2025年6月の食品業界M&Aまとめ
6月の主な公表M&A一覧
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで18件でした。これにより1~6月の累計件数は79件となりました。なお、前年同月は9件、前年1~6月の累計件数は64件となっており、明らかに食品業界のM&Aは増加傾向といえるでしょう。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年6月2日 | 相生ユニビオ株式会社(非上場・愛知) | 株式会社OICグループ(非上場・神奈川) | 事業譲渡 |
2025年6月2日 | 有限会社ノース・カントリー(非上場・北海道) | 株式会社竹下製菓(非上場・佐賀) | 事業譲渡 |
2025年6月2日 | 持留製油株式会社(非上場・鹿児島) | ボーソー油脂株式会社(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月2日 | 株式会社グランキュイジーヌ(非上場・東京) | 株式会社魁力屋(5891・京都) | 株式譲渡 |
2025年6月3日 | 株式会社城山ストアー(非上場・鹿児島) | 株式会社西原商会(鹿児島・非上場) | 株式譲渡 |
2025年6月4日 | 森谷食品株式会社(非上場・北海道) | 生活協同組合コープさっぽろ(北海道・非上場) | 株式譲渡 |
2025年6月5日 | 株式会社甲羅(非上場・愛知) | 株式会社ヨシックスフーズ(3221・愛知) | 事業譲渡 |
2025年6月6日 | 有限会社農産ベストパートナーズ(非上場・熊本) | 株式会社ヤマタネ(9305・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月6日 | 株式会社弁天堂(非上場・熊本) | 株式会社フードラボ合志(非上場・熊本) | 株式譲渡 |
2025年6月10日 | MILIFEPLUS株式会社(非上場・広島) | 非公表 | 事業譲渡 |
2025年6月12日 | 株式会社セブンズ(非上場・滋賀) | マリンフード株式会社(非上場・大阪) | 株式譲渡 |
2025年6月12日 | 株式会社三協食鳥(非上場・兵庫) | 株式会社トーホー(8142・兵庫) | 吸収合併 |
2025年6月17日 | EXAMAS JAYA SDN. BHD.(非上場・マレーシア) | 株式会社ヨシムラ・フードホールディングス(2884・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月17日 | EQUIPMAX PTE. LTD.(非上場・シンガポール) | 株式会社ヨシムラ・フードホールディングス(2884・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月20日 | Riga Bay Aquaculture,AS(非上場・ラトビア) | MusholmA/S(非上場・デンマーク ※株式会社オカムラ食品工業子会社) | 51%株式譲渡 |
2025年6月25日 | 株式会社L’ATELIER de SHIORI(非上場・東京) | 株式会社クラダシ(5884・東京) | 株式譲渡 |
2025年6月25日 | 株式会社チモトコーヒー(非上場・東京) | 株式会社西原商会(非上場・鹿児島) | 株式譲渡 |
株式会社チモト商店(非上場・静岡) | |||
2025年6月30日 | Bubbies Homemade Ice Cream & Desserts Inc.(非上場・アメリカ) | 丸紅株式会社(8002・東京) | 株式譲渡 |
<2025年6月の食品業界公表M&A>
今月公表されたM&Aの中で注目したいのは、魁力屋(5891・京都)によるグランキュイジーヌ(未上場・東京)の譲受です。
魁力屋のIRによれば、外食産業の中でもラーメン市場はまだまだ寡占化が進んでおらず、シェア拡大の余地が大きいマーケットと捉えているとのことです。そして、今後も優良な独立ブランドをグループに迎え入れていく第1弾が本M&Aであると公表しています。
譲渡企業のグランキュイジーヌは「肉そばけいすけ」等の5つのブランド、直営店19店舗を展開しています。売上高16億円、営業利益7千万円、純資産が2億861万円に対して、取得価格が9億7100万円となっており、7億6000万円超の営業権をつけたM&Aとなりました。
この1年少しの間、大手企業による有名ブランドのM&Aが増加しており、買収時の評価額も上がっている傾向にあります。ブランド力のある中堅・中小企業が、大手資本の傘下のもと更なる成長していく流れが今後も加速していくことが予想されます。
業界のニュース
68万人ショック到来。2024年の出生数は遂に70万人割れ。
2025年6月、厚生労働省から『令和6年(2024年)の人口動態統計(概数)』が発表されました。出生数は68万人、合計特殊出生率(一人の女性が生涯で産む子どもの平均数を示す指標)は1.15人となり、どちらも過去最低を記録しています。人口維持のために必要な合計特殊出生率が2.07と言われていることに対し、実態が大きく乖離していることがわかります。一方で、2024年の死亡数は160万人超と過去最多を記録。この一年の出産数から死亡数を差し引いた自然増減数は、マイナス91万人となりました。食品業界は「胃袋の数」が市場に大きな影響を与えるため、当然ながら影響は大きいと言えます。
今後もこの流れが続く中で、新しい商機を見つけられるかどうかが各社の課題となっています。例えば、少子化だからといって、必ずしも乳幼児向け食品に未来がないわけではありません。共働き世帯の増加など社会の変化に合わせて、子供1人あたりにかける費用は上がっており、粉ミルク市場などは堅調に伸長しています。森永乳業も2022年に一度は撤退したベビーフード領域に再参入しています。森永乳業が市場を牽引するジュレの製造技術を活用し、海外では一般的な口栓付きのパウチタイプゼリーを展開することで、外出時などでの利便性が高く、より子育てしやすい環境づくりに貢献していくとされています。
また、新しい商機を見つけるために積極的に活用されるのがM&Aです。大手各社は、まだまだ成長余力がありながらも、自社単独資本だけでは成長のチャンスを十分に掴めていない優れたブランドを持つ中堅・中小企業を求めています。直近のM&Aで評価額が高まっているのはその期待の表れでと言えるでしょう。将来的に得られる利益で十分に投資回収ができることを見込んでの評価となっています。食品業界で、より成長を求める中堅・中小企業のオーナーの皆様には、最適なパートナー探しのタイミングが来ています。2025年のM&A件数は冒頭記載の通り、前年を大きく上回るペースで推移しており、今後しばらくはこの傾向が続くことでしょう。
まとめ
6月になり、ようやく備蓄米の放出などコメの価格が3ヶ月ぶりに低下したといったニュースも入ってきました。コメに限らずまだまだ不安定な世界情勢のもと、物価が安定せずにコスト高に苦しんでいる中堅・中小企業のオーナーは多いと思います。そこに加えて発表された大きな人口減少は、将来的な食品業界への先行き不安を感じさせるニュースだったのではないでしょうか。しかし、ピンチはチャンスです。大手各社も将来的な生き残りをかけて、安定した収益へと繋がるブランド力のある企業を求めています。従前は、事業価値を算定する際に収益力の3~5年分相当で評価されることが多かったのですが、近年はその倍率が高まっている傾向にあります。
安定した収益がありながらも、自社単体での成長スピードにもどかしさを感じていたオーナー様にとっては、大手企業との資本業務提携により、単独では実現が難しかった未来を実現できる可能性が高まっています。M&Aが活発化している今だからこそ実現可能な成長戦略をこの機会に考えてみてはいかがでしょうか。
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宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。