2025年12月の製造業M&Aまとめ
2025年12月における製造業のM&Aを解説します。今月は、サンコーテクノと甲府精鋲の資本提携に関する解説や、GAFAMに対抗する日本の武器「現場データ」についてまとめてみました。
この記事を見るとわかること
- 2025年12月における製造業の主要M&A
- サンコーテクノと甲府精鋲の資本提携に関する解説
- GAFAMに対抗する日本の武器は「現場データ」にあり。JEITAが世界生産額見通しを発表
12月の代表的な公表M&A一覧
12月は約30件のM&Aが公表されました。
上場企業によるクロスボーダーM&A(IN-OUT)が7件、国内企業同士のM&Aだけでも20件以上が公表されています。2025年の日本全体のM&A件数は5,115件と最多を更新し、取引総額は過去最高の約43-45兆円規模とも報じられ、多くの中堅・中小企業にM&Aという選択肢が拡がっていることがわかります。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2025年12月11日 | (株)シミズトライム[静岡県] | (株)BANDAI SPIRITS[東京都]※バンダイナムコ子会社[東証7832・東京都] | 株式譲渡 | プラモデルの生産機能を強化するとともに、人材を含めた将来的なものづくりの基盤を構築し、付加価値の高い商品を提供 |
(株)uzan[静岡県] | ||||
(株)ヨネヤマホビーセンター[静岡県] | ||||
2025年12月12日 | (株)フジコー[香川県] | (株)大倉工業[東証4221・香川県] | 株式譲渡 | フィルムの製造から加工までを一貫して行う垂直統合型の開発・生産体制を確立 |
2025年12月15日 | (株)湯沢金属焼付塗装[埼玉県] | ヒガノ(株)[埼玉県] | 株式譲渡 | グループ全体のモノづくりバリューチェーンの強化 |
2025年12月15日 | (株)新和製作所[埼玉県] | (株)日本創発グループ[東証7814・東京都] | 株式譲渡 | 多様化するクリエイティブ需要に対して、多様なソリューションも取り入れていくことで、より付加価値の高い商品・サービスの提供へと繋がる |
ムサシパッケージ(株)[埼玉県](子会社) | ||||
2025年12月17日 | 甲府精鋲(株)[山梨県] | サンコーテクノ(株)[東証3435・千葉県] | 株式譲渡 | 課題であった微細な部品の製造に長けており、このたびの子会社化によって当社グループ 全体の製造・開発体制を強化 |
KOHBYO(THAILAND)Co.Ltd.[タイ](子会社) |
<2025年12月の製造業 公表M&A>
【Pick up M&A】 甲府精鋲 × サンコーテクノ
サンコーテクノ株式会社は12月17日の取締役会にて、甲府精鋲株式会社の株式を取得し、子会社化することを決議しました。この資本提携に伴い、甲府精鋲の子会社であるKOHBYO(THAILAND) Co., Ltd.はサンコーテクノの孫会社となりました。
サンコーテクノは、東京で初めてオリンピックが開催された1964年に設立され、コンクリートにモノを取り付ける際に使用する「あと施工アンカー」をはじめ、ドリルビットやファスナーなど、建設資材の開発・製造・販売のほか、耐震補強や太陽光関連の工事管理、アルコール検知器やFRPシートの製造・販売など施工や機能材の事業を展開しています。「あと施工アンカー」における高い国内市場シェア(約40%)と国内31拠点、海外3拠点(タイ、ベトナム、台湾)のグループネットワーク、また事業部と本部、研究所が一体となったマトリックス組織により、独自の開発力を活かした顧客満足度の高いソリューション提案を強みとしています。
甲府精鋲は、金属の冷間圧造及び部品供給装置等の製造販売を営む企業であり、主にPC用のファンモーターやHDD、自動車のドア周辺に使用するネジやシャフト等を製造しています。微細かつ特殊形状部品の製造を得意とし、生産販売は国内のみならず、1995年にタイへ子会社を設立して以降は、現地でも冷間圧造部品の製造販売を行い、顧客の海外現地調達に対応しています。
本提携により、金属加工領域においてサンコーテクノの課題であった微細部品の製造が可能となり、グループ全体の製造・開発体制を強化できる期待が高まります。
本提携で見込まれるシナジーは下記の通りです。
まず大きな転換点となるのが、互いの強みを活かした「顧客・技術連携」です。建築資材市場に確固たる地盤を持つサンコーテクノと、自動車や情報通信など広範な産業界に部品を供給する甲府精鋲。この異なる二つのネットワークが融合することで、部品供給網はこれまでにない厚みを持つことになります。特に、甲府精鋲が誇る精密圧造技術は、サンコーテクノの製品群に新たな付加価値を与え、従来の建材領域を超えた精密部品市場への進出を強力に後押しするでしょう。
