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2026年4月の調剤薬局業界M&Aまとめ

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調剤報酬改定の施行(6月)を間近に控えた2026年4月、ヘルスケア業界では経営環境の激変を見据え、企業の規模を問わず「スピード感のある経営判断」が次々と下されました。

特に業界を驚かせたのが、スギホールディングスによるセキ薬品の連結子会社化の前倒しです。当初「5年後」とされていた計画がわずか半年で実行に移された背景には、メガファーマシーの台頭と、調剤領域の拡大を急ぐ強烈な危機感がありました。また調剤薬局単体の動きに目を向けても、ドミナント戦略を見直すための「優良店舗の戦略的切り離し」という、一歩踏み込んだポートフォリオ再編が目立っています。

本記事では、4月の主要M&A事例を振り返りながら、報酬改定という荒波の中で各社が「何を捨て、何を取りにいったのか」、その経営判断の核心に迫ります。

この記事を見るとわかること

  • 2026年4月の主要M&A事例: カメイグループによる愛知エリア撤退と、コスモス調剤等の拡大戦略
  • 「戦略的切り離し」が増える理由: 不採算ではなく、加算取得率やドミナント形成を基準としたポートフォリオ見直し
  • 【Pick Up】スギHD×セキ薬品: 49%から51%へ。経営権取得を「5年」から「半年」へ前倒しした理由
  • メガファーマシー台頭への対抗: アインHDの巨大化に対抗し、調剤併設率の引き上げを急ぐスギHDの狙い
  • 激動期の生存戦略: 6月の報酬改定施行を前に問われる、自社の「成長」と「資本政策」のあり方

目次

4月の代表的な公表M&A一覧

今月は、3件のM&Aが公表されました。上場企業であるカメイグループによる愛知県の調剤薬局5店舗の事業譲渡、メディカルシステムネットワークグループによる1店舗の株式譲受が発表されました。調剤薬局業界のM&Aは非公開なことが大半であり、水面下では数十件以上のM&Aが実行されているものと予想されます。

公表年月日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

目的

2026年4月1日

カメイ(株)[東証8037・宮城県]

(株)コスモス調剤[TOKYO PRO Market309A・愛知県]

栄店、平針店の2店舗事業譲渡

店舗ポートフォリオの選択と集中

2026年4月1日

カメイ(株)[東証8037・宮城県]

(株)ファーマトップ[愛知県]

一宮店、元八事店、一社店の3店舗事業譲渡

店舗ポートフォリオの選択と集中

2026年4月15日

(株)グランツリー[奈良県]

(株)メディカルシステムネットワーク[東証4350・北海道]

1店舗の株式譲渡

後継者不在による事業承継

<2026年4月の調剤薬局業界 公表M&A>

カメイグループが、愛知エリアの調剤薬局5店舗の事業譲渡を実行しました。カメイグループは2026年3月時点で宮城県30店舗、山形県5店舗、東京都1店舗、神奈川4店舗、愛知県5店舗、大阪府10店舗、兵庫県2店舗、計57店舗の調剤薬局を運営しており、本件譲渡により愛知県で展開していた5店舗全てを譲渡したこととなります。本件譲渡対象となった5店舗は、平均月1000枚以上の処方箋を受け付けていたため、採算面による経営判断ではないものと想定されています。ただ、地域支援体制整備加算に目を向けると、本社がありドミナント展開が出来ている宮城県内では全国平均を上回る6割超の店舗で地域支援体制整備加算が取得できている状況に対し、愛知県の5店舗は2店舗のみの取得に留まっていた点などから、調剤薬局事業におけるエリア戦略の見直しに至った可能性があります。

従来、「切り離し」と聞くと不採算店、あるいは人員の不足などによるネガティブなイメージが先行し、実際そのようなケースが大半を占めていましたが、報酬改定などによる経営環境の変化により、将来的な出店計画や投資判断など総合的に加味し、今回のように都市部の採算店であっても戦略的な切り離しを実行するケースが増加しています。

譲渡対象となった5店舗のうち、3店舗は(株)ファーマトップ、2店舗は(株)コスモス調剤が経営を引き継ぐこととなりました。(株)ファーマトップは2021年9月設立の企業ながら、本件譲受を含めて8店舗を運営することとなりました。HPでも新規出店及びM&Aでの店舗拡大を掲げており、今後も拡大が期待される企業となります。(株)コスモス調剤は2025年1月に東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場しており、上場後も2025年3月の岡崎中島店、2025年7月の竹元店、2025年9月の砂田橋店と安定したペースで店舗拡大を続けています。

(株)グランツリーと(株)メディカルシステムネットワークのM&Aは、奈良県で運営する優良店舗1店舗の株式譲渡の事例となります。大手各社がM&Aに求める希望水準を高める中、グランツリー社は複数の処方元から月間2,500枚を超える処方箋を応需しており、国が求める薬局像を体現していた店舗であると想定されます。

業界のニュース

スギHDとセキ薬品の経営統合前倒しに見る両社の策略

4月9日、スギホールディングス(以下、スギHD)によるセキ薬品の連結子会社化が公表されました。

本コラムでは、2025年9月の提携公表時、「5年後(2030年6月)を目処に連結子会社化を目指す」という長期的な展望を掲げていた中で、なぜわずか「半年」で連結子会社化が実行されるに至ったのかについて複数の視点から考察します。

