2025年10月の食品業界M&Aまとめ
10月の代表的な公表M&A一覧
2025年10月の食品業界のM&A件数は14組(公表ベース)
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで14件となり、1~10月の累計件数は148件となりました。なお、前年同月は9件、前年1~9月の累計件数は114件となっており、前年と比較して食品業界のM&Aが活発化していることが分かります。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2025年10月01日 | (株)カネシン[北海道] | (株)レブニーズ[北海道] | 株式譲渡 | 道東地域の海産物の付加価値向上や、礼文島をはじめとする産地との連携をさらに深め、新たな価値を創出するため |
2025年10月01日 | (株)文化堂[東京都] | (株)ブルーゾーンホールディングス[東証417A・埼玉県] | 株式譲渡 | 経営資源を相互活用して切磋琢磨し、スーパーマーケットとして独自の「強み」をさらに磨きながら自律的な成長発展を目指すため |
2025年10月01日 | デライトホールディングス(株)[愛知県] | (株)ブルーゾーンホールディングス[東証417A・埼玉県] | 株式譲渡 | お互いの良さを磨き上げ、更なる成長を目指すとともに、全国に仲間を増やし、個性あるローカルスーパーを残し発展させるため |
2025年10月02日 | (株)エスサーフ[滋賀県] | 国分グループ本社(株)[東京都] | 株式譲渡 | 滋賀県の酒類食品流通を持続的に支え、地域になくてはならない卸となるべく、商品調達力、物流機能を相互に活用し、地域活性化に貢献するため |
2025年10月3日 | (株)優食[岡山県] | (株)KOMPEITO[東京都] | 株式譲渡 | 給食・在宅配食サービスの強化で働く世代からシニア世代まで幅広い層に向けた「日常に寄り添う食のサービス」の提供を加速するため |
2025年10月6日 | (株)京北スーパー[千葉県] | (株)ランドロームジャパン[千葉県] | 株式譲渡 | これまでの株式会社京北スーパーの事業実績と信頼を受け継ぐとともに、ランドロームジャパンがすでに持つノウハウを組み合わせることにより、さらに発展させていくため |
2025年10月6日 | (株)ジョイア・ミーア・ガーデン[栃木県] | 日本テーマパーク開発(株)[東京都] | 事業譲渡 | 持続可能な観光産業の発展と地域活性化を目指し、地域全体の魅力を高めるため |
2025年10月7日 | (株)八百半ホールディングス[栃木県] | (株)クリエイトSDホールディングス[東証3148・神奈川県] | 株式譲渡 | 新商勢圏における知名度の高いスーパーマーケット運営企業であることに加え、出店地域における地域特性を踏まえた食品・生鮮の品揃えや売り方のノウハウを得るため |
2025年10月7日 | (株)あじさいホールディングス[長崎県] | ヤマエグループホールディングス(株)[東証福証7130・福岡県] | 株式譲渡 | 事業ポートフォリオの変革による事業多角化のため |
2025年10月8日 | (株)亀製麺[東京都] | (株)松屋フーズホールディングス[東証9887・東京都] | 株式譲渡 | 麺事業拡充によりグループの成長を加速させるため |
2025年10月14日 | フィリコ・ジャパン(株)[東京都] | (株)GENDA[東証9166・東京都] | 株式譲渡 | 販売網やナイトマーケット市場動向の共有、IP(知的財産)ファンへの価値提供の幅を拡充するため |
2025年10月14日 | (有)ロイヤルファーム[青森県] | 神内ファーム二十一(株)[北海道] | 株式譲渡 | ロイヤルファームのさらなる成⾧を実現し、事業の発展を追求するため |
2025年10月15日 | (株)九州堂[東京都] | (株)evisu[東京都] | 事業譲渡 | 九州のブランドを再生し未来へつなぐため |
2025年10月28日 | (有)オーパス[大阪府] | (株)イートアンドホールディングス[東証2882・東京都] | 株式譲渡 | 餃子ブランド群の多角化のため |
<2025年10月の食品業界 公表M&A>
