2025年10月の調剤薬局業界M&Aまとめ
2025年10月における調剤薬局業界のM&Aを解説します。
この記事を見るとわかること
- 調剤薬局業界の最新M&A
- 薬科大学の状況
- 報酬改定につながる情報
10月の代表的な公表M&A一覧
2025年10月に公表された調剤薬局のM&Aは以下の表の通りです。2025年10月において、公表されたM&Aは2件でした。調剤薬局の中小企業M&Aにおいては公表されない事例が多いため、水面下での経営主体の変更は他にも多数実行されています。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 概要 |
|---|---|---|---|---|
2025年10月1日 | 有限会社横浜薬業 | クオールホールディングス株式会社[東証3034・東京都] | 株式譲渡 | 横浜で1店舗運営の企業 |
2025年10月29日 | 株式会社ひかり | クオールホールディングス株式会社[東証3034・東京都] | 事業譲渡 | 9店舗運営している内、8店舗の譲渡を実行 |
<2025年10月の調剤薬局業界 公表M&A>
今月はクオールホールディングス株式会社の事例が2件公表されています。2件の譲渡企業が運営している店舗を見てみると、有限会社横浜薬業は駅徒歩3分の立地で医療モール型の調剤薬局、株式会社ひかりは横浜市内中心に店舗展開しています。
公表されている情報から2件のM&Aのポイントをあげると、横浜市内という「良いエリア」で、「医療モール型」で「複数医療機関」からの処方箋を応需し「駅前立地」という点、もう一方は「ドミナント展開」しているという点が大手調剤薬局チェーンからしても魅力があるとして薬局として、今回のM&Aの成約につながっていると想定されます。
業界のニュース
25年度の薬学部入試状況
2025年(令和7年)度の全国の薬学部の修学状況の調査結果が公表されました。
この調査では各大学ごとの国家試験のストレート合格率や実質競争倍率(受験者/合格者数)、入学定員充足率などが公表されています。
そんな中、青森大学と医療創成大学においては、受験者の全員が合格しているという状況になっています。
実質競争倍率(受験者/合格者数)最も倍率の高いのは、公立では千葉大学と山口東京理科大学の5.8倍。私立では近畿大学の4倍となっています。一方で、前述の青森大学と医療創成大学は1倍ですので、全員が合格しています。
入学定員充足率(入学者数/入学定員)をみてみると、公立は1校(99.2%)を除き100%以上ですが、私立においては定員割れが目立っており、最も低かったのは徳島文理大学の29.3%となっています。
大学の差別化の大きな指標になっている国家試験の合格率(ストレート合格率)は、公立では100%もありますが、私立では北里大学がトップで84.2%となっています。低い大学では、千葉科学大学で14.8%となっています。
薬学部の入学志願者は年々減少しており、特に私立大学では顕著は減少で2018年度89,806万人だった人数が、2025年では62,800人で約30%の減少となっています。一方で薬学部の新設や定員の変更は大学側の独自の判断で可能であり、2018年~2025年にかけて増加してきました。(2025年以降は原則として薬学部の新設や定員増は認めない方針を文部科学省が示しています。)
こうした背景から、大学間の入学学生の獲得競争が激化するとともに国家試験の合格率(ストレート合格率)によって、学生が集まる学校、そうではない学校で差が開いてきているという状況になってきています。
薬学部を卒業した学生の就職進路も見てみましょう。

就職しない学生(17%)を除くと薬学部の進路の多くは、保険薬局とドラッグストアの調剤部門に就職しているということが分かります。
これまで市場が拡大してきた調剤薬局業界では、企業の新卒採用のニーズが高く、初任給も高く設定され奨学金を代理返済してくれる企業などもあり、高待遇の就職先として多くの学生が選択をしている状況です。
しかし、薬剤師が供給過剰になっているという指摘が近年されており、将来的にはこういった状況も変わってくることが想像できます。これからの薬剤師の活躍がどのような場所・役割になっていくかというのは、調剤薬局業界の今後の発展に関わってくる大きな課題の一つと言えそうです。
11月5日公表の財務省資料から読み取れること
11月5日に財務省から公表された社会保障費に関する資料の中で、調剤薬局業界の現状の課題点をかなり強烈に指摘されています。今回取り上げる点は一部ですが、業界として変わるべきタイミングであるというのが財務省の資料からはっきりとメッセージとして読み取ることができます。
前テーマに記載している薬剤師の数についても、日本の薬剤師数が増加し続けている点が先進国との国際比較においても際立っていることが指摘されています。
日本の人口減少が進行し続けている環境の中で、これだけ薬剤師が増加し続けているのは適正なのかどうかというのは、今後も議論が深まっていくことと思います。加えて、薬剤師の増加とともに調剤薬局の施設数も増加しており、小規模な企業が乱立していることが業界の非効率性を象徴していると指摘されています。
今回に限ったものではありませんが、かなりストレートな表現で「薬局の集約化や大規模化に向けた取り組みが不可避」と表現されており、加えて「産業構造の改革が急務」とすら記載されています。
調剤薬局業界はM&Aが非常に多い業界の一つで、これまでも多くのM&Aによって集約化が進んできましたが、それでもまだ全国的に小規模企業が多く存在し、非効率な経営体制のままになっています。
今回の資料などを踏まえて、今後の診療報酬改定にどのように影響していくかを注視していきたいと思います。



来年に迫る診療報酬改定
来年に迫る診療報酬改定に向けて、本日引用した財務資料の資料だけでなく、多方面から様々な議論が深まり、発信される機会が増える時期となっていきます。経営者の方々は、調剤薬局業界が今後どのような方向性で進んでいくのかを見聞きする良い機会とも言えます。
「業界構造の改革が急務」と言われている中で、変革された後の調剤薬局業界がどうなっていくかを真剣に考える時期になってきました。
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神奈川県出身。青山学院大学卒業後、大和証券株式会社に入社。2017年に株式会社日本M&Aセンターに入社し、業種特化型の中堅・中小企業のM&Aに取り組む。在籍当時のコンサルタント(約600名)中、入社後の累計成約件数2位(2019年/2021年の成約件数全社1位)。調剤薬局業界の専門書籍等も出版。2023年スピカコンサルティングに参画。