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2025年度版 企業価値を向上させている企業の共通点 【製造業編】ミネベアミツミ

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本コラムは、「2025年度版 企業価値を向上させている企業の共通点」で紹介した企業価値を上げる4つの指標に基づき、優れた経営を行う企業を紹介します。

この記事を見るとわかること

  • ミネベアミツミの経営戦略
  • 製造業の優れた経営の要素を知り、中堅・中小の製造業に活用する方法

目次

企業価値を高める4つの指標

スピカコンサルティングが考える企業価値を高める4つの指標に関する解説はこちらの記事からご確認いただけます。
企業価値を高める4つの指標解説

【製造業編】4つの指標で企業を分析〜ミネベアミツミ〜

製造業の世界では、技術力はもちろん重要ですが、それ以上に経営の仕組みが企業の競争力を左右する時代になっています。今回取り上げるミネベアミツミは、その代表例です。同社はベアリング事業を原点としながら、アナログ半導体・モータ・センサーなどへ事業を広げ、今や世界屈指の「相合(そうごう)精密部品メーカー」として独自の地位を確立しています。

相合とは、単なる総合ではなく、異なる技術・人材・文化を掛け合わせ、新たな価値を生み出すという同社独自の造語です。その考えのもと、人的資本経営やコーポレートアクションをうまく連動させて、企業価値を高めるモデルを打ち出しています。

ミネベアミツミ:指標①「経営的指標」

2025年3月期の連結業績は、売上高1兆5,227億円、営業利益945億円でした。売上高は過去最高を記録し、13期連続の増収を達成しています。また、2029年の目標として、売上高2.5兆円/営業利益2,500億円/EPS成長率15%以上/ROE15%以上を掲げています。

ミネベアミツミ:指標②「人的資本経営」

ミネベアミツミが掲げる「相合」は、単に技術面だけでなく「人・組織・文化」をクロスボーダー・クロスドメインで統合することも含んでいます。グローバルに展開しているミネベアミツミでは、出身母体や国籍・文化を問わず、人材を活かす・抜擢する制度を導入しており、M&Aでグループインした企業・人材も、決して異質な存在ではなく価値を生む融合の対象と捉えています。こうした人材・文化の融合・統合=人的資本の活用が、技術・事業ポートフォリオの広がりを支えていると考えられます。

多くの中小製造業では、人材はオペレーターとして捉えられがちですが、ミネベアミツミのように「出身・年齢・部門を問わず、優秀な人材を抜擢し、異分野の技術・文化を組織に取り込む」という発想を持つことが重要です。社員に「会社の未来像」を共有し、部門横断・地域横断でのチーム結成(例えば、製造+設計+販売)で新たな価値を出すなどにより、人的資本を“守りの資産”ではなく“攻めの資源”に転換できます。

ミネベアミツミ:指標③「ビジネス-5つの観点-」

a:収益性

ミネベアミツミは収益管理指標として、ROEに加えてROICを用いています。投資判断における最低限のハードルレートは、資本コストを6%程度と推計し、それを2%上回る8%としています。各事業の収益性が資本コストを上回るか否かをシビアに検証し、研究開発・M&A・事業撤退などの判断をおこなっています。

b:安定性 

ベアリングで培った超精密加工技術をさまざまな分野に応用し、世界シェアNo.1、世界最小・最薄製品を多数生み出しており、当社の売上高の約50%が、世界シェアNo.1製品となります。また、自動車、航空機からスマートフォン、医療機器といった幅広いアプリケーションと、グローバル展開による相互補完体制により安定性を盤石なものにしています。

c:成長性

ベアリングやモータの高機能化・小型化ニーズが世界的に高まるなか、同社はコア事業「八本槍」を軸に成長を一段と加速させる方針を示しています。特にモビリティ向け精密部品、センシングデバイスといった成長分野の需要拡大を見込んでおり、M&Aで獲得した技術・人材を“相合”によって統合し、高付加価値化を推進していく姿勢を明確にしています。

d:社会性 

同社の製品は、幅広い産業分野で不可欠な基盤部品として利用されており、社会インフラの安定運用を支えています。また、省エネ性能の高いモータや低摩擦ベアリングなど、環境負荷の低減に寄与する製品群を開発し、持続可能な社会の実現にも貢献しています。

e:独自性 

ミネベアミツミの最大の特徴は、「相合」という独自概念に基づき、精密加工・モータ・センサーなど異なる技術領域を有機的に組み合わせ、独自の価値を創り出す点にあります。M&Aでグループインした企業の強みも積極的に統合することで、極めて模倣困難性の高い競争優位を築いています。

ミネベアミツミ:指標④「コーポレートアクション」

(1)M&Aを活用して戦略的に拡大・技術・人材を取り込む

ミネベアミツミでは、M&Aを積極的に推進しており、創業以来60社との経営統合を実施してきました(2025年8月末時点)。直近の統合報告書に記載されているCEOメッセージからも、単なる規模の拡大のM&Aではなく、「技術・人材・事業ポートフォリオの補完・統合」という姿勢を読み取ることできます。

M&Aは当然ながら、買ったら終わりではありません。対象会社の人材・文化・技術を取り込み、自社価値と結び付けていくプロセスの構築が求められます。人的資本経営の項で述べたように、出身会社を問わず人材を活用する文化も、M&A活用の背景にあると考えられます。

中小製造業では「自前主義」という発想から抜け出し、「どこを補えば飛躍できるか」の視点が必要になっています。ミネベアミツミは、M&Aを通じて「八本槍」の技術・人材・事業分野を補完しながら、自社の強み(超精密加工・量産)と融合させています。

中堅・中小企業でも、自社が得意な加工技術に加えて、センサー、ソフト、IoT の技術を持つ企業とのアライアンスを検討したり、自社に欠けている市場チャネルや海外展開をM&Aで補填するモデルを検討するといった視点を持たなければなりません。

(2)事業ポートフォリオを整理し、“選択と集中”を明確化

ミネベアミツミは、「コア/サブコア/非コア」という事業区分を設け、経営資源を配分すべき領域を明確にしています。具体的には、「八本槍(ベアリング、アナログ半導体など8事業)」というコア製品軸を定め、リソースの集中を図っています。

ミネベアミツミが「八本槍」で重点領域を定め、リソースを集中しているように、中小企業も“自社が競争優位を取れる領域”を明らかにし、そこに人・設備・資金を投入することが肝要です。限られた経営資源の中で“打ち勝てる領域”での勝負力を高めていかなければなりません。

ミネベアミツミグループ統合報告書2025より抜粋(https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/integrated_report/a2025/__icsFiles/afieldfile/2025/11/04/2025_01_en_dtl.pdf)

まとめ

ミネベアミツミの経営戦略には、「経営的指標」「人的資本経営」「M&A」「コア事業への集中」という要素が有機的に結び付いており、単なる技術優位や設備優位ではなく“経営の仕組み”として企業価値を作り出しています。今後は、どの企業も「相合」の視点を持ち、自社の付加価値を向上させる取り組みが求められるのではないでしょうか。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

藤川 祐喜

大阪府出身。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、2010年に新卒でキーエンスに入社。中小企業から上場企業まで工場の生産性向上やIoTシステム導入支援などに貢献。その後、日本M&Aセンターへ入社し、業界再編部において製造業専門チームを立ち上げ。2023年スピカコンサルティングに参画。

担当者:藤川 祐喜部署:製造業支援部役職:執行役員