エネルギー業界の2025年3月〜5月の主なM&A
2025年4月2日の第二弾の改正省令施行に伴い、LPガス販売事業者にとっては三部料金制への対応など新たな挑戦が始まりました。営業管理システムへの追加投資や設備の価値判断、また実態としての設備費用の明記方法など、やるべきことは目白押しなのではないでしょうか。さて直近3ヶ月でのLPガス業界を取り巻くM&A動向は、業界の特性上、公表件数自体は少数となりますが、引き続き卸元による販売事業者に対する商権譲受の動きも継続されており、業界全体を通したM&Aに対する温度感は高い水準で維持されております。
2025年3月〜5月の主なM&A
公表日 | 譲渡企業様 | 譲受企業様 | 形式 |
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2025年3月6日 | 株式会社門倉商店 | 日本瓦斯株式会社 | 国内同業M&A(株式譲渡) |
2025年4月1日 | 総社ガス株式会社 | 伊藤忠エネクスホームライフ株式会社 | 国内同業M&A(吸収合併) |
2025年4月21日 | Taiyo Gases Co., Ltd.(日本酸素HDグループ) | 株式会社巴商会 | 海外同業M&A(一部株式譲渡) |
2025年4月29日 | 株式会社ハクエイ | 株式会社サイサン(Gas Oneグループ) | 国内同業M&A(株式譲渡) |
2025年6月8日 | 陽品倉庫株式会社(基幹事業は燃料輸送) | 三和エナジー株式会社 | 国内近隣異業種M&A(株式譲渡) |
特に直近3ヶ月では、LPガス業界の近い未来を暗示するようなM&Aが散見されました。
基本的に国内同業同士のM&Aでは、譲渡オーナーにとっては後継者問題の解決や高い営業権を活用した株主利潤の獲得、またグループインによる顧客提供価値の向上を目指す側面があります。一方で、譲受企業にとっては、サプライチェーンの強化が主題となりました。また、近隣異業種による一部業界横断的なM&Aも実行され、LPガス業界内で鎖国的に商権譲受が軸となっていた時代はとうに転換期を迎えていることが分かります。
改正省令の施行により、消費者が支払う「LPガス料金の透明性」の担保を求められるなかで、実態としては国を挙げてのサプライチェーンの効率化が力強く訴求・推進されております。このサプライチェーン効率化の一端を担うのが、まさしくM&Aであり、規模を問わずすべての販売事業者にとって“経営戦略におけるひとつの選択肢”として色濃くなってきたのではないでしょうか。
LPガス業界の主なニュース
昨年7月2日の第一弾の改正省令施行から早半年が経過し、2025年4月2日より第二弾の改正省令施行による三部料金制への対応が義務付けられました。顧客に明示する三部料金に対する考え方は、ワーキンググループを含め多数議論が重ねられておりましたが、実装に伴い方針が明確化されたように見えます。しかし、販売事業者の足並みが揃っている状況とは言い難く、各地域によって三部料金への対応度合いは大きく異なる現状となっております。
三部料金制の導入における最大の論点は、消費者が支払う「料金の透明性の担保」であり、LPガス消費と関係のない設備費用のLPガス料金への計上が禁止され、外出しでの表示が義務付けられました。従来の基本料金・従量料金の二部構成から、今後は基本料金・従量料金・設備料金の三部構成での表示が求められる点は、販売事業者ならびに消費者にとって大きな変革となります。設備料金の外出し表示に伴って、販売事業者にとっては、正しい費用回収のあり方が求められていると言えるでしょう。
販売事業者にとって三部料金制の導入が進まない最大の理由は、そもそも外出しすべき設備料金の実態を過去含め正しく管理できていなかった点ではないでしょうか。現在価値が不透明な設備に対して数字を明記する必要があることは、販売事業者にとっては大きな負担と決断が強いられている現状となります。
またLPガス業界の歴史を振り返るなかでも、販売事業者にとって改正省令への対応は、近隣事業者の動向を見ない限りは進められない・進めたくないという側面もあるかと思います。早期に法令遵守したことによって自社が単独で損失(例:顧客の離反等)を被りたくない思考が芽生えていることは、実際に販売店オーナー様の声を聞いても確かです。この点は各地域の大手販売事業者の率先した旗振りによって一部ケアされているかもしれませんが、販売事業者同士の連携や各社の実態を理解したうえで、今後も情報感度を高く、経営の舵取りを行う必要があると言えるでしょう。
今後の更なる三部料金制の浸透に伴って、LPガス業界の再編はより加速度的に進捗していくことが予測されます。そもそもLPガス業界では、事業承継や成長戦略、また高い営業権を顕在化させ株主利潤の獲得のために、M&Aという選択肢を選ばれる販売事業者が多数いらっしゃいました。
しかし国を挙げての改革に対し、各地域の販売事業者は企業としてのあり方そのものの見直しが求められています。改正省令への対応は、販売事業者の生の声から非常にハードルが高い側面もあるなかで、今後は「大手資本を活用した改正省令への対応に向けたM&A」という選択肢も増加していくでしょう。
また昨今のLPガス業界には近隣異業種を含めて外部資本の参入が進んでいる点からも、業界再編のスピード感が早まっていくことが考えられます。業界構造として、すべての事業者が同一商品を扱い、商品の選択が消費者に委ねられ、また事業者向けの省令が定期的に更新される調剤薬局業界においても、かつて同様の傾向がみられました。調剤薬局業界ではLPガス業界以上に大手企業による寡占化が進むなかで、業界再編の進捗に伴い中堅・中小規模の事業者に限らず大手事業者においてもM&Aを活用した経営課題の解決が進められていきました。業界は異なるものの、進む道と描く未来像は限りなく酷似することが想定されます。
LPガスという人々の生活を豊かにするエネルギーが普及して半世紀以上が経過し、販売事業者が供給するものは変わらずとも、業界環境は大きな変化を遂げました。いまその変化の波が各販売事業者にも押し寄せております。これを荒波と捉えるか、逆にこの波に乗って企業としてさらなる発展を遂げられるかは、オーナー様の決断に委ねられております。スピカコンサルティングが提供する「M&A支援」「バリューアップコンサルティング」は、その波への対処を支援するひとつの選択肢にすぎません。業界が変化を求めるいま、自社の輝く未来を想像しながら、ひと呼吸おいて視野を拡げてみてはいかがでしょうか。
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東京都出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業後、2022年に新卒で中堅M&A仲介企業に入社。2023年より株式会社スピカコンサルティングに参画。