2026年4月の食品業界M&Aまとめ
2026年度のスタートとなった4月、食品・外食業界のM&A市場は前年同期を上回るペースで活況を呈しており、企業の生き残りをかけた「攻めと守り」の戦略が鮮明に表れた1ヶ月となりました。
「攻め」の象徴が、オイシックスグループによる米国事業買収に代表されるクロスボーダーM&Aです。国内市場が縮小する中、現地のサプライチェーンを直接獲得する動きが加速しています。一方、「守り」の最大の焦点となったのが、4月中旬に発表された「外食業の特定技能1号受け入れ一時停止」という衝撃的なニュースです。頼みの綱であった外国人材の新規採用が事実上ストップした今、業界全体がビジネスモデルの根本的な見直しを迫られています。
本記事では、4月の主要M&A事例を振り返りながら、グローバル市場への展開戦略と、深刻化する「人材難」を乗り越えるための新たな経営戦略について、専門コンサルタントが解説します。
この記事を見るとわかること
- 2026年4月の食品業界主要M&A一覧: 前年超えのペースで進む業界再編の最新動向
- 【Pick Up】オイシックスグループのクロスボーダー戦略: 米国・和食デリ事業(BentOn)買収に見る、現地完結型プラットフォームの構築
- 「特定技能1号」受け入れ停止の衝撃: 外食産業を直撃する採用凍結と、出店戦略への影響
- 「採る経営」から「定着する経営」へ: 既存スタッフの離職を防ぎ、少人数で回るオペレーションをどう構築するか
- 人材難を解決するM&A: 採用力強化や現場ノウハウの獲得を目的とした、これからの資本提携のあり方
4月の代表的な公表M&A一覧
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで17件となり、2026年1-4月の累計件数は54件(前年同期間は49件)です。なお、前年同月は13件となっており前年同期比で増加しておりM&A市場が活況であることが伺えます。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2026年4月1日 | (株)高谷商店[滋賀県] | (株)ベジテック[神奈川県] | 株式譲渡 | 関西及び中京エリアの販売網を強化し、全国供給体制を実現するため。 |
2026年4月1日 | 丸進青果(株)[福岡県] | ヤマエグループホールディングス(株)[東証7130・福岡県] | 株式譲渡 | ポートフォリオ拡大及び互いの事業成長のため。 |
2026年4月1日 | (株)UNIVERSO[東京都] | (株)ひらまつ[東証2764・東京都] | 株式譲渡 | 評価の高いブランドを譲受し、ポートフォリオ拡大及び今後の店舗展開による事業成長のため。 |
2026年4月1日 | (株)なの花九州[福岡県] | シダックスフードサービス(株)[東京都] | 株式譲渡 | 九州地域での実績とシダックスの商品開発力や付加価値提供のノウハウの融合により、持続的な給食事業の構築のため。 |
2026年4月2日 | (株)やま中[福岡県] | (株)OSAM[福岡県] | 株式譲渡 | やま中の有する高いブランド力とOSAM親会社である大迫HDの有する不動産ネットワークによるさらなる拡大を目指すため。 |
2026年4月3日 | (株)むさし[千葉県] | まん福ホールディングス(株)[東京都] | 株式譲渡 | むさしの抱える後継者問題の解決と、まん福HDの商品開発力や付加価値強化のため。 |
2026年4月3日 | (株)花の露[福岡県] | ベストアメニティ(株)[福岡県] | 事業譲渡 | 江戸時代から続く歴史ある酒造を再生し、さらに発展させるため。 |
2026年4月6日 | 鮨桝食品(株)[大阪府] | ホリイフードサービス(株)[東証3077・茨城県] | 株式譲渡 | 既存基盤である東日本エリアに加え、西日本エリアへの拡大を目指すため。 |
2026年4月10日 | (株)P&Cファクトリー[宮城県] | (株)KYフーズ[岩手県] | 株式譲渡 | 地域の人気店を次世代に繋ぐとともに、グループ内での展開や商品開発力獲得のため。 |
2026年4月10日 | (株)Yクリエイト[東京都] | (株)マーキュリー[東京都] | 株式譲渡 | 人材育成と店舗運営を融合した新たな価値創出のため。 |
2026年4月13日 | (株)朝日ミート[山口県] | (株)ブロンコビリー[東証3091・愛知県] | 株式譲渡 | 西日本への店舗展開に伴う製造及び供給能力強化のため。 |
2026年4月14日 | FUN BENTO INC.[アメリカ] | オイシックス・ラ・大地(株)[3182・東京都] | 事業譲渡 | 米国 BtoB 和食市場における事業基盤を構築のため。 |
2026年4月17日 | (株)電光石火[広島県] | (株)OICグループ[神奈川県] | 株式譲渡 | 高いブランド力のあり電光石火をOICグループのグループシナジーを生かした国内外への展開を目指すため。 |
2026年4月20日 | 柏露酒造(株)[新潟県] | (株)神戸物産[3038・兵庫県] | 株式譲渡 | 生産能力の抜本的強化と製品カテゴリーの拡充による市場優位性の確立のため。 |
2026年4月21日 | perzik(株)[福岡県] | (株)CS-C[東証9258・東京都] | 株式譲渡 | 「集客と採用のシームレスな連動」を内製化し、支援のスピードと質を飛躍的に向上するため。 |
