物流業界の2025年3月〜5月の主なM&A
物流総合効率化法と貨物自動車運送事業法のいわゆる新物流二法が4月に施行され、物流業界が大きな変革を迫られる中、2025年3月~5月のM&A件数は公表されているものだけで50件を越える結果となりました。前年に続き多くのM&Aが成立し、過去最高の件数を更新する勢いです。また多くの上場大手企業も積極的にM&Aを活用しており、業界全体で盛り上がりを見せています。
2025年3~5月の主なM&A
公表日 | 譲渡企業 | 譲受企業 | 形式 |
---|---|---|---|
2025年3月3日 | 山昭運輸株式会社 | トナミ国際物流株式会社 | 組織内再編 |
2025年3月4日 | 平成運輸株式会社 | ツカサホールディングス株式会社 | 株式譲渡 |
2025年3月10日 | LBC Tank Terminals Group Holding Netherlands Coöperatief U.A. | 株式会社商船三井 | クロスボーダーM&A |
2025年3月13日 | 株式会社新興運輸 | 八潮運輸株式会社 | 株式譲渡 |
2025年4月1日 | 株式会社智商運輸 | 株式会社Univearth | 株式譲渡 |
2025年4月25日 | 株式会社キョクトウ(アーカイブ事業) | 株式会社ヤマタネ | 事業譲渡 |
2025年5月13日 | 株式会社JDSC | AZ-COM丸和ホールディングス株式会社 | 資本参加 |
2025年5月29日 | 加藤運輸有限会社 | 磐栄ホールディングス株式会社 | 再生型M&A |
<図1:2025年3~5月の主なM&A>
特にこの3か月は「業界再編の加速」を象徴するような事例が並びました。注目すべきはスキームのバリエーションの多さです。図1をご覧いただきますと、同業同士のM&A、海外M&A、異業種の譲受、物流子会社の切り離し、再生型M&A、IT企業への出資、組織内再編など、あらゆるスキームでM&Aが実行されました。これは他業種と比較しても珍しく、物流各社が“自社のあるべき姿”を検討し、それぞれに合った戦略を積極的に実行していることがうかがえます。また、実業同士のM&Aに目を向けると、その譲渡企業の売上が数十億規模になっており、中小零細企業だけでなく、中堅企業、準大手企業と言われる層まで譲渡の動きが活発化し、再編が成熟期に近づいている印象を受けます。
その中でも珍しい事例は株式会社Univearth(大阪、以下「Univearth」)と株式会社智商運輸(岡山、以下「智商運輸」)の資本提携です。これまで物流企業がIT企業に出資をする(図1のAZ-COM丸和HDと株式会社JDSCのような)ケースはありましたが、本事例はIT企業が逆に実業を譲り受けるという非常に珍しいケースとなりました。
Univearthは2019年に設立され、千葉道場ファンドやGREE Venturesなどの有名ファンドから出資を受けているITスタートアップ企業です。主なサービスは車両手配、支払業務、その他データ管理等、物流業務のDX化のソフトである「LIFTI」を提供しています。同社は代表の谷口氏が元々トレーラーの長距離ドライバーであり、その時に業界特有の不便さや大変さを経験し、この状況を打開し物流業界をより良い業界にしたいという想いから創業しています。智商運輸の河合社長とは紹介者を介して出会い、谷口社長の熱い想いに河合社長が共感し、資本提携するに至りました。智商運輸は会社も順調であり、河合社長自身も51歳であったため、一見するとM&Aをする必要のない会社と思われていましたが、未来を見据えて手を組むことが自社や物流業界全体にとって良いのではないかと思い、共に歩んでいく決断ができたそうです。
この度の新物流二法の内容からもうかがえるように、物流業界のDX化は国も大きな柱として掲げており、現場では避けて通れない内容となっています。ただ、中小企業がDXに投資することは非常に高いハードルである現状もあり、本事例はそれを資本提携で実現する素晴らしい事例となりました。実際にIT企業から物流企業を譲り受けたいというニーズはスピカコンサルティング(以下、当社)にも多く寄せられており、今後も同様のスキームは増えていくでしょう。
スキームのバリエーションが増えてくるという事は経営の選択肢の幅が広がるという事で、これ自体は歓迎するものではあります。しかしながら、中堅・中小物流経営者は様々な情報を収集し、時代の波に乗り続けなければいけないということにもなります。これらの情報格差はじわじわと企業格差に繋がることが予想されます。
物流業界の注目ニュース
5月27日の衆院本会議にてトラック新法案が可決(執筆時点で参院本会議でも可決)。これは物流業界での非常に大きなニュースとなりました。トラック新法の主なポイントは①事業許可の5年更新制、②適正運賃の確保、③下請け制限となります。
①はその名の通り、事業許可を5年ごとに見直され、様々な条件をクリアしてようやく許可の更新、事業の継続ができるというものです。その具体的な審査内容は定まっていないものの、3年以内にスタートすることが発信されております。
②は国が決めた適正原価を下回らないことを義務化するというものです。これにより、事業者が利益を確保できるようになり、収益や財務体質の改善が期待されます。
③については下請けを2次請けまでにすることを努力義務とし、長らく問題視されていた多重下請け構造にメスをいれるという内容になっています。これらは「ドライバーの幸せ」を目的とした全日本トラック協会(以下、全ト協)の坂本会長の肝いり法案であり、早いスピードで可決となりました。これから数年をかけて現場の意見を吸い上げ、どのように運用されるかが決まっていくため、今後もその動向は見逃せませんが、物流業界に対する国からの強い覚悟も感じさせられるニュースとなりました。
ではこの新法を物流事業者はどのように受け止めるべきなのでしょうか。
一見しますと、多重下請け構造が解消され、適正な運賃を得られるようになり、事業者にとって非常に幸せな法律のように感じます。しかし、場合によっては「逆に経営のハードルが上がるのではないか?」という逆の見方を筆者はしています。確かに、仕組み上は様々なことが強制され、良くなるイメージは沸きますが、反対に“その制度に沿えるような会社にならなければいけない”という事にもなります。来年には一定の要件を満たした荷主側にはCLOが設置され、より物流についての知識を得、物流事業者への見方が厳しくなります。
例えば、3次、4次で請けていた企業が何もせずに2次請けに上がれるというほど簡単ではありません。今後は、物流の知識を付けた荷主がそれぞれの基準を設け、独自の管理や記録方法を定め、それに対応できる物流企業を選ぶこととなります。その際に荷主から選ばれる会社になっているかどうかがとても重要です。3年の猶予、や努力義務という言葉にとらわれず、早く準備することを推奨します。
2024年問題と言われる労働時間規制の対応も数年前から言われていたことではありましたが、しっかりと準備をし、対応していた企業と2024年4月から対応をし始めた企業とではスタート地点が違い、大きな差がついています。それに加えて新法も今回のように制定されていくため、はやめはやめの準備をしていきましょう。
物流業界は業界再編の真っただ中であり、その変化も非常に速いスピードで進みます。何から始めればよいかわからない場合は、まずは“自社の立ち位置と現在価値”を知るようにしましょう。客観的に自社を把握し、今後のうち手を考え、経営していくことが大切です。
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石川県出身、東京大学工学部卒。2010年に野村證券に入社し、その後土木資材メーカーで副社長となり経営に参画。2016年に日本M&Aセンターに入社し、入社以来一貫して業界特化型のM&Aに従事。2019年には全社MVPを受賞し最年少で部長職となる。2023年スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。