次に「生産基盤の強靭化」も見込まれます。グループ化による資材調達の共同化や設備投資、人材・ノウハウの共有は、経営効率を飛躍的に高めます。特に甲府精鋲にとっては、システムの刷新や仕入れコストの改善など、組織体質を強化する絶好の機会となります。さらに、甲府精鋲が独自に開発するオーダーメイド型のパーツフィーダーは、サンコーテクノの製造工程における自動化を加速させる鍵となり、現場レベルでの革新が期待されます。
また、この連携の波及効果は国内に留まりません。両社が持つ海外拠点を有機的に結びつけることで、「グローバル展開」は次なるフェーズへと移行します。甲府精鋲のタイ生産拠点と、サンコーテクノがアジアに張り巡らせた広範な販売網が連携することで、成長著しいアジア市場でのシェア拡大は、より確実なものとなるはずです。
サンコーテクノは、2021年~2023年の「前・中期経営計画」において4件のM&Aを実施しています。2024年~2026年度の「新・中期経営計画」では、「新領域の模索と組織体制の強化・拡充」を基本方針に、「安全・安心・環境・健康をキーワードに事業拡大とニッチトップを目指す」というビジョンを掲げ、下記の投資計画を立てています。
- 人的資本投資に5億円(人件費アップ、健康経営、リスキリング等)
- 設備投資に30億円(自動倉庫の改修・増設、製造設備自動化、研究開発設備の拡充)
- M&A等の戦略投資(目標3件以上)
不確実性の高い時代において、3年単位で中期経営計画を策定し、積極的に成長投資を行っていく姿勢は、中堅・中小企業が企業価値を高める上でも参考になる部分があるように思われます。
業界のニュース
GAFAMに対抗する日本の武器は「現場データ」にあり。JEITAが世界生産額見通しを発表
2025年12月16日に電子情報技術産業協会(JEITA)は「電子情報産業の世界生産見通し」を発表しました。世界生産額は史上初めて4兆ドルを突破し、2026年も過去最高を更新し続ける見通しです。
JEITA会長の漆間啓氏(三菱電機代表執行役 執行役社長CEO)は、「生成AIの爆発的な普及や、世界的なデータセンター需要の拡大を背景に、半導体、電子部品、ソリューションサービスはいずれも好調」と市況感を語りました。
市場全体の急成長について、漆間氏は「いわゆるGAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon.com、Microsoft)に代表される汎用AIサービスが市場を牽引しており、覇権は米IT企業が握っているのが現状だ」と分析しています。
漆間氏は日本企業の対策として、「海外企業のクラウドやAI基盤の利用を止めることはできないが、その上で動くアプリケーションや、OT(制御技術)を中心とした産業領域で日本企業が付加価値を握ることで、海外へ流出する資金を超える価値を生み出す構造転換が重要」と語り、変革への戦略を示しました。
その戦略とは、日本が強みを持つ「現場データ(OTデータ)」の活用に活路を見出すアプローチです。
バーチャル空間を中心に活動する海外企業に対し、製造現場やインフラ設備から得られる高品質なリアルデータで差別化を図るという発想です。
漆間氏は、「日本の産業分野の現場で生まれるOTデータは、極めて高品質な有効データであり、付加価値創出の源泉でもある」と強調しています。このOTデータとAIを組み合わせた「産業用特化型AI」を展開し、日本の強味であるセンサー技術やハードウェアと融合させることで、安全性や精密さを備えた独自の付加価値で対抗していく姿勢を示しました。
まとめ
2025年は、生成AIが「便利なツール」から「AIエージェント」として爆発的に普及し、社会実装が本格的に進んだ「AIエージェント元年」でした。日頃の業務の中でも、AIを活用されている方は多いのではないでしょうか。
社会にAIが実装されることにより、IoT化(ものがインターネットに繋がる)は、ますます進んでいくと予測されます。
長年のカンコツの積み重ねにより高い「現場力」を持つ国内製造業において、これからは現場とAIが一緒に考える時代に向かうと考えられます。社内にしかないデータを読み込ませることで、AI×IoTは単なる効率化にとどまらず、利益の出し方を考える競争力に向けた投資になることが予測されます。
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神奈川県出身。父親が経営する会社がM&Aで譲渡した経験を持つ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、新卒で野村證券に入社。2023年スピカコンサルティングに参画。