2025年2月の食品業界M&Aまとめ
2025年2月の食品業界のM&A件数は13組(公表ベース)
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡がなされた件数は公表ベースで13組となりました。なお、前年同月は12組であり、大幅な増減は認められませんでした。
本年1月にはなかったクロスボーダー案件ですが、本年2月ではアメリカ国内にて寿司店9店舗を展開するMikuni Restaurant Grop Inc.を、ドン・キホーテなどを展開するパンパシフィックインターナショナルが譲り受けました。
近年では、ゼンショーホールディングスやワタミによるアメリカ国内の寿司事業の譲り受けなど行われており、国外寿司マーケットへの進出という動きが見られています。
トランプ大統領就任なども含め不確定要素が多かった本年一月を乗り越えたことで、同様のクロスボーダーや海外事業に関する進行中のM&A案件に動きが出てくるか今後注目です。
今月の公表M&A一覧

今月の公表M&Aにおいて取り上げたいのは、プライム上場企業である稲畑産業株式会社が連結子会社の大五通商株式会社を通じて株式会社佐藤園の全株式を取得した事例です。
稲畑産業株式会社は、2030年頃のありたい姿である長期ビジョン「IK Vision2030」を目指す第三ステージとして、2024年4月より、2027年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画「New Challenge 2026(以下、NC2026)」を推進しNC2026における成長戦略の一つとして「投資の積極化による収益拡大」を掲げており、本件はこの戦略に沿ったものです。
生活産業ビジネスにおける食品分野では、農産品、水産品の栽培・生産から加工・販売に至るまで、稲畑産業グループが一貫してマネジメントを行う垂直統合型の体制を構築することで(川上・川下領域の強化)、シナジーの拡大や能力及び付加価値の向上を図っています。
一方で、譲渡企業である佐藤園は茶の生産量が国内一の静岡県を中心に、主に茶の栽培・製造販売を行っており、ECサイトやカタログ通販を通じた販売に強みを持っている企業です。
緑茶市場は国内で安定した需要があるほか、海外への輸出を中心に伸長が続いており、財務省貿易統計によると、緑茶の世界向け輸出量は平成18年の1,576トンからおおむね右肩上がりに上昇し、令和6年には約5倍に当たる7,770トンとなっており、さらなる拡販予知が大きいと考えられます。
今回の佐藤園の株式取得により、稲畑産業株式会社の海外ネットワークを利用した販売網の拡大を目指せます。また、佐藤園のECサイトやカタログ通販といった強みを活用し、稲畑産業の取り扱う商品の販売ルートの獲得も見込めます。
製造と販売という垂直統合の動きと考えられる本件と類似した事例として、前月に行われた株式会社神戸物産(業務スーパー)による上原食品工業株式会社(レトルトカレーなどの製造)のM&AによるPB商品の強化などがあげられ、垂直統合を目的とした同様の動きは引き続き増えていくものと予測されます。
原材料高騰による利益圧迫とその対策
昨年より食品業界の問題として「原価高騰」が頻繁に話題に上がっています。
スーパーでのコメの平均価格(5キロ当たり)は2025年2月10日~同16日の一週間において販売価格平均5キロあたり3,892円となっています。
これは7週連続値上がりとなり、前年同時期と比較すると5キロあたり2.000円程度で推移しており実に90%以上の驚異的な値上がりとなっています。
コメ以外にも、円安傾向による輸入調達コストの高騰や人件費・物流費の高騰により多くの原材料が高騰しています。利益率がおおむね5~10%程である食品業界において、これらの原材料費高騰は利益圧迫に直結してくる課題となります。
これは、食品メーカーにおける動きにも実際に表れており、帝国データバンクによる国内主要食品メーカー195社を対象に行われた調査では、2月に値上げされる食品品目は併せて1,656品目となり、1月に続き2カ月連続の1,000品目超えとなっています。さらに、すでに判明している今年一年間の値上げ予定品目は8,800品目余りに上り、現在のペースが一年を通して続く場合、値上げ品目の総数は2万品目に達する可能性すらあります。これは去年一年間で値上げされた1万2500品目を大幅に超えるペースであり、食品メーカーの利益圧迫は大きな課題となっていることがわかります。
まとめ
直近の原材料費・人件費・輸送費などの高騰という課題が浮き彫りになってくる中で、食品業界の企業では対応に迫られています。
食品業界では、今月のM&Aで取り上げた「垂直統合」による内製化や、従来多く見られたポートフォリオ拡大(事業の多角化)ではなく、注力分野を伸ばすための周辺領域を取り込むM&Aや、自社が運営するよりも他社が譲り受けたほうが成長を見込める事業の切り離しといった、ポートフォリオの再整理が進んでいます。この新しいトレンドを我々は「ポストポートフォリオ戦略」と呼んでおり、上にあげた直面するリスクが解消される見込みが立たない現状において、今後さらに加速していくのではないかと考えています。
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兵庫県出身。自身の経営する会社を譲渡後、業界特化型のスタートアップにて法人営業およびPdMに従事。また、講師として業界課題解決セミナーに複数回登壇。300社以上の業務改善支援の実績がある。2024年スピカコンサルティングに参画。