “みなし残業代”を採用している場合、基本給とみなし分が明確に区分されているか

    (NG例:「基本給 35万円(残業代込み)」のような包括表記)
    (みなし残業代を除いた実質の基本給が最低賃金を割り込んでいないかもチェックしましょう)

いかがでしたでしょうか。

特にみなし残業代を採用している企業さまは、「本当に今の設計で問題ないのか?」と不安に感じられるケースも多いかと思います。
しかし、こうした労務面の整備は企業経営において非常に重要であり、不備があるまま放置してしまうと、未払い残業代請求などの訴訟リスクを抱え込むことになります。

 近年、M&Aの現場でもコンプライアンス重視の流れが加速しており、労務管理が不十分な会社は、買収価値が下がる/買収監査段階で破談となるといったケースが散見されます。

とはいえ、「全てが完璧でなければM&Aができない」というわけではありません。
実際、当社が支援したケースでは、これまで点呼記録すら整っていなかった運送会社が、M&Aを機に制度整備を進め、適法化を実現したという事例もあります。

 まずは自社の労務ルールや給与体系が現行法に適合しているかを確認することが第一歩です。

もし判断が難しいようであれば、一度、社会保険労務士など専門家へご相談されることをお勧めいたします。

まとめ

2025年7月の物流業界M&Aは、大手による海外展開・多角化戦略に加え、中堅・中小企業同士の生き残り・成長を狙ったM&Aも目立ちました。特に、戦略的M&Aを通じた非オーガニック成長が大手企業の業績を押し上げる一方、中小企業においても互いの強みを補完する提携が進んでいます。

一方で、業界全体における人手不足や長時間労働の課題は依然として大きく、サカイ引越センターの未払い残業代裁判が示すように、労務管理や給与制度の不備は企業リスクとして経営に直結します。

まずは自社の内情を整理し、業界を取り巻く環境変化に対応する経営が、今求められています。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

上野 空良

京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。

担当者:上野 空良部署:物流業界支援部役職:M&Aコンサルタント

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