2025年10月のエネルギー業界M&Aまとめ
10月の代表的な公表M&A
エネルギー業界において、4件のM&A事例が公表されました。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2025年10月1日 | 入間ガスサービス(株) | 入間ガス(株) | 吸収合併 | 経営資源の統合、運営コストの削減、迅速な意思決定を実現し、グループ全体の経営効率化と持続的成長を目指すため |
2025年10月1日 | mui Lab(株) | 北海道ガス(株)[東証9534・北海道]
| 資本業務提携 | AIを活用したサービス提供により、省エネの促進やカーボンニュートラル社会を実現するため |
2025年10月1日 | (株)ヨコヤマ | 東京ガス(株)[東証9531・東京都] | 株式譲渡 | 住宅設備機器の流通体制を強化するため |
2025年10月14日 | (株)コーシェリジャパン | (株)日本海ラボ | 出資 | 新規事業の創出と、北陸地域の共創プラットフォーム構築のため |
<2025年10月のエネルギー業界 公表M&A>
LPガス販売事業者とその他業種との資本提携事例は2件公表されました。
事業幅の拡大により、「エネルギー供給会社」から「サービス提供会社」へと変化する動きが加速していることが分かります。
業界のニュース
他業種との資本提携を解説
上記したように今月は2件のLPガス販売事業者と他業種の資本提携が見受けられました。
- 北海道ガス(株)による、mui Lab(株)との資本業務提携
- 東京ガス(株)による、(株)ヨコヤマとの資本提携
データを活用した“サービス企業”への転換
北海道ガス(株)は、スマートホーム及びエネルギーマネジメント領域で実績のある mui Lab(株)と資本業務提携を発表しました。今回の提携により、約20万件の会員基盤をもつ自社Webサービスにおいて、以下の取り組みを進める予定です。
- 顧客データ(使用量/設備/CO2排出等)の統合・可視化
- UI/UXの強化(アプリ・スマートホーム連携)
- 省エネ行動にポイント付与する仕組みの実装
- エネルギー需要予測にAIを活用し、需給最適化に活用
「調達(発電)→供給(輸送)→消費」 のデータを一元管理し、「家庭の最適なエネルギー運用」を実現するプラットフォームを目指している点が特徴です。
エネルギーを売る会社から、データを活用した“サービス企業”への転換とも言えるでしょう。
“燃料供給”から“住まい全体の最適化サービス”へ
東京ガス(株)は、住宅設備機器の卸売・施工を手掛ける(株)ヨコヤマ との資本提携を発表しました。
住宅設備領域での流通網や供給力を強化することで、LPガス・都市ガス問わず、顧客との接点である設備更新を起点とし、自社製品やサービスを組み合わせて提案する等の営業を強化する動きが読み取れます。
これらの流れは業界大手のみならず、地域のLPガス販売事業者にも波及する可能性が高いと感じております。実際にLPガス販売事業を手掛ける弊社のクライアント様からも、「電気工事や管工事等の周辺事業者と提携したい」というご相談が増えております。今後はガス販売事業だけでなく、IT・住宅設備・発電など周辺領域とのM&Aがさらに加速すると考えられます。
どんな企業でも承継の波は避けられない
2025年10月1日(株)サイサンにて社長交代が発表され、川本知彦副社長が社長に、川本武彦社長が会長に就任されました。
企業にとって承継は避けられませんが、誰に、どのタイミングで託すかは選ぶことができます。
承継方法は大きく4つに分類されます。
- 上場(IPO):非常に稀で事例も少ない方法です。
- 親族内承継:法人企業の約30%で検討され、中小企業で最も主流な方法です。
- 第三者承継(M&A / 従業員承継 / 卸元への譲渡):近年増加傾向で、年間数千件の事例があります。
- 清算・廃業:個人企業や小規模事業者で最も多く、2024年の休廃業・解散件数は約7万件でした。
(中小企業庁の調査によると、個人企業の約40%は自身の代で廃業を考えている)
どんな終わり方をしたいのかを決めるのはその会社のオーナーです。オーナーが会社の未来を考えるとき、「親族に継がせる、役員や幹部に託す、第三者に承継(M&A)する、あるいは上場」と選択肢は複数ありますが、いずれも相手がいて初めて成立する話であるため、”実際に選べる”選択肢は限られています。
中小企業庁によると、国内企業の廃業の約半数は黒字廃業とされており、その要因は「経営が厳しいから」ではなく、「引き継ぐ人がいないから」であり、後継者不在とされる中小企業の割合は年々減少しておりますが依然50%以上の水準です。また、親族内承継はかつて最も主流な承継手法でしたが、その割合は年々減少し現在は20%台にまで低下しています。背景には、子どもが地元に戻らない/キャリアの選択肢が多様化しているといった社会構造の変化があり、継いでもらうための準備が必要な時代になっています。
まとめ
準備が早いほど、決断のタイミングも手法も選ぶことができます。
LPガス業界では、経営者の平均年齢が63歳前後と言われています。電力・都市ガスの普及、IoTや省エネ化を背景として、「エネルギーを届ける会社」から「暮らしを支えるサービス会社」へと変化が始まっています。事業承継に“正解”はありません。100社あれば 100通りの選択があります。重要なのは「どの選択が正しいか」ではなく「選択肢を整理し、判断できる状態にしておくこと」です。承継の準備を早く始めることで、考える時間を確保できます。すぐに決断する必要はありません。情報を集め、判断できる状態を整えておくことが、会社・従業員・顧客の未来を守る最善の行動だと考えています。
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兵庫県出身。立命館大学生命科学部卒業後、2021年に新卒で中堅M&A仲介会社に入社し、企業概要書の作成業務を担当。その後、M&A仲介会社の立ち上げを経験し、2024年スピカコンサルティングに参画。