2025年6月〜8月の主な物流業界M&A
2025年6-8月の物流業界のM&A件数は24組(公表ベース)
自社グループの吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで24件となり、前年同期間の28件と比べてやや微減ですが、ほとんど横ばいの件数となりました。1カ月に10件弱のペースでM&Aが公表されており、非公表のものも相当数あることを考えると、引き続きM&Aが高頻度で起きていると言えます。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年6月18日 | 株式会社エコ配(非上場・東京) | CBcloud株式会社(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月27日 | 豊栄運輸 有限会社(非上場・広島) | 株式会社肥後産業(非上場・鹿児島) | 株式譲渡 |
2025年6月30日 | ブリヂストン物流株式会社(非上場・東京) | SBSホールディングス株式会社(2384・東京) | 株式譲渡 |
2025年8月1日 | 株式会社バンスポート(非上場・静岡) | 株式会社ハマキョウレックス(9037・静岡) | 株式譲渡 |
2025年8月21日 | 株式会社山本水産輸送(非上場・岡山) | AZ-COM丸和ホールディングス株式会社(9090・埼玉) | 株式譲渡 |
ブリヂストン物流から見るサプライチェーン物流の再編
大型の物流子会社切り離しM&Aが発表されました。SBSホールディングス(以下、SBSHD)は、ブリヂストンの子会社であるブリヂストン物流株式の66.6%を譲り受けることに合意し、株式譲渡契約を締結したと発表しました。SBSHDは、2024年12月期の売上が4,481億円であり、本件実行後、ブリヂストン物流の売上が加わることで、連結売上高で5,000億円に到達する見込みとなります。
本件のポイントは、「サプライチェーンの物流M&A」です。SBSHDの直近のM&Aを見てみると、2021年にグループ入りをした古河物流、2024年のNSKロジスティックスはいずれも自動車部品関連に強みを持つ物流企業であり、今回のブリヂストン物流がグループに加わることで、自動車という軸におけるサプライチェーンの強化を実現します。独立した物流子会社同士では、共同配送などのサプライチェーン全体での効率化を図るために、それぞれの親会社(各メーカー)の承認を必要とし、実現が難しいような状況があります。これを各メーカーがそれぞれ物流子会社を運営している状況ではなく、SBSHDが中心となり、サプライチェーン全体での物流という視点を持つことで、必要な設備投資の強化、付加価値の向上を狙っていくことが可能になるということです。
さらに、今回は66.6%の株式取得と発表をしていることもポイントです。実は、「66.6%」の譲受けは、過去のSBSHDのM&Aに多く見受けられます。直近で実行しているリコーロジスティクス、東芝ロジスティクス、古河物流、NSKロジスティクスはいずれも66.6%の譲受けとなっています。この意図としては、33.4%を残すことで、元の親会社(メーカー)との良い関係性が保たれ、物流子会社の成長に向けて同じ方向を向くことができることがあげられます。成果を上げれば、配当という形で、M&A後も元親会社(株主)に対して収益還元をすることができるためです。先に記載した通り、従来の枠組みにとらわれない物流を再設計することで、それぞれの会社はさらに発展をし、その成長分も元親会社が受け取ることができることで、それぞれにとって良い形を目指すための意図が66.6%に込められています。
積み荷ごとに進んでいく業界再編
先で紹介したようなサプライチェーンの最適化を目指すような動きで、物流業界の再編は進んでいます。物流子会社の切り離し型のM&Aはそれを象徴する事例と言えますが、昨年では三菱電機の子会社である三菱電機ロジスティクスがセイノーHDのグループになりました。三菱電機ロジスティクスは売上1,350億円の巨大企業です。そんな巨大企業ですら大手へのグループ入りを選択し、結果として業界再編は加速しています。
サプライチェーン物流の最適化を進めていくうえで、経済産業省は「フィジカルインターネット」という業界が垂直水平統合された物流網の構築を進めており、2040年までの実現に向けて動き始めています。その中で、いくつかの特定の荷主の業界については、その荷物を扱う事業者でワーキンググループ(部会)が立ち上がっています。①スーパーマーケット(加工食品・日用雑貨)②百貨店 ③建材/住宅設備 ④化学品 ⑤医薬品 ⑥家電の6つです。これらの業界のサプライチェーンは、他の荷主業界よりも早く業界再編が進む可能性が高いと言えるでしょう。
国が先導して取り組んでいくことは、必ず業界の環境変化に作用します。どのように業界が変わっていくのか?自社がそのなかでとりうる選択肢はどんなものがあるのか?しっかりと整理して自社に合った戦略を選択していくことが肝要です。
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群馬県出身。実家は7代続く水産業の卸売り。
早稲田大学卒業後、新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。2021年度には同社で最も多くの物流業界M&Aを成約へと導いた。2023年よりスピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。