業界別!24年12月〜25年2月の主なM&A<食品業界編>
24年12月〜25年2月の主なM&A事例
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2024年12月5日 | 株式会社スーパーヨシムラ | 株式会社クスリのアオキホールディングス | 株式譲渡や事業譲渡 |
2024年12月27日 | キラメキノ未来株式会社 | 株式会社吉野家ホールディングス | 株式譲渡 |
2025年1月22日 | 上原食品工業株式会社 | 株式会社神戸物産 | 株式譲渡 |
2025年2月4日 | 加ト吉水産株式会社 | 寿がきや食品株式会社 | 商標権譲渡 |
24年12月〜25年2月の主なM&A事例
2025年2月に発表された消費者物価指数によればコメ価格は前年対比+70%に達しています。こうした原材料の高騰や物流費などコストが大きく上昇することで経営の舵取りが難しくなっているなか、人口減少や賃金UPに伴い、採用面でも苦労する企業が増加しています。そのような中で各社は『限られたリソース』を『どの領域』に集中させるのかに奮闘しており、24年12月~25年2月は子会社の切り離しも5件ありました。またクスリのアオキホールディングスがスーパー関連のみで7社の株式譲渡や事業譲渡を発表した事例など、特定の領域に注力していくM&Aが多く見られた期間となりました。
代表的な事例「キラメキノ未来×吉野家ホールディングス」
近年、吉野家ホールディングスはラーメン領域に力を入れています。吉野家ホールディングスは2016年に有名ラーメン店の『せたが屋』、2019年には『ばり嗎』や『とりの助』を運営するウィズリンクを譲り受けました。また、2024年5月にはラーメン店向けに麺やスープなどを製造する宝産業を譲り受けています。この流れで今回、ラーメン店「キラメキノトリ」を運営するキラメキノ未来をM&Aで譲り受けました。
今回のM&Aにより、吉野家ホールディングスのラーメン事業における店舗数は合計で国内95店舗、海外34店舗で合計129店舗となりました。前述の通り、コメの価格が急騰していることに加え、牛肉も大きく価格高騰している食材の一つです。輸入牛肉は過去5年で1.5倍の金額となりましたが、牛丼大手3社(吉野家、松屋、すき家)は2025年3月現在も牛丼の並盛は1杯500円以内で横並びです。こうした中で第ニの収益の柱として吉野家ホールディングはラーメン業界を次の成長の軸として強化しています。
業界特有のニュース
2025年3月18日、消費者庁は食品ロスの削減のため、賞味期限をなるべく長く設定するなどを企業に求める方針を固めました。現在、賞味期限は菌検査などを行い、安全かつ美味しく食べられる期間に安全係数を掛けて決めています。この安全係数は0.8程度で設定されており、検査の結果、安全に食べられると算定された期間を更に2割ほど短縮していることになります。万が一、消費者に何かがあってはいけないので、検査結果より短くすることは理解できますが、過剰に短縮しても食品ロスにつながるため、今回、消費者庁は安全係数を食品に応じて、現状よりも「1」に近づけていくよう求める方針を固めました。
上記に先行して、明治は既にチョコレートなどの賞味期限を2ヶ月延長しました。またキユーピーもマヨネーズの賞味期限を7ヶ月から12ヶ月に延長しました。賞味期限が延びることで売り場に並ぶ期間が増えることは売上の増大、食品ロスの減少に伴う原価率の改善など企業側にもメリットがあります。こうした取組が繊細な日本の消費者にどのように受け入れられていくのか注目が集まります。
まとめ
従来、食品業界はBSE、豚コレラ、鳥インフルエンザ、新型コロナウイルスなど特定の分野に集中しすぎることが事業上のリスクであったため、事業の多角化を推進してきました。しかし、人的リソースが本格的に限られてきたことや、あらゆる食材が高騰する中で広げすぎることでスケールメリットを発揮しづらい局面も増えてきました。現在は各社が自社のポートフォリオの見直しを行っており、自社で運営するよりも第三者の力を借りたほうがよい事業については切り離し、注力分野については譲り受けるといったことが増加しています。従来のポートフォリオ経営から、新たなポスト・ポートフォリオ時代への突入といえるでしょう。
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宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。