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業界別M&A
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食品業界の2025年3月〜5月の主なM&A

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食品業界では、2024年後半から外食を中心として譲渡価格100億円超えのM&Aが複数実施されたことから、今年も引き続きM&A市場が活況になっています。2024年10月に「資さん×すかいらーくHD(譲渡価格240億円)」(左側が譲渡企業、右側が譲受企業。以下、同様。)、同じく10月に「ジーHD×サンマルクHD(譲渡価格110億円)」、翌11月には「B級グルメ研究所HDなど2社×サンマルクHD(譲渡価格104億円)」が公表されました。この流れも受け、2025年3月~5月の公表事例は38件となりました(前年3~5月累計は28件)。

日に日に、食材や物流に関する原価が高騰し、人口減少から就労者と消費者も共に減少するなかで、大手企業と手を組み、仕入や採用など多くの面でスケールメリットを活かしていきたい中堅・中小企業と、まだ成長余力を残している優れたブランドを傘下に迎え入れることで厳しい食品市場の中で第二の柱を育成していきたいと考える大手企業の思惑が合致し、今後、更なるM&A件数の増加が予想されます。

目次

2025年3~5月の主なM&A

公表日

譲渡企業

譲受企業

形式

2025年3月5日

Innovation Planning

GYRO HOLDINGS

株式譲渡

2025年3月5日

西友

トライアルホールディングス

株式譲渡

2025年3月19日

55style

JBイレブン

株式譲渡

2025年3月28日

コメックス

OICグループ

株式譲渡

2025年4月14日

狼煙

クリエイト・レストランツ・ホールディングス

株式譲渡

2025年4月18日

うちだ屋

こむぎの

株式譲渡

2025年4月28日

岐阜タンメンBBC

MSD企業投資

株式譲渡

2025年5月12日

クーデションカンパニー

あみやき亭

株式譲渡

2025年5月14日

サンライズサービス

テンポスホールディングス

株式譲渡

2025年5月26日

永野

丸久

株式譲渡

この3ヶ月間のM&Aには大きく2つの特徴があります。それは、①規模が大きいこと、②小規模でもブランドが優れていること、です。まず規模について、譲渡企業として西友(売上高6647億)や、サンライズサービス(売上高54億)、永野(売上高52億)は言うまでもありません。また、55style(国内43店舗、海外16店舗)、うちだ屋(42店舗)、岐阜タンメンBBC(38店舗)、クーデションカンパニー(24店舗)など、多くの中堅・中小企業のオーナー様が「これなら自社単体でもやっていけるのではないか」とお考えになる規模ではないでしょうか。

2つの目のブランド力についてですが、例えば、狼煙(つけ麺店など5店舗)は、店舗数こそ5店舗ですが、大手グルメサイトが選出する東日本ラーメンのトップ100にも複数回選出されるなど、確固たる実績をお持ちです。

特に外食業界では、高度経済成長期前後に誕生した外食チェーン店が人口の増加と共に拡大していき、現在の市場を牽引しています。すかいらーく、マクドナルド、ミスタードーナツ、ゼンショーなど多くの大手企業がこの時期に誕生しています。これら大手企業は国内において、同一ブランドとしては十分すぎるほど店舗数を広げてきました。例えば、資さんうどん(譲渡価格240億円)で話題を集めたすかいらーくHDですが、2025年3月末時点で3071店舗ありますが、ファミレス業態(ガストなど)が2627店舗を占めます。これだけ拡大してくると起こるのが「自社内競合」です。

大手企業の既存ブランドの展開に頭打ち感がある状況下で、大手企業が目をつけているのが「自社ブランドとバッティングしない新業態」や「自社ブランドの既存店の一部を業態変更することで成長が見込める新しいブランド」になります。例えば、前述のガストの一部をM&Aで譲り受けた資さんうどんに変えることで、自社内競合を解消し、グループ全体の売上向上につなげることができる可能性があります。

既に多くの店舗を持つブランドは大衆から指示される実力を証明していますし、グルメサイト等での評価が高いブランドは数こそ少なくても拡大できるポテンシャルを感じさせます。

譲渡企業側からして見ても、これだけコスト上昇が続く環境下では、大手のスケールメリットを活かすかたちで単体ではなく協調して成長を目指すことにメリットがあるのです。自社だけでは描けなかった出店ペースの実現や、場合によってはファンド等と組むことで、上場を目指すなど、成功している中堅企業のオーナー様であっても柔軟な発想を持ち、自社の譲渡を含めたM&Aを経営戦略の選択の一つとする時代がきています。

中堅企業のM&Aが進む中で、今後、中小企業においてM&Aの波から乗り遅れるリスクが出てきます。感受性の強い日本人オーナー様ほど、会社を愛するがゆえに感情的に株式を手放したくない思いをお持ちかとは思いますが、この3ヶ月のM&A事例をもとに「絶対に自分が株主ではないといけない理由は何か」を一度振り返ってみていただく機会にしてもらえれば幸いです。

食品業界の注目ニュース

2025年5月9日、ローソンは次のようなリリースを出しました。

「現在東京都の約400店舗で展開している冷凍おにぎりの取り扱いを、5月13日から新たに茨城県、栃木県、山梨県、千葉県、東京都、神奈川県の約1300店舗に拡大します。これにより、冷凍おにぎりの取り扱い店舗数は約1700店舗となります」

私は2023年からこのニュースを注目して追ってきました。2023年8月当時は福島県と東京都で僅か合計21店舗のみの実験的なスタートでしたが、当時から物流の2024年問題(ドライバーの年間時間外労働時間の上限が制限される問題)が注目を集めており、運べる物量が制限されることで、おにぎりのような日配品はコスト高が予想できました。また、世界人口が増加する中、世界規模で見てみると食糧不足になっており、食品ロスの問題は世界的に取り上げられていた中でもありました。冷凍食品は、一度に大量に運んでも、日持ちがするという点で、物流と食品ロスの問題の両方を解決できる可能性を秘めていました。同時期に物流大手のヤマタネが冷凍食品を中心とした食材卸のショクカイを約69億円で譲り受けたM&Aは食品業界で話題となり、このような2023年の状況下で、私は冷凍技術を活用した食品の需要拡大や、M&Aの増加を予測していました。

ローソンの発表によると、まとめて作り置きできる冷凍食品は製造コストの削減もでき、常温のおにぎりに比べて価格を1~2割ほど抑えられるとのことです。現在のコメ価格高騰の中で、消費者ニーズとも合致しているといえます。また、賞味期限も1年ほどあり、購入後すぐに食べたい人は店内のレンジで温めてすぐに食べることも可能とのことで、今後11月までに約2000店舗、2026年9月までに約4000店舗、2026年度中に冷凍ケースがある全店舗に拡大すると発表しています。

このように冷凍技術を活かした商品は各社力を入れていくことが予想され、ごはんだけではなくパンや菓子といった領域でも広がっていき、優れたブランドを冷凍技術によって全国で販売していくといった戦略もとれるため、M&Aニーズも高まるのではないかと予測されます。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

渡邉 智博

宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。

担当者:渡邉 智博部署:食品業界支援部役職:執行役員

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