M&A・事業承継のお悩みならスピカコンサルティングへご相談ください
お電話からお問い合わせ 03-6823-8728
業界別M&A
投稿日:更新日:

2025年5月の物流業界M&Aまとめ

メールで送る
目次

間口拡がる物流業界のM&A

今月は、10件を超えるM&Aが公表されました。
上場企業による海外物流企業の取得、上場企業のMBO(経営陣による株式取得)、中小企業の事業譲渡や中堅企業の民事再生など、さまざまなスキームでM&Aが実行されています。

かつてのM&Aは、大手企業同士が鎬を削るような大型案件が中心でしたが、現在は物流業界でもM&Aという手法は広く浸透し、スキームも様々なものが見受けられるようになりました。

たとえば、

  • 社内組織や資金配分の最適化を目的とした事業譲渡
  • 業績不振企業の事業存続を図る再生型M&A
  • 更なる成長を目指す戦略型M&A

など、物流業界においても、自社のビジョン実現や課題解決を図る手段として様々な企業が自社の現状に適した資本政策を活用しています。

5月の公表M&A代表事例

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年5月1日

株式会社イディアトランスポートサービス(未上場・栃木県)

トナミホールディングス株式会社(未上場・富山県)

事業譲渡

2025年5月1日

ジェイカス株式会社(未上場・兵庫県)

株式会社カーレントサービス(未上場・東京都)

株式取得

2025年5月13日

株式会社レインボー物流(未上場・大阪府)

アサヒロジスティクス株式会社(未上場・埼玉県)

株式取得

2025年5月13日

株式会社日新(上場・神奈川県)

ベイン・キャピタル

MBO

2025年5月16日

Cold Chain Bangladesh Limited (バングラデシュ)

NXHD(上場・東京都)

株式取得

2025年5月28日

INTERNATIONAL CARGO EXPRESS PTY LTD.(オーストラリア)

阪急阪神エクスプレス(未上場・大阪府)

株式取得

2025年5月29日

加藤運輸有限会社(未上場・千葉県)

磐栄HD(未上場・福島県)

民事再生

<2025年5月の物流業界 公表M&A>

【Pick Up M&A ジェイカス株式会社×株式会社カーレントサービス】

今月は、M&Aを活用し他社とのサービスの徹底的な差別化を実現する物流企業をご紹介します。

2025年5月1日、株式会社カーレントサービス(未上場・東京都、代表:保坂高広、以下「カーレントサービス」)は、兵庫県神戸市を中心に3PL事業、倉庫事業、トラック輸送事業を展開するジェイカス株式会社(未上場・兵庫県、代表:加賀澤一、以下「ジェイカス」)の全株式を取得し、グループ会社化しました。

ジェイカスは、神戸市内に六甲アイランド・摩耶埠頭・深江浜町・向洋町の4拠点に倉庫を展開し、延床面積は5,500坪を保有。さらに、関西圏以外にも東京都江戸川区に拠点を有し、ウイング車など約20台の車両を保有しています。

同社は、WMS(倉庫管理システム)を内製化しており、EDI(電子データ交換)を活用した顧客とのリアルタイムな情報共有による、保管~配送までの安定かつ高品質なオペレーションを実現しています。

今回のグループ化により、カーレントサービスが保有する東扇島LC(3,500坪)および浮島LC(2,400坪)との相互活用が進み、同社が保有するアコーディオン車・ユニック車などの特殊車両をジェイカスの事業への展開による新たな顧客基盤の獲得や事業領域の拡大が期待されています。

カーレントサービスは、直近 株式会社佐藤重量(三重県)からの事業譲受および株式会社キデン運輸(山梨県)の子会社化を実行しており、特殊車両を保有することや、据え付け解体といった専門性の高い業務に対応可能な企業のグループ化を進めています。

この戦略は、単なる輸送機能にとどまらない、設置や据え付けなどの付帯サービスを含む総合物流事業への展開を志向するものであり、同社はこの取り組みを「ロジストラクション(物流=ロジスティクスと建設=コンストラクションの融合)として商標登録。これにより同社は、競争が激化する物流業界において、重量物輸送や精密機器輸送、搬出入といったコンストラクション領域を組み合わせた複合的なサービス展開を実現。高い参入障壁を構築し、他社との差別化による強固な競争優位性を確立しています。