2026年4月22日 | (株)ケンコーホールディングス[神奈川県] | クレアシオン・キャピタル(株)[東京都] | 株式譲渡 | 評価の高いブランドの譲受及び改善による持続的な事業成長を目指すため。 |
2026年4月27日 | (株)いちごホールディングス[宮城県] | 太洋物産(株)[東証9941・東京都] | 株式譲渡 | 新たな収益基盤の獲得のため。 |
<2026年4月の食品業界 公表M&A>
【Pick Up M&A】FUN BENTO INC. × オイシックス・ラ・大地株式会社
オイシックス・ラ・大地株式会社(以下、オイシックスグループ)は米国ニューヨークを拠点とした弁当事業を展開するFUN BENTO INC.(以下、BentOn)の和食事業を譲受しました。
オイシックスグループは、2024年にシダックスグループを子会社化以降、食品BtoC事業である食品宅配事業及び食品BtoB事業である給食事業の領域で事業展開を進めてきました。
BentONは、和食需要が高いニューヨークにおいて、健康的で栄養バランスに優れた和食の弁当・惣菜を提供するデリ専門店として確固たる地位を築いています。
また、日米のスポーツチームや大手米国企業の社員食堂等へのケータリング実績も豊富で、オイシックスグループとも、「Oisix×BentOn」のコラボミールキットの日米同時販売等を通じて強固な協力関係を構築してきました。
これまでの協力関係をさらに強化し、米国における製造から供給までを一貫して担う「和食提供プラットフォーム」を構築し、BentOnの和食製造能力とオイシックスグループの商品開発力のシナジーによる米国での安定収益基盤の強化を目的とした事業の譲受となります。
オイシックスグループでは、2009年の香港進出、2019年のアメリカ48州でビーガンミールキットの提供事業を展開するThree Limes, Incの株式譲受など海外市場への進出を続けており、本件も同様に海外市場の獲得を目的としたM&Aといえます。
昨今の大手食品企業を対象としたクロスボーダーM&Aからもわかる通り、海外市場への拡大というマーケット拡大戦略は、国内の人口減によるマーケット縮小や日本食ブランドの海外需要の増加を背景とし、今後も引き続き行われることが予想されます。
業界のニュース
外食業の特定技能1号受け入れ停止により再認識する「人材が定着する経営」の必要性
農林水産省及び出入国在留管理庁は2026年4月13日から在留資格認定証明書の交付を一時停止しました。
背景には、外食業分野の特定技能1号在留者数が受入れ上限である5万人を超える見込みとなったことがあります。
これにより、4月13日以降に受理された在留資格認定証明書交付申請は不交付となり、在留資格変更許可申請についても原則不許可とされる方針が示されています。
この措置は、深刻な人手不足が続く外食業界にとって大きな転換点といえます。
これまで多くの飲食店では、特定技能人材を即戦力として採用し、調理、接客などの現場を支えてきました。
また、大手外食企業や今後の多店舗展開を戦略としている企業では、外国人材の採用を前提に出店計画やシフト体制を組んでいたケースも想定されます。
今後は人材確保の難易度が一段と高まることが予想され、これまでの出店戦略を根本的に見直す必要があります。
影響は新規採用及び新規出店だけにはとどまらず、営業時間の短縮、定休日の見直し、店舗オペレーションの簡素化への対応など、人材不足による課題解決が急務となります。
また、既存スタッフへの負担増加により、離職率の上昇やサービス品質の低下を招くおそれもあります。
ただし、すべての手続きが停止されるわけではなく、すでに外食業分野で特定技能1号として在留している人の更新申請は通常どおり審査され、転職等に伴う申請も一定の範囲で審査対象とされています。
今後の外食業界においては、まず現在雇用している外国人材の更新期限などをしっかりと管理するとともに教育体制や待遇改善による定着率の向上、さらに特定技能2号へのキャリアアップを目指せる環境の整備など、既存人材に長く働いてもらう体制づくりが重要になります。
今回の受入停止は、外食業界に対してこれまでの「新しく人材を採る経営」に加え「既存人材が定着する経営」の重要性への再認識を迫るものとも言えます。限られた人材で安定的に利益を生み出せる仕組みを整えることが、これからの外食企業に求められています。
まとめ
食品業界に限らず、人材不足は大きな課題といえます。
今後、少人数で無駄なく現場を回すことのできるオペレーションの構築やそのノウハウが必要とされてきます。
また、「新しく人材を採る」という既に在る難題に加え「既存人材が定着する」という新しい難題も出てくる中で、人材の確保と就労環境の向上、現場オペレーションのノウハウ獲得といった明確な目的を持った「人材難」の解決を軸としたM&Aが今後増えてくる可能性もあると言えます。
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兵庫県出身。自身の経営する会社を譲渡後、業界特化型のスタートアップにて法人営業およびPdMに従事。また、講師として業界課題解決セミナーに複数回登壇。300社以上の業務改善支援の実績がある。2024年スピカコンサルティングに参画。