業界別!24年12月〜25年2月の主なM&A<物流業界編>
24年12月〜25年2月の主なM&A事例
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲渡企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年2月26日 | トナミホールディングス株式会社 | 日本郵便株式会社 | 株式譲渡 (TOB) |
2025年2月7日 | Morrison Express Worldwide Corporation (台湾企業) | SGホールディングス株式会社 | 株式譲渡 |
2024年12月27日 | ニコム物流株式会社 | 八潮運輸株式会社 | 株式譲渡 |
2024年12月9日 | 株式会社ヤマヒロ | マルソー株式会社 | 株式譲渡 |
2024年12月1日(実行日) | 株式会社ナカノ商会 | ヤマトホールディングス株式会社 | 株式譲渡 |
業界再編を象徴とするM&Aの事例が起きた3カ月だったと言えるでしょう。12月1日に実行されたナカノ商会の株式譲渡は業界全体への大きなニュースとなりました。売上867億円、営業利益46億円(2023年9月期)のオーナー会社が株式を譲渡しました。その2か月後、今度は上場企業同士のM&Aが発表されました。路線会社として老舗企業であるトナミホールディングスが日本郵便の子会社になることが発表されました。また、中小中堅企業の統廃合も加速をする動きを見せています。12月にM&Aを発表した上図の八潮運輸(埼玉県)/マルソー(新潟県)はいずれも100億円規模の地場中堅企業であり、M&Aによりグループを増やしている企業です。中小企業が中堅企業とグループとなり、共に成長を図っていく形のM&Aも引き続き増加しています。
代表的な事例「株式会社ナカノ商会×ヤマトホールディングス株式会社」
ナカノ商会は1988年に設立され、36年で売上867億円まで成長をした企業です。ヤマトホールディングスは今回ナカノ商会の87.7%の株式を取得し、譲渡価格は469億円(100%換算だと535億円)という大きな取引となりました。参考までの比較ですが、上場企業である澁澤倉庫の2025年3月18日終値の時価総額が513億円であり、このことからも取引の大きさが分かるかと思います。
2社の今回の狙いとして様々なものがありますが、大きな点において物流の上流と下流が手を組むことがあります。『サプライヤー→メーカー→卸売→小売』までの物流に強みを持つナカノ商会と『小売→店舗→消費者』への物流に強みを持つヤマトホールディングスがグループになることで、サプライチェーン全体としての物流提案をすることが可能になりました。本件の先の展望として、ヤマトホールディングスはLLP(リードロジスティクスパートナー)という単語を用いて、「お客様の物流の管理・運営だけでなく、企画や戦略構築にも参画・支援するパートナー」を目指していくとしています。ナカノ商会としてもオーナー企業からの脱却を遂げ、売上1.7兆円企業の社内資源を活用できることになりますので、今までと異なるステージでの経営が始まります。上場企業とのM&Aは譲渡側の従業員側は、「上場企業グループの社員」になれるというメリットがあります。
大手同士のM&Aは、それまで色々なしがらみの中で効率化できなかった点などが解消される可能性があり、消費者を含む物流全体の改善や、お互いのノウハウの共有による進化が期待でき、本件も今後の展開が期待されます。
業界特有のニュース
2024年4月26日に成立した改正物流二法が2025年4月より施行されます(一部は2026年4月施行予定)。新物流二法として話題に上がっていたこの改正が業界にどのような変革をもたらすのか注目されます。役務内容や対価等についての書面を交付する点や、元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けることなどは、下請け構造を変革する可能性があります。また、荷主に向けた規制的措置が取られていることも特徴的です。今回の改正の背景として「物流の効率化、商慣行の見直し、荷主・消費者の行動変容について、抜本的・総合的な対策が必要」と国土交通省も声明を出しています。
先で紹介したヤマトホールディングスのLLP(リードロジスティクスパートナー) という考え方は、この声明に沿った在り方であると言えます。物流事業者・荷主企業・消費者を一体とした物流構築の視点を持った提案をしていくことが求められます。このように荷主の物流への理解を事業者からけん引できる企業に注目が集まります。1990年の物流二法の制定による運送業界への参入障壁の低下から事業者数は急増しました。今回も業界構造に大きな影響を及ぼすと思われますが、その中で業界をけん引していく企業になる、もしくはけん引する企業と共に成長していくことが物流事業者に求められています。
まとめ
2024年の改善基準告示(2024年問題)により、業界構造の変革に加速が起きています。事業者同士が手を取り合い、新しい物流網を構築していく姿は、物流におけるインフラ作りであると言えます。インフラとしての物流提案は、一つの運送としての提案よりも付加価値が高いことは想像に難くありません。物流インフラは、1社で作ることはできず、M&Aによる経営統合やフィジカルインターネット構想、コンソーシアム構想が加速しています。業界の流れを把握し、時代の流れに残されないように自社に必要な動きをしていくことが重要です。
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群馬県出身。実家は7代続く水産業の卸売り。
早稲田大学卒業後、新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。2021年度には同社で最も多くの物流業界M&Aを成約へと導いた。2023年よりスピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。