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業界別M&A
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2025年4月の食品業界M&Aまとめ

目次

2025年3月の食品業界のM&A件数は14組(公表ベース)

子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が確認できた件数は公表ベースで14組となりました。なお、前年同月は9組でした。1‐3月の累計比較においては前年と今年が共に37組であることから数としては前年並みの推移と見られますが、昨年の後半から規模の大きいM&Aや有名ブランドの譲渡が増加傾向にあります。今年3月はトライアルホールディングスが西友を3,826億円で譲り受けたことや、上場企業同士のM&Aとしてウェルネオシュガーによる東洋精糖のTOBも話題となりました。食品業界全体が原材料高・人件費高・物流費高など厳しい状況下にある中で、大型のM&Aを実行して売上規模を一気に拡大することや、今後の成長が見込める有名ブランドへの投資が目立つようになりました。この流れが加速していくことで将来的に大手企業と中堅・中小企業の差が一層拡大していくことが懸念されます。

今月の公表M&A一覧

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年3月3日

株式会社プレディア

株式会社CS-C

株式譲渡

2025年3月3日

株式会社 NEPAL HYDRO POWER HOLDINGS

株式会社海帆

株式譲渡

2025年3月4日

有限会社海晴丸

マルハニチロ株式会社

株式譲渡

2025年3月4日

株式会社 Innovation Planning

GYRO HOLDINGS株式会社

株式譲渡

2025年3月5日

株式会社西友

株式会社トライアルホールディングス

株式譲渡

2025年3月11日

Leiber GmbH(ドイツ)

アサヒグループ食品株式会社

株式譲渡

2025年3月11日

株式会社エナビードゥーエ

株式会社バルニバービ

株式譲渡

2025年3月12日

神州一味噌株式会社

株式会社グローバルサンホールディングス

株式譲渡

2025年3月14日

シンセンフードテック株式会社

株式会社JR東日本クロスステーション

株式譲渡

2025年3月18日

Shin Nihon Kousan Inc.(米国)

Storytellers USA, Inc.

株式譲渡

2025年3月19日

株式会社55style

株式会社JBイレブン

株式譲渡

2025年3月25日

株式会社ザ・ハミルトン

株式会社OICグループ

株式譲渡

2025年3月26日

東洋精糖株式会社

ウェルネオシュガー株式会社

TOB

2025年3月31日

コメックス株式会社

株式会社OICグループ

株式譲渡

今月の公表M&Aにおいて取り上げたいのは東証プライム市場に上場しているウェルネオシュガー株式会社(以下、ウェルネオシュガー)が、東証スタンダード市場に上場している東洋精糖株式会社(以下、東洋精糖)に対して実行したTOB(株式公開買付)です。実は精糖業界は日本の食品製造業界でも古くから再編が進んできた業界で1900年代初頭から合併が進んでいる業界で、今回、譲り受け側となったウェルネオシュガー自体も2023年に日新製糖と伊藤忠精糖が経営統合してできた企業です。業界再編が進んでいる精糖業界を知ることは他の食品製造業の先行事例にもなり得るため、今月の事例として取り上げたいと思います。

日本の精糖業界は、他の食品製造業と同じく人口減少や原材料の価格高騰の影響を受けているだけではなく、近年の低甘味・低カロリー志向によって砂糖の代替製品が数多く発売されるなど、業界全体の先行きが不透明な状況です。こうした中で、成長分野である機能素材への注目が集まっています。東洋精糖は、砂糖事業としては「みつ花」ブランドの精製糖が有名ですが、機能素材としてはステビア甘味料、ゆずポリフェノール、酵素処理ルチン、バオバブオイルなど多岐に渡る機能素材を製造・販売しています。ウェルネオシュガーは、東洋精糖を譲り受けることで、砂糖事業そのものの規模拡大だけではなく、機能素材事業の成長や、スケールメリットを活かしたコスト削減等を目指し、今回のTOBを実行しました。食品業界を取り巻く事業環境の変化を受けて、大手同士であっても手を組む時代です。中堅・中小企業にとっても、今後ますますM&Aが重要な経営戦略になってくる時代になったと言えるでしょう。

業界のニュース

農林水産省が価格形成の行動規範に『判断基準』を検討

2025年3月21日、農林水産省は広範な食品事業者からなる「適正な価格形成に関する協議会」を開催し、すべての食品のサプライチェーン各層で適正コストを下回る取引を防止するための「判断基準」の検討に入りました。これは「食品システム法」(食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律)が閣議決定し、国会審議入りしたことを受けてのことです。

この「判断基準」では、まず、価格交渉の協議に誠実に対応することなどを食品事業者に対して新たに課す2項目の努力義務が含まれます。1つは「持続的な供給に要する費用等の考慮を求める事由を示して取引条件の協議の申出がされた場合、誠実に協議」すること、もう1つは「取引の相手方から持続的な供給に資する取組の提案があった場合、検討・協力」することです。

また、農林水産省が実施する取引実態調査に照らし、対象とする品目の価格形成が合理的か否かを判断する際の基準も定められます。取引が判断基準から逸脱していると認めた場合、逸脱の度合いと品目に応じて「指導・助言」「勧告・公表」「公正取引委員会への通知」が行われます。

今回改正された食品システム法は、主に食糧供給の不安定化や異常気象、紛争などのリスクに対応し、食糧安全保障を強化する目的で改正されており、現在の世界情勢を鑑みるに必要な対応ではあると思います。また、本法案では、食品産業の持続的な発展を優遇税制などで支援する新たな計画認定制度も盛り込まれています。しかしながら、持続的な供給のために追加で発生するコストを十分に吸収できるかなど、食品事業者が対応を考えなければならないことは数多くあり、経営の難易度が高い時代になっていることは間違いないでしょう。

まとめ

今月の事例で紹介させていただいた精糖業界のように、大手企業同士であっても、これまで競争していた企業と協調していく時代へと変わってきました。今月の業界ニュースで取り扱った食品システム法の改正も、目的としているのは「世界情勢なども含め、極めて不安定な現代において、食品という人々が生きていくために欠かせない重要なものを、いかに持続的に供給できる世の中にできるか」というところにあります。

かつての高度経済成長期など人口が増加し、市場も拡大していくフェーズでは自社の拡大さえ考えていても良かったのかもしれませんが、日本の人口減少・原材料から物流まであらゆるコストの上昇・世界情勢の変化による食糧供給の不安定さなど、自社単独では対応が難しい時代へと突入しました。業界全体として一丸となって取り組んでいくべき課題が増えたことで、今後、食品業界でも精糖業界のように、それぞれの分野において業界再編が進んでいくことでしょう。このようなケースにおいては業界再編の波に乗り遅れるよりは、大手企業側は積極的に自らが業界再編を先導していくことが業界でのポジションを確立するために重要となってきます。また、中堅・中小企業においては大手同士のM&Aが加速すると、規模感が合わず業界再編から取り残されるリスクもあるため、できるだけ早くM&Aの準備をしておくことが重要となります。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

渡邉 智博

宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。

担当者:渡邉 智博部署:食品業界支援部役職:執行役員

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