「松屋の牛丼」で有名な牛丼チェーン大手である株式会社松屋ホールディングスが、株式会社亀製麺を譲受しました。これは、本年7月に同社が新宿に開業した「松太郎」において、新業態となるラーメン事業への参入を果たしたことが背景にあり、その内製化や展開を見据えたものと考えられます。
「農林水産省 令和7年産米の相対取引価格・数量(令和7年9月)(速報)」によると、令和7年度米の相対取引価格は、対前年比で全銘柄平均148%の価格となっています。
一方で、米と並んで主食に使われる小麦はその約85%を輸入に頼りつつも輸入小麦の価格は令和7年10月で対前年比▲4%と引き下げられています(農林水産省 輸入小麦の政府売渡価格の改定について 令和7年9月10日 より)。
引き続き、外食各社が米の高騰に対策を講じる中で、松屋ホールディングスはラーメン業態への参入により、丼業態以外へのポートフォリオ展開を狙い原価高騰の影響抑制を進めようとしていると推察されます。
また、ラーメン業態の展開は同社の主要ブランド「松屋」における牛肉を主としたブランド以外へのポートフォリオ分散も可能としており、牛肉高騰への対策も併せていると思われます。
さらに、小規模ブランドが多いラーメン業態において、仕入れルートに乗せる事による仕入れ価格の抑制ができる大手のメリットを最大限に活用できるというシナジーも有利な点です。
吉野家ホールディングスなど大手外食企業が、同様に原価高騰対策も含めてラーメンブランドをM&Aにより譲受を進める流れが続く中で、同様にQSR(クイックサービスレストラン)を得意とする松屋ホールディングスの今後の展開に注目です。
業界のニュース
ボージョレ・ヌーヴォー2025「太陽に恵まれた当たり年」
サントリーは10月22日、毎年11月の第3木曜日に解禁されるフランス産新酒ワイン、ボージョレ・ヌーヴォーの日本戦略取材会を羽田空港にて開催し、初荷便を披露しました。
ボジョレー・ヌーヴォーのキャッチコピーは実は2つあり、フランス食品振興会が打ち出しているものとサントリーが販売拡大のためにアレンジしたものに分かれます。本年サントリーが取り扱うボージョレ・ヌーヴォーは「太陽に恵まれた当たり年で、甘く濃い味わいに仕上がった」とのことです。
ボージョレ・ヌーヴォーが諸外国と比較して、特に日本で盛り上がりを見せる理由として、まず文化的に「初物」への意識が挙げられます。さらに、先進国の中で日本のみがフランスより先に解禁日を迎えることができるため「フランス本国より先に」というマーケティング戦略が展開しやすい背景もあります。
2004年のピーク時には製造量の半数近くが日本に輸入されておりましたが、2024年の輸入数は7分の1程度まで減少しています。しかしながら、依然として国内ではスーパーや飲食店における「イベント」として、その存在感を維持しています。
このようなイベントにおいては「バレンタインデー」のようにモロゾフ株式会社が販促のために掲載した広告を契機としたものや、「土用の丑の日」のように平賀源内が夏の売上低迷期におけるうなぎの販売促進のために考案したものなど、多様な事例が存在します。
まとめ
食品業界では、引き続き原価高騰が各社の課題として認識されております。
松屋ホールディングスのM&A事例からもわかる通り、単一業態に特化した経営のリスクは如実に露呈しており、ポートフォリオの拡大は従来より有効な打ち手の一つとされています。
また、ポートフォリオ戦略以外にも、北海道や九州といった地域ブランドを活用することで既存商品の付加価値向上を目指す海産物やギフト関連の業態、ドミナント展開する有名企業を商圏ごとに譲り受ける大手スーパーの拡大戦略、高付加価値商材を持つブランドを自社ネットワークに組み込むことで販路拡大を目指す成長戦略など、各社は多岐にわたる戦略を策定しています。
一方、特に大手企業の動きとして、完全に新規のマーケットを獲得するという目的で、自社ブランドの海外進出や海外ブランドのM&Aによる譲受など、大手企業の強みである資本を活用した戦略も見受けられます。
共通して言えるのは、「現状維持」で厳しい局面を乗り切るのではなく、継続的な対策を講じることを企業戦略としている点であり、その打ち手の一つとしてM&Aは引き続き活発に行われるものと推測されます。
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兵庫県出身。自身の経営する会社を譲渡後、業界特化型のスタートアップにて法人営業およびPdMに従事。また、講師として業界課題解決セミナーに複数回登壇。300社以上の業務改善支援の実績がある。2024年スピカコンサルティングに参画。