2025年9月の製造業M&Aまとめ
9月の代表的な公表M&A一覧
2025年9月は20件以上のM&Aが公表され、内5件が上場企業によるクロスボーダー取引、15件以上が国内企業同士のM&Aでした。既存事業の深化と新領域への挑戦を両立する動きが活発化しています。
また、製造業同士の統合だけでなく、IT・サービスとの連携型M&Aも複数見られ、M&Aという手段が「事業承継」だけでなく「成長戦略」として浸透していることがうかがえます。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
|---|---|---|---|
2025年9月1日 | クニヨシ株式会社(未上場・神奈川) | 株式会社トーモク(東京証券取引所プライム市場 札幌証券取引所 3946・大阪) | 株式譲渡 |
2025年9月1日 | 株式会社デンソー(スパークプラグ事業)(東京証券取引所プライム市場 名古屋証券取引所プレミア市場 6902・愛知) | 日本特殊陶業株式会社(東京証券取引所プライム市場 名古屋証券取引所プレミア市場 5334・愛知) | 事業譲渡 |
2025年9月1日 | 丸み興商株式会社(未上場・愛知) | 小野建株式会社(東京証券取引所プライム市場 福岡証券取引所 7414・福岡) | 株式譲渡 |
2025年9月5日 | RT.ワークス株式会社(未上場・大阪) | スズキ株式会社(東京証券取引所プライム市場 7269・静岡) | 株式譲渡 |
2025年9月17日 | 大島機工株式会社(未上場・神奈川) | 株式会社ニッキ大島機工株式会社(東京証券取引所スタンダード市場 6042・神奈川) | 株式譲渡 |
2025年9月18日 | 株式会社多賀製作所(未上場・埼玉) | 株式会社技術承継機構(東京証券取引所グロース市場 319A・東京) | 株式譲渡 |
2025年9月24日 | 株式会社iCARE(未上場・東京) | オムロン株式会社(東京証券取引所プライム市場 6645・京都) | 株式譲渡 |
2025年9月25日 | 株式会社サンメック(未上場・新潟) | 株式会社日本創発グループ(東京証券取引所スタンダード市場 7814・東京) | 株式譲渡 |
【Pick Up M&A】日本創発グループによるサンメック買収
買収の概要
2025年9月25日、日本創発グループは連結子会社である東京リスマチックを通じてサンメック株式を取得し、連結子会社化しました。サンメックの資本金が日本創発グループの10%以上であることから、特定子会社化に該当する重要なM&Aです。
本提携の狙い
日本創発グループは、顧客が「創造性」を発揮できるよう、多様なソリューションを通じて幅広いクリエイティブサービスを展開しています。汎用的な一般情報用紙への印刷にとどまらず、特殊素材・立体物への印刷など多岐にわたる「カタチあるモノ」向けのクリエイティブにも貢献しています。 例えば、ノベルティ、フィギュア、3D プリンター造形、デジタルコンテンツなどが挙げられます。
サンメックは、新潟に拠点を構え、食品や化粧品といった業界向けに「シール印刷」という特殊なカテゴリーの印刷を中心に事業を展開する企業です。ISO9001・ISO14001 の認証を取得しており、最新の印刷設備による高い品質を有するだけでなく、高品質と環境対応の両面を備えた生産体制を確立しています。
日本創発グループとサンメックの連携により、多様化するクリエイティブ需要に対して、サンメックの特色ある事業を継続させつつ、グループの多様なソリューションも取り入れていくことで、お客様に対してより付加価値の高い商品・サービスの提供へと繋がることが期待されます。またグループ各社においても、サンメックがグループ商材を活用することなどを通してシナジー創出を目論むことにより、企業グループ価値の向上を実現できるという狙いがあります。
日本創発グループの企業価値の考え方と推移
同社は現在、以下の3分野を中心に事業を構成しています。
- 印刷関連事業(高付加価値化)
- ITメディア・セールスプロモーション(販促・イベント・アプリ)
- プロダクツ事業(IP活用グッズ製造)
印刷のみではなく、「クリエイティブサポートグループ」として顧客課題を総合的に支援する体制を整えています。魅力的な企業とのM&Aを繰り返した結果、現在では計66社までにグループを拡大しています。
