2025年4月の製造業M&Aまとめ
2025年4月における主な製造業の公表M&A
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲渡企業(買い手企業) | 形式 |
---|---|---|---|
4月2日 | ツカサ工業株式会社 | 株式会社栗本鐵工所 | 株式譲渡 |
4月7日 | 株式会社凰金属工業 | 信和株式会社 | 株式譲渡 |
4月10日 | 株式会社芝浦電子 | ミネベアミツミ株式会社 | TOB |
4月15日 | バンコクサンヨースプリング(タイ) | 岩谷産業株式会社 | 株式譲渡 |
4月17日 | ビアメカニクス株式会社 | 株式会社アマダ | 株式譲渡 |
4月23日 | Web Synergies(シンガポール) | 横河電機株式会社 | 株式譲渡 |
4月25日 | 株式会社サンテック産業 | 株式会社技術承継機構 | 株式譲渡 |
【Pick up M&A】ミネベアミツミによる芝浦電子へのTOB
2025年4月10日、ミネベアミツミは芝浦電子(証券コード:6957)に対するTOB(株式公開買付け)を発表。当初、1株あたり4,500円での買付けを予定していましたが、のちに5,500円に引き上げられることとなりました。このコラムでは、本件のミネベアミツミの狙いを解説します。
1. 温度センサー分野の強化と成長領域の確保
芝浦電子はNTCサーミスタ(高精度な温度センサー)の世界的なリーダー企業です。精度の高い温度センシングは、あらゆるスマート化の中核技術であり、将来性が非常に高い分野です。ミネベアミツミは既に「アナログ半導体」や「センシングデバイス」事業を展開しており、芝浦電子の技術を加えることで、次のような成長市場への対応が可能になります。
- 自動車(EV・バッテリーの温度管理)
- 医療機器
- 産業機器・FA(Factory Automation)
- スマート家電・IoT機器
2. 既存事業との高いシナジー
ミネベアミツミは「超精密部品」「モーター」「センサー」「アナログIC」などを一貫製造しており、これに芝浦電子の温度センシング技術を組み込むことで、以下のような高付加価値製品の開発が可能です。特に温度制御が安全性・性能に直結する業界(自動車、医療、産業機械)では、ワンストップで高性能部品を提供できる体制が競争優位となります。
- 高精度温度制御付きの小型モーター
- センサー統合型アナログデバイス
- 電動車や航空機向けの制御ユニット
3. 日本発のコア技術を死守する「ホワイトナイト戦略」
芝浦電子に対しては、台湾の大手電子部品メーカーであるヤゲオ(YAGEO)が敵対的買収を仕掛けていました。
ヤゲオ(YAGEO)は、世界有数の抵抗器、コンデンサ、インダクタなどの受動部品メーカーとして知られています。1977年設立、売上高47億米ドル(2023年度)、従業員数約40,000人の企業です。なぜヤゲオは芝浦電子の買収を狙ったのでしょうか?それは、温度センサー(特にNTCサーミスタ)は、今後成長が見込まれる分野で必須のデバイスであり、ヤゲオにとっては「成長市場の中核技術を内製化できるチャンス」だったからです。また、ヤゲオは抵抗器、コンデンサ、インダクタ、回路保護素子など受動部品に強く、特に車載・産業用市場で拡大中です。芝浦電子の高精度温度センサーは、ヤゲオの既存製品に組み合わせて以下のような複合製品やモジュール化が可能になります。
- 車載用パワートレイン部品の複合化
- 電源・熱制御ユニットの高機能化
- 医療・ヘルスケアデバイス向け一体化モジュール
1+1が2を超えるような製品開発や販売シナジーを見込めるため、非常に戦略的なM&A対象でした。
かつ、“敵対的買収”が現実的だったことも理由に挙げられます。芝浦電子は創業家と経営陣が大株主として名を連ねておらず、彼らの持株比率はそれほど高くありません。支配株主も存在しないため、敵対的TOBが成立しやすい構造でした。実際、ヤゲオは株式を取得した上で買付価格を引き上げ、“現金による強引なTOB”を進めました。
しかし、海外企業である(ヤゲオ)に買収されることになるとれば、芝浦電子の高い技術力が国外に流出する懸念があります。ミネベアミツミは、こうした海外への技術流出を防ぐため、友好的なTOBを成功させました。これがいわゆる「ホワイトナイト戦略」です。
「ホワイトナイト戦略」とは
敵対的買収を仕掛けられた企業が、対抗するために友好的な企業に自社を買収してもらう買収防衛策の一つです。この際、友好的な買収者となる企業を「ホワイトナイト」と呼びます。
対象会社 | ホワイトナイト | 敵対的買収者(脅威) |
---|---|---|
明星食品 | 日清食品 | 米投資ファンド |
ニッポン放送 | SBIホールディングス | ライブドア |
東京機械 | 読売新聞、他新聞6社 | 投資ファンド |
<(参考)日本における代表的なホワイトナイトの事例>
業界のニュース
USトランプ関税と国内製造業に与える影響
2025年4月に発動された米国の「トランプ関税」は、日本の製造業に大きな衝撃を与えました。全ての国からの輸入品に一律10%の追加関税を課すというこの政策は、対米貿易赤字が大きい国にはさらに高い関税を適用する仕組みとなっており、日本には実質24%の関税が課されました。鉄鋼や自動車部品など一部製品は対象外とされましたが、輸送用機械や金属製品など多くの産業が直接的な打撃を受けました。
帝国データバンクの試算によれば、24%の関税が適用された場合、日本の2025年度の実質GDP成長率は従来予測より0.5ポイント低下すると予測されています。同試算では、企業の経常利益が減少に転じ、倒産件数が約340件(3.3%)増加する可能性が示されています。
過去のリーマンショックや東日本大震災、新型コロナウィルスといった経済ショック時と比較すれば、今回のトランプ関税による倒産件数の増加幅(約340件、3.3%増)は、中程度と考えられます。しかし、特に米国向け輸出比率の高い中小製造業や、サプライチェーン上で米国市場に依存している企業にとっては、深刻な影響となる可能性があります。
自動車業界で最も大きな打撃を受ける企業はトヨタ自動車になる見込みであると言われています。販売規模が大きく、米国では現地生産だけでなく輸入も多く手掛けているためです。トヨタ自動車は4-5月の2か月間だけで1800億円の損失が出るとの見通しを明らかにしました。
企業は、リスク分散や新たな市場の開拓、コスト構造の見直しなど、早期の対応策を講じることが求められています。
まとめ
2025年4月は、戦略的M&Aが複数実行された月であり、特に芝浦電子に対するホワイトナイト型TOBは注目度が高いです。同時に、グローバルリスク(米国関税)が日本の製造業に対し重大な外部圧力として顕在化しました。日本の製造業には「技術確保を目的とする防衛的M&A」と「外部環境への柔軟な事業対応力」の両立が求められています。
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岐阜県出身、横浜国立大学工学部卒。2012年にキーエンスに入社し、国内トップクラスの成績で受賞歴多数。2016年、日本M&Aセンターに入社し、年間新人賞を受賞。ファンドカバレッジ事業部の設立に貢献。2019年にはM&Aコンサルティングを共同創業し、代表取締役に就任。2023年にスピカコンサルティングに参画。