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2026年9月 製造業M&Aまとめ

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2026年9月の製造業界では、自社の既存事業の強みをベースに、周辺にある技術や加工機能、顧客基盤を取り込む戦略的なM&Aや資本提携が公表されました。

今月の注目の動きは、前田工繊による自動車用吸音表皮材メーカー・名古屋油化の完全子会社化です。不織布への樹脂加工技術や自動車分野での納入実績を獲得することで、自社事業の補完と新製品開発を目指す取り組みと言えます。また業界ニュースとしては、キオクシアとサンディスクによる2032年までに約5兆円規模の国内半導体投資計画が提示され、周辺の製造業における技術・受注機会の創出に関心が集まっています。

本記事では、9月の主要事例を振り返りながら、技術の接点を活かしたM&A戦略と、大型設備投資に伴う周辺需要の捉え方について解説します。

この記事を見るとわかること

  • 2026年9月の製造業主要M&A一覧
  • キオクシア×サンディスクの約5兆円投資: 四日市・北上工場における半導体生産体制の強化
  • 自社の保有技術と市場・他社の不足部分との「接点」を見極める重要性

目次

9月の公表M&A代表事例

2026年9月は、製造業において、技術力や製品群、顧客基盤の補完を通じて、既存事業の競争力を高めるM&Aや資本提携の動きが見られました。事業規模の拡大に加え、加工・開発機能の強化や新たな市場への展開など、企業同士の強みを組み合わせて成長につなげる取り組みが進んでいます。事業環境が変化するなか、自社に不足する経営資源を補い、付加価値の向上や持続的な事業基盤の構築を目指す動きがうかがえます。

公表年月日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

目的

2026年9月2日

(株)倖生工業【千葉県】 

(株)ヨシムラ・フード・ホールディングス【2884・東京都】 

株式譲渡

独自開発の「倖生炭グリラー」など高い製品力・ブランド力を有する倖生工業をグループに迎えることで、既存の海外販売・メンテナンス網を活用した海外展開の加速および中長期的な企業価値向上を図るため。 

2026年9月4日

名古屋油化(株)【愛知県】 

前田工繊(株)【7821・福井県】 

株式譲渡

自動車用吸音表皮材分野における事業基盤を拡充し、技術・ノウハウの融合やグループ経営資源の活用を通じて安定的な収益基盤の強化および更なる企業価値向上を図るため。 

2026年9月7日

(株)星野製作所【新潟県】 

(株)オーエム製作所【大阪府】 

株式譲渡

対象会社が有する技術力および板金製造設備等を取り込むことにより、中大型立旋盤の製造に不可欠な板金部品の安定確保と増産体制の確立を図り、スピード・コスト両面での優位性を確保するため。 

2026年9月25日

PRESTIGE DYNAMICS INDUSTRIES Sdn.Bhd. 【マレーシア】

信越ポリマー(株)【7970・東京都】※シンガポール子会社経由

株式譲渡

対象会社が有する金型・治具等の設計・製作技術と、自社の樹脂加工技術や販売ネットワークを組み合わせることで、製品開発力および顧客対応力の強化、コスト競争力の更なる向上と海外生産体制の強化を図るため。 

2026年9月28日

四国三菱電機販売(株)【香川県】 

(株)RYODEN【8084・東京都】 

株式譲渡

四国地域におけるFA(ファクトリーオートメーション)機器等の販売網・顧客基盤を強化し、事業ポートフォリオの更なる拡充と持続的な企業価値向上を図るため。 

【Pick UpM&A】前田工繊<7821>、自動車用吸音表皮材製造の名古屋油化を買収

2026年9月4日、前田工繊株式会社は、自動車用吸音表皮材を製造する名古屋油化株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。

名古屋油化は愛知県東海市に本社を置く、60年を超える業歴を持つメーカーです。自動車業界で長年の採用実績を持ち、自動車用吸音表皮材 では国内トップクラスのシェアを有する企業です。今回のM&Aで注目したいのは、名古屋油化が持つ「樹脂配合」と「不織布への加工」の技術です。前田工繊がこれまで行ってきたM&Aを振り返ると、今回のM&Aも同社の方針に沿った案件であることが分かります。

名古屋油化の主力製品は、自動車の吸音材・断熱材に使用される表皮材です。同社では、独自の樹脂配合技術と不織布への樹脂加工技術を組み合わせ、耐熱性、難燃性、接着性、形状保持性などの機能を持たせた製品を製造しています。自動車用の吸音材では、吸音性能だけでなく、軽量化や省スペース化も求められます。名古屋油化は通気を抑えた不織布を用いることで、表皮材を薄く・軽くしながら吸音性能を確保する技術を持っており、自動車部品での豊富な採用実績があります。自動車部品は、性能や価格だけで新規参入できるものではなく、品質管理や量産対応を含めた実績が求められます。本件を通じて、前田工繊は加工技術に加え、自動車分野の顧客基盤も獲得できます。 

