2025年6月〜8月の主な調剤薬局業界M&A
2025年6-8月の調剤薬局業界のM&A
2025年6月~8月のM&Aにおいては大手チェーン、中堅企業の事例が目立ちました。譲受企業としてはファンドやドラッグストアが多く、これまでの調剤薬局同士での店舗拡大のためのM&Aから変化していることが窺えます。調剤薬局においては公表されていない事例が多く、下記以外でも水面下での経営主体の変更は他にも多数実行されています。
公表日 | 譲渡企業 | 譲受企業 | 形式 |
---|---|---|---|
2025年6月2日 | 株式会社ピーエイシー(未上場・東京都) | 総合メディカル株式会社(未上場・福岡県) | 株式譲渡 |
2025年7月31日 | 日本調剤株式会社(3341・東京都) | アドバンテッジパートナーズ(ファンド・東京都) | 株式譲渡(TOB) |
2025年8月4日 | 株式会社サンエフ(未上場・東京都) | 株式会社クリエイトSDホールディングス(3148・神奈川県) | 株式譲渡 |
2025年8月13日 | 株式会社新生堂薬局(未上場・福岡県) | 株式会社マツキヨココカラ&カンパニー(3088・東京都) | 株式譲渡 |
2025年8月19日 | 株式会社セキ薬品(未上場・埼玉県) | スギホールディングス株式会社(7649、愛知県) | 株式譲渡(持株比率49%の見込み※株式譲渡実行日は9月30日(火)を予定) |
調剤薬局業界におけるファンドの事例
近年ではファンドが関与する調剤薬局の事例が増加しています。ファンドは一定期間株式を保有し、企業価値を向上させたうえでIPOやM&Aによる売却といった出口戦略を選択することがほとんどです。大手調剤薬局の出口戦略は、大手調剤薬局かドラッグストアか、それとも異業種による薬局事業への参入か、今後の動向から目が離せません。
ファンドによる主な投資実績は以下の通りです。
・総合メディカルグループ
従来の株主であったポラリス(みずほ銀行系ファンド)から、欧州系のCVCというファンドへ株式を譲渡することによるM&Aが成立。CVCは資生堂の日用品事業を承継したファイントゥデイ資生堂や家庭教師のトライグループなどへの投資実績あり。
・クラフトグループ
2023年にNSSK(日本産業推進機構グループ/ファンド)による関与を経て、最終的には2025年8月にアイングループへ株式を譲渡(実質的な買収総額は1,000億円超)することによるM&Aが成立。NSSKは訪問介護や訪問看護を提供するケアメディカルやスポーツ食品・サプリメントを開発販売するDNSなどへの投資実績あり。
・アイングループ
アイングループの株式の約15%を、香港を拠点とするファンドであるオアシスが取得。オアシスは小林製薬、ツルハホールディングス、クスリのアオキホールディングスにも投資中。
・日本調剤
日本における初のPEファンドであるアドバンテッジパートナーズが7月31日に正式に公開買い付けの開始を発表。買収総額1,178億円。
ファンドが投資をするということは、経営の効率化による利益率改善を見込んでいるということです。また、日本では高齢者が増加するため需要が減りにくく、薬を提供するということが景気変動の影響を受けにくいことも要因のひとつです。今後の薬局経営においてはファンドと同じようにバリューアップ=企業価値(薬局価値)の向上に取り組んでいくことが必要です。
2026年度調剤報酬改定について
2025年4月から財政審議会での内容が公表され、これから年末にかけより踏み込んだ議論が進められます。発表内容を紐解くと調剤薬局業界に関連する主な論点として、以下5点が挙げられています。
項目 | 内容 |
①スイッチOTCの推進 | 保険適応としている処方箋薬の見直し |
②後発加算の適正化 | 後発比率の目標を達成したため、インセンティブを見直す |
③技術料の適正化 | 基本料1の適応範囲の見直し |
④リフィルの推進 | リフィルについては医療機関にインセンティブをつけていく |
⑤人材紹介会社への規制 | 人材会社経由の薬剤師の離職率の高さを問題視 |
<2025年4月28日 財務省財政審議会「持続可能な社会保険制度の構築」よりスピカコンサルティングにて作成>
発表資料の中では、“②後発加算”について「適正化」という言葉が多く使われていました。この適正化は実質的には減額と同義です。9月10日の中医協総会では後発加算の改定について、日本薬剤師会の委員と支払い側委員で早くも意見が対立しています。来年度の計画を立てる上で、どの程度自社の運営する店舗の収益性に影響があるのかは試算しておく必要があります。
“③技術料の適正化”については、高集中率店舗の基本料1の適応範囲が変更される可能性があります。現時点で集中率85%を超えている店舗は、対応策を練らなければ減益となるかもしれません。
今後の議論を注視しながら、自社の店舗を分析し、会社としての方針を考えていくことが必要です。家賃や人件費は高騰を続けていく中で、どのように業界の変化に対応するのか、経営者としての適切な判断が求められています。調剤報酬改定は避けらないため変化をチャンスと捉え、新しい取り組みに挑戦していくことも重要なのではないでしょうか。
今後の対応について
調剤薬局業界は大きな転換期を迎えており、大手チェーン、中堅企業においてもM&Aで他社資本を活用するという事例が増えています。また、社会保障費の抑制という国の大方針のもと、薬価改定・調剤報酬改定は進んでいきます。
保険薬局の本来の目的は『保険制度を通じて、誰もが公正に、安全かつ適切に薬を受け取れる環境を整えること』です。調剤薬局は医薬分業開始からの約50年の歴史において、上記目的を達成しながら、国民の健康を支えてきました。
今後は自社単独での成長だけでなく、資本提携を含めた選択肢を検討していくことが重要です。業界の輝く未来、そして、適正な医療サービスの継続のため、まずは情報取集からはじめてみてはいかがでしょうか。
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京都府出身。立命館大学卒業後、株式会社三井住友銀行に入行。中小企業から大企業まで幅広い業種を担当し、事業承継や成長戦略等のソリューション提案に従事。株式会社MtechAの立ち上げを経験し、その後、経営統合を経て当社参画。