大手幹線物流企業がマテハン機器の導入などで省人化に取り組む中、同社は足回りの職人技を固めることを標榜。「ロボットにユニックは操作できません」という言葉に現れるように、人にしかできない領域への注力を目指しています。

変化の著しい現在の物流業界においては、他社との差別化を通じた「企業の本質的な価値」の向上がかつてないほど重要となっています。

しかしながら、自社単独での差別化には限界があるのも事実です。そうした中で、今回のように高度なノウハウや専門性を有する企業との資本提携や事業提携は、今後の業界競争を勝ち抜く上で、極めて有効な経営戦略の一つとなるでしょう。

業界のニュース

下請法(下請代金支払遅延等防止法)の改正と物流企業への影響

2025年5月16日、衆議院本会議において下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正案が可決・成立しました。

これまで下請法の対象となっていたのは、運送会社間における運送再委託に限られていましたが、今回の改正により、荷主から元請事業者への運送委託も新たに対象取引として明記されることになりました。これにより荷主には価格交渉への対応・適切な支払方法への変更が義務づけられます。

荷主と物流企業の間には、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行わされるといった不公正な取引慣行が長年にわたり存在していましたが、本改正により、物流企業が適正な運賃を収受し、対等な取引関係を構築できる環境の整備が期待されています。

物流企業に影響する本改正の主なポイントとしては以下の3点です。

①価格協議に応じず一方的に価格を決定する行為の禁止
②手形による支払いの禁止
③「下請け」などの用語の見直し

中でも「価格協議に応じない一方的な価格決定の是正」は本改正の柱であり、発注者が協議に対応せずに価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決定した場合には、下請法に基づく罰則の対象となることが決定されました。違反事業者に対しては今後、公正取引委員会などによる勧告・指導や罰金といった制裁が科される可能性があり、荷主企業に対する法的強制力の強化が図られています。

また、支払いに関しては、手形による支払い(電子記録債権やファクタリングなど、支払期日までに現金化が困難な手段も含む)は禁止され、さらに、従来120日まで認められていた支払いサイトも60日までに短縮されます。

加えて、用語の見直しも行われ、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」などと改正され、法律文言における中立性と実態に即した表現が導入されることとなりました。

これらの改正により、荷主企業や元請事業者には契約内容や運賃設定の見直しが求められることとなり、物流企業が適正な運賃を収受するための大きな契機となりました。

しかしながら、本改正では「コスト上昇に見合わない価格を一方的に決定する行為」に対して、指導や罰則が適用されることとなった一方で、物流企業側が運送コストを明確に提示できていなければ、価格交渉において荷主が対応することが難しいことも現実です。

義務化された運賃交渉の場を有効に活用するためには、トラック1台ごとの収支や過去のコストの推移など、定量的なデータを提示することが不可欠です。

これが準備できていない場合、いかに制度が整備されても、実際の運賃改善にはつながらない可能性があります。

日々の業務に追われる中ではありますが、今一度、自社の収益構造を可視化し、取引先ごと・車両ごとの収支表を作成することをお勧めします。

とはいえ、社内での分析が困難な場合には、外部の専門家の支援を受けることも一つの有効な手段です。弊社では、物流事業に特化したコンサルタントが貴社の財務状況を詳細に分析し、運賃交渉に役立つ資料の作成をサポートする体制を整えておりますので、ぜひご活用ください。

まとめ

4月に施行された「新物流効率化法」および「貨物自動車運送事業法」の改正に続き、5月には本稿でご紹介した下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、さらに6月4日には、運送事業許可の更新制導入などを柱とする「トラック2法」が参議院本会議で可決・成立しました。この話題につきましては次回触れたいと思います。

物流業界は今、前例のないスピードで制度改革が進んでおり、これらの変化をいかに自社の成長の機会と捉えるかが、今後の競争力を左右する重要な視点となります。そのためには、まず自社の現状を正確に把握し、法改正や制度変更といった外部環境の最新情報に継続的にキャッチアップしていくことが不可欠です。業界の大きな変化を追い風に変えるための戦略的な対応が求められています。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

上野 空良

京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒で株式会社GA technologiesに入社、スピカコンサルティングに参画。

担当者:上野 空良部署:物流業界支援部役職:M&Aコンサルタント

カテゴリ