統合後のシナジー発揮に向けて、企業は作ることと売ることに注力し、グループ全体で必要なサポートを支援し、グループ資産を集中投資することを掲げて企業価値を高めています。

従来の紙の印刷業単体だけでは、マーケット環境の変化により企業価値を上げていくことは困難な状況ですが、積極的なM&A戦略の効果もあり業績は好調です。2020年以降はコロナ禍にも関わらず増配を続け、長期安定で株価も順調に推移しております。また今年の8月には、連続増配に加えて上場10周年を記念する特別配当を加えることで株主還元にも注力しています。今後も年間数件のM&Aを戦略としており、斜陽産業から高付加価値を生み出す集団へと変えていく経営が注目されています。
業界のニュース
「ものづくり」の立役者 金型産業が苦境「倒産・廃業」4年連続増加
帝国データバンクの調査によると、2025年1-9月の金型メーカーの倒産(負債1000万円以上、法的整理)は36件、休廃業・解散(以下、廃業)は90件で、合計126件が市場から撤退しました。金型技術者や経営者の高齢化に加え、原料価格の高騰と価格転嫁の難しさを背景に、2024年度の業績では「赤字」が37.3%、「減益」が23.0%で、業績悪化が約6割を占めるという分析結果でした。倒産、廃業ともに過去10年で最多ペースとなっていることに加え、前年同期比で4年連続の増加となるなど、製造業の空洞化が加速したリーマン・ショック以来の淘汰が進んでいる状況です。
背景としては、金型技術者や経営者の高齢化により人材難が続いているほか、金型需要も自動車産業をはじめ取引先の海外移転や内製化へのシフト、鋼材などの原料価格の高騰と価格転嫁の難しさといった経営課題を背景に、中堅・中小規模の金型メーカーで事業を撤退する決断をした企業が増加しています。実際に、2025年9月までに倒産・廃業となった金型メーカーの約6割を資本金「1000万円未満」の事業者で占めました。上記の課題は金型メーカーに限らず、多くの製造業に共通すると言えます。
業績悪化の割合は2020年度の71.7%をピークに低下する傾向で推移しているものの、依然として多くの金型メーカーが慢性的な赤字経営を余儀なくされています。大口の需要先となる自動車向けの金型は、「脱エンジン」による長期的な需要減少傾向にあり、半導体不足などに起因した新車のモデルチェンジの遅れ、減産といった影響を受けたほか、スマートフォンや家電向けなどのプラスチック成型の需要が落ち着いた事業者が目立っています。
また、納品先(特に完成品メーカー)との力関係から、鋼材の原材料や人件費、金型の保管に必要な空調管理をはじめとする光熱費など、各種製造工程のコスト上昇分を納入価格に転嫁できるほどの交渉力がなく、結果的に自助努力で吸収せざるを得なくなったことで、経営の体力を急激に損耗した中小金型メーカーも多くあります。事実として、金型製造業での価格転嫁率は2025年7月時点で37.0%と、製造業全体の水準である42.9%と比べて低い水準にとどまっています。
足元では、今後の受注増が見込める電子光学や航空宇宙、建設用金型にシフトしたことで売上を伸ばした企業もあるものの、設備投資による減価償却負担が重く、人手不足や資材高もあり「黒字化が精一杯」といったケースが多い現状です。高い技術力やノウハウを有する国内金型産業だけに、事業存続のための次なる一手が必要とされています。
まとめ
今回ピックアップ事例として取り上げた日本創発グループは、デジタル化や低価格サービスの台頭により厳しいマーケット環境となってしまった産業を、1つのグループ体として集約することで様々な技術とノウハウを共有し、付加価値の高い集団へ引き上げている代表的な企業です。
金型メーカーに限らず、経営環境の変化が著しい昨今、「高い技術」と「品質」を保有する日本のものづくりにおいて、「既存の事業」を守りながら「新しい戦略」を模索していく動きは経営者の重要な役割のように感じます。M&Aも、事業課題を解決するための1つの経営戦略です。日本創発グループのような業界を救う企業も台頭してきたこれからの時代において、事業承継としてのM&Aではなく自社の成長のためのM&Aという視点もお持ちいただければと思います。
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神奈川県出身。父親が経営する会社がM&Aで譲渡した経験を持つ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、新卒で野村證券に入社。2023年スピカコンサルティングに参画。