2025年5月の調剤薬局業界M&Aまとめ
2025年5月の主なM&A事例
2025年5月に公表された調剤薬局のM&Aは以下の通り1件となりました。
2025年5月29日、調剤薬局業界最大手のアイングループが、さくら薬局グループ(クラフト株式会社)の株式を投資ファンドの日本産業推進機構グループ(以下、NSSK)から591億円にて取得することを発表しました。
公表日 | 譲渡企業 | 譲受企業 | 形式 |
---|---|---|---|
5月29日 | 株式会社NSSK-WW(クラフト株式会社) | 株式会社アインホールディングス | 株式譲渡 |
<表1 調剤薬局業界における主な公表M&A(2025年5月)>
さくら薬局グループはアイングループ同様、M&Aを活用し店舗網を拡大してきましたが、2022年3月に事業再生ADR(過剰債務を抱える企業が債権者と交渉し事業再建を目指す制度)を申請し、経営状況の改善を目指していました。M&Aでの譲受資金のための借入金が経営を圧迫している中、コロナ渦の受診控えも重なり、資金繰りが悪化したということでしたが、驚かれた方も多かったかと思います。上場を廃止する2008年時点で約87億であった有利子負債は、ADR申請時に1,000億を超過していたと報道されていました。
ADR申請から約1年後の2023年3月30日に投資ファンドのNSSKがさくら薬局グループの株式譲受を行い、NSSK独自の経営支援パッケージ「NVP(NSSKバリューアップ・プログラム)」の元で経営体制の強化や人材の採用・教育等による企業価値向上を目指し、NSSKによる株式譲受から2年が経過したこのタイミングで本件譲渡が実現しました。
アイングループ | さくら薬局グループ | 合計 | |
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売上高 | 4,568億円 | 1,536億円 | 6,104億円 |
薬局店舗数 | 1,290店舗 | 833店舗 | 2,123店舗 |
<表2 本提携後のアイングループ売上高・薬局店舗数> ※単純合算
アイングループのファーマシー事業におけるM&A動向
アイングループは2010年代に入ってからM&Aを積極活用し、2012年に300店舗、2012年に500店舗、2016年に1,000店舗突破と急速に店舗数を拡大してきました。しかし、2018年以降は大手グループ・敷地内薬局への基本料減算の流れもあり、M&Aによる譲受を実施しながらも、閉局・切り離しを積極的に実施し、2017年4月期末の1,066店舗から2022年4月期末は1,099店舗と、純粋な店舗数増加ペースは落ち着きつつあるようにも見られていました。
そんな中、2022年5月に広島県を中心に約100店舗を展開するファーマシィ社、2025年3月に新潟県を中心に30店舗展開するエーアンドエム社、そして今回のクラフト社の譲受により、2025年3月期の1,290店舗から一気に大台の2,000店舗を突破することになります。
アイングループは中長期ビジョン「Ambitious Goals 2034」において、全社売上高を2030年4月期に7,000億円(うちファーマシー事業で5,000億円)、2034年4月期に1兆円(うちファーマシー事業で7,000億円)を掲げており、単純合算では本提携により2030年4月に実現を目指していた目標を大幅な前倒しで達成見込みとなりました。
アイングループの調剤報酬売上6,000億円超えは、2025年内に統合が予定されているウエルシアグループとツルハグループの合計調剤報酬売上約4,000億円を大幅に上回ることになるため、本件M&Aはアイングループが国内最大手の座を一時的には盤石にすることができたM&Aとも言えます。
公表日 | 譲渡企業 | 譲渡企業店舗数 | 譲渡企業売上高 |
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2016年12月 | 株式会社葵調剤 | 115店舗 | 132億円 |
2018年8月 | 株式会社コム・メディカル | 56店舗 | 79億円 |
有限会社ABCファーマシー | |||
2019年2月 | 土屋薬品株式会社 | 36店舗 | 88億円 |
2022年5月 | 株式会社ファーマシィ | 約100店舗 | 215億円 |
2024年7月 | 株式会社Francfranc | 161店舗 | 395億円 |
2025年3月 | 株式会社エーアンドエム | 30店舗 | 93億円 |
2025年5月 | クラフト株式会社 | 833店舗 | 1,536億円 |
<表3 直近10年間でアイングループが実施した主なM&A>※株式会社Francfrancはリテール事業
アイングループの店舗数は国内スターバックス店舗数を超過
現在、国内約2,000店舗を展開しているグループチェーンは表4の通りであり、日本国内においては絶大な知名度を誇るブランド群ばかりです。今後「さくら薬局」の屋号を「アイン薬局」に統合していくかどうかは公表されていませんが、首都圏のみでも店舗数が400店舗以上増加することを考えると、アイン薬局の知名度はさらに上昇することが予想されます。これから「立地依存からの脱却」「オンライン処方箋」といった次世代型の調剤薬局モデルが推進される状況においても、アイングループにとっては追い風となるでしょう。
業界 | チェーン | 店舗数 | 業界内順位 |
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ハンバーガー | マクドナルド | 2,990店舗 | 1位 |
ガソリンスタンド | コスモ石油 | 2,579店舗 | 3位 |
お弁当屋 | ほっともっと | 2,427店舗 | 1位 |
コーヒーショップ | スターバックス | 2,026店舗 | 1位 |
牛丼 | すき屋 | 1,973店舗 | 1位 |
コンビニ | ミニストップ | 1,821店舗 | 4位 |
<表4 国内で約2,000店舗を展開する主なグループチェーン(一部抜粋)>
※数字は2025年5月末実績、コスモ石油は2024年4月末
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京都府出身。5歳より始めたフィギュアスケートで7度の全日本選手権出場、2度のインカレ団体優勝の経験がある。関西大学経済学部卒業後、2021年に新卒で日本M&Aセンターに入社し、一貫して調剤薬局業界のM&A業務に取り組む。2024年スピカコンサルティングに参画。