1. 「49%」から「51%」へ:経営権の譲渡

今回の2%の株式取得は、経営実務上、極めて大きな意味を持ちます。

2025年9月時点でスギHDが保有していた「49%」という比率は、残りの51%を創業家が維持することを前提としていました。会社法において「51%」の議決権を保持することは、取締役の選任や経営の最終決定権を自ら握り続けることを指します。

当初、この51%は創業家としての経営主体性を重んじ、時間をかけて両社の文化を融合させていくための期間であったと推察されます。しかし、2026年4月、創業家はこの最終的な経営権を早期にスギHDへ託す決断を下しました。その背景には、セキ薬品単独の企業の努力だけでは抗い難い、経営環境の変化、並びにスギHDによる早期連結子会社化による戦略的背景がありました。

2. 各項目から読み解く、収益向上に向けた鍵

①調剤併設率向上を見越した調剤報酬の増加

2026年4月現在、スギHDは、全店舗の約8割に調剤薬局を併設し、物販と調剤を高度に融合させたモデルを確立しています。一方、セキ薬品は埼玉県下で圧倒的なドミナントを誇りながら、調剤を併設していない店舗が依然として約4割、約140店舗存在します。

スギ薬局グループ

セキ薬品

合計

総店舗数

2,186店舗

338店舗

2,524店舗

調剤併設店舗数

1,699店舗

198店舗

1,897店舗

調剤併設率

79.9%

58.6%

75.2%

<各社公開情報より作成:スギHDは2025年統合報告書より、セキ薬品はHPより>

② セキ薬品が誇るPB商品による製品ラインナップ拡充

セキ薬品は、地域住民のニーズを形にした約3,000種類もの広範なプライベートブランド(PB)を保有しています。これらは長年、埼玉県を中心とした地域で「生活に欠かせないもの」として信頼を築いており、スギHDが持つ調剤・未病・予防の知見と、セキ薬品の多様なPB開発力を融合させることで、顧客のライフステージのあらゆる場面に寄り添う「トータルヘルスケア」の具体策が、より身近な商品として結実すると考えられます。

③仕入れの効率化によるコスト削減

両社が持つ調達リソースを統合し、共同仕入れを強化することも大きなメリットであると想定されます。医薬品を含む様々な製品においてさらなるコスト競争力を創出し、スギHDが先行して構築してきた高度な自動発注システムや物流インフラをセキ薬品へ展開することで、現場のオペレーション負荷を軽減ならびに対人業務へのシフトが可能になります。

アインHDの店舗網拡大

スギHDの経営判断には、調剤薬局事業で先行するアインHDの動きも影響を与えていると考えられます。アインHDは、2025年の「さくら薬局(833店舗)」の統合により、ファーマシー事業の売上高を約5,800億円規模にまで拡大させており、スギHDが対抗するためには、セキ薬品を早期に連結決算に取り込み、グループ全体の調剤売上高(現状 約2,350億円)を底上げすることが不可欠であったと言えます。

調剤報酬額トップのアインHDに売上高で追随し、ドラッグストア併設型特有の広域処方受付による基本料の優位性を持ち利益率工場を目指すスギHDの構想に、セキ薬品の店舗網を早期に合流させることは、市場に対する強力な成長メッセージを示しています。

3.「仲間」として描く、地域の健康の未来

スギHDは、一方的な吸収合併ではなく、互いの文化と強みを尊重する「仲間づくり」としての統合を掲げています。セキ薬品が築いた「198拠点の調剤併設店舗」と「地域密着のPB群」、そこにスギHDの「DX・物流・ヘルスケアプラットフォーム」を掛け合わせるという強固な連携こそが、スギHDが目指す、地域社会の健康を支える「トータルヘルスケア」そのものと言えます。

そのような未来像を早期に実現するために、5年の猶予を待たずに「連結」という形でガバナンスを一元化し、スピードを優先したのが今回の経営判断に至った経緯であると想定されます。

まとめ

年始の調剤報酬改定発表から早4ヶ月、気が付けば点数切り替えの6月に入ろうとしています。改定の全貌も明らかになり、私たちが日々面談する経営者様の中には、改定の対応に追われM&Aの検討が後回しになっているような方もおられます。

ただ、報酬改定で業界環境が変化するタイミングだからこそ、カメイグループのように店舗ポートフォリオを再考する企業もあれば、グランツリー社のように優良店舗を運営しながらも大手グループへの株式譲渡を実行する企業、スギHD・セキ薬品のように資本政策を予定よりも早める企業など、様々な理由でM&Aの件数は増加傾向にあります。

業界再編が終盤になり、「どのようなタイミングで、どのような企業と、どのような条件でM&Aを実行するか」あるいは単独で「どのような成長を描くか」の経営判断が問われています。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

本田 太一

京都府出身。5歳より始めたフィギュアスケートで7度の全日本選手権出場、2度のインカレ団体優勝の経験がある。関西大学経済学部卒業後、2021年に新卒で日本M&Aセンターに入社し、一貫して調剤薬局業界のM&A業務に取り組む。2024年スピカコンサルティングに参画。

担当者:本田 太一部署:調剤薬局業界支援部役職:調剤薬局業界支援3部 部長

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