前田工繊というと、土木・建築資材の印象が強い会社ですが、不織布も20年以上前から手掛けています。2005年、日本不織布から各種不織布の製造・販売事業を取得して以降、事業領域を広げ、現在は土木・建築資材のほか、不織布、自動車用鍛造ホイール、高機能ワイピングクロス、農業資材などをグループ内で展開しています。今回の名古屋油化のM&Aは、前田工繊にとって全く新しい分野への参入ではありません。前田工繊は自社が持つ熱可塑性樹脂の技術と、名古屋油化が持つ熱硬化性樹脂の技術を組み合わせ、新製品開発につなげる方針を示しています。すでに持っている不織布という素材に対して、樹脂を配合・塗布し、求められる性能を持たせる技術が加わるM&Aです。

今回の案件は、前年の三井化学産資の買収とも共通しています 。前田工繊は2025年、三井化学産資を子会社化しました。三井化学産資は、合成樹脂製品のほか、土木資材、建築資材、配管資材などを製造している企業です。このM&Aでも、前田工繊がもともと強みを持つ土木資材の製品ラインアップを拡充するとともに、点字タイルなどの建築資材や配管資材にも事業領域を広げています。2025年の三井化学産資、2026年の名古屋油化。事業内容は異なりますが、いずれも既存事業との接点があり、その周辺にある製品や加工技術を取り込んでいる点は共通しています。

前田工繊は2000年以降、M&Aや事業譲受を重ねてきました。不織布、農業資材、自動車用鍛造ホイール、フィッシュミール、防水材、遊具など、対象となる業種は幅広く、一見すると多角化を目的としたM&Aにも見えます。しかし、同社が公表している買収先の選定基準を見ると、業種そのものより別の観点を重視していることが分かります。

重視しているのは、原則として「モノづくり」の会社であること。そして、自社が対象会社の基礎技術を理解できることや、既存事業とのシナジーが見込めることです。業種だけを見ると幅広い前田工繊のM&Aですが、買収先の技術や製品を既存事業と組み合わせるという考え方は一貫しています。

製造業のM&Aでは、売上高や営業利益、保有設備などが企業を評価する際の基本的な情報になります。一方で、今回の名古屋油化のように、それだけでは買収の意味を十分に説明できないケースもあります。不織布に樹脂を配合・加工する工程、その中で蓄積された配合ノウハウ、自動車部品として採用されるための品質対応、長年の取引実績などがその例です。製造工程を並べたとき、譲受企業が持っていない工程を譲渡企業が持っている、あるいは、同じ工程でも異なる素材や加工方法を持っているーーこうした組み合わせが、製造業M&Aでは重要な価値になります。

前田工繊の近年のM&Aを見ると、単に事業を増やすのではなく、既存事業の周辺にある製品、加工技術、顧客を一つずつ加えていることが分かります。名古屋油化のM&Aも、その延長線上にある案件といえます。

業界のニュース

国内5兆円投資は製造業の追い風になるか? キオクシア×サンディスクの半導体投資計画

2026年8月27日、キオクシア株式会社とサンディスクコーポレーションは、政府からの支援を前提に、2032年までに国内で約5兆円規模の投資を行う方針を示しました。 AIの普及やデータ社会の進展によって拡大する需要に対応し、先端フラッシュメモリの開発と生産体制を強化する計画です。

今回の取り組みにおけるポイントは、長年の協業を基盤とした、中長期的な供給の強化です。両社は過去25年間で、日本国内に約9兆円の設備投資を実施してきました。今回の投資計画は、その事業基盤をさらに厚くし、フラッシュメモリの安定供給につなげるものとなります。

投資先となるのは、三重県の四日市工場と岩手県の北上工場です。市場動向を踏まえながら、生産設備の整備に加え、関連インフラや技術の強化を進める方針です。北上工場では、第2製造棟「K2棟」の南側で第3製造棟「K3棟」の建設に向けた土地などの整備を始めており、2029年度中の稼働開始を目指しています。 また、両社は2026年1月に、四日市工場における合弁会社の契約期間を2034年12月まで延長しており、長期的な協業体制の整備も進めています。

注目したいのは、こうした大型投資が周辺産業へもたらす受注機会です。2029年度の稼働を目指すのであれば、建屋の工事や設備の導入はそれより前に進むことになります。 生産設備の導入や更新が進めば、装置を構成する部品の加工、工場内の配管・電気設備、稼働後の保守などにも需要が波及する可能性があります。半導体そのものを製造していない企業にとっても、自社の技術と成長市場の接点を探る機会になると考えられます。

今後、新規事業への参入や設備投資を検討される経営者にとっては、どこに投資が集まるかに加え、その投資のどの工程で自社の技術が必要とされるかも、成長戦略を考える一つの視点になるのではないでしょうか。

まとめ

前田工繊の直近の買収からは、広げてきた事業の中で、製品・技術・顧客基盤のつながりを厚くする狙いが読み取れます。一方、キオクシアとサンディスクの大型投資は、周辺の製造業にとっても、自社の技術を新たな受注へつなげる機会となる可能性があります。

いずれもの事例でも、経営者にとって重要なのは、事業規模や投資額の先にある具体的な接点です。自社の技術がどの市場で求められ、他社のどの不足を補えるのか。その接点を見極め、必要な設備・人材・販路を整えることが、次の成長につながるのではないでしょうか。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

石渡 隆也

神奈川県出身。横浜市立大学院生命ナノシステム科学研究科卒業後、2025年に新卒でスピカコンサルティングに参画。

担当者:石渡 隆也部署:製造業支援部役職:M&Aコンサルタント

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