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2025年10月の製造業M&Aまとめ

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目次

10月の代表的な公表M&A一覧

今月は30件を超えるM&Aが公表されました。

クロスボーダーM&Aが11件、国内企業同士のM&Aだけでも20件以上が公表されています。また、今月は売上高5億円以下の企業が譲渡する事例も複数みられ、製造業を営む中小企業にM&Aという選択肢が拡がっていることがわかります。また、製造業同士の統合に加え、ソフトバンクとABBのようなIT分野との連携を目的としたM&Aも確認されており、M&Aが単なる「事業承継手段」から「成長戦略の実践手段」へと変化していることが読み取れます。

公表年月日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

目的

2025年10月1日

(株)山泰製作所 [新潟県]

(株)技術承継機構[東証319A・東京都]

株式譲渡

技術承継を通じた製造業グループの構築と事業成長。

2025年10月8日

ABB Ltd[スイス]

ソフトバンクグループ(株)[東証9984・東京都]

事業譲渡

「ASI(人工超知能)実現」や “フィジカル AI” 領域におけるロボティクス強化戦略の一環。

2025年10月10日

BRIGHT MACHINE TOOLS SDN. BHD. [マレーシア]

パンチ工業(株)[東証6165・東京都]

株式譲渡

「脱・金型部品依存」をテーマに事業領域の拡大と東南アジアにおける販路拡大戦略の一環。

2025年10月15日

東北プレス工業(株)[宮城県]

不二精機(株)[東証6400・大阪府] 

株式譲渡

今後のEV化の進展に対応するために両社の技術を融合させ、精密金型×高精密プレス技術による新たな部品開発を推進し、次世代モビリティ分野で競争力を高めること。

2025年10月30日

日本航空電子工業(株)[東証6807・東京都]

京セラ(株)[東証6971・京都府]

株式譲渡

コネクタ領域におけるグローバル展開と事業補完を強化するため。

<2025年10月の製造業 公表M&A>

京セラは2025年10月30日、日本航空電子工業(以下、JAE)の株式33.0%を取得し、資本業務提携契約を締結すると発表しました。こちらの取引により、JAEは京セラの持分法適用会社となる見通しです。

JAEは、自動車、携帯機器、産業機器・インフラ、航空・宇宙の4分野を重点市場としており、高度なコネクタ技術を強みに事業を展開しています。しかし、海外市場の拡大など、グローバル展開においては時間を要している現状がありました。今回の提携により、JAEは京セラの持つ生産・販売ネットワークを活用し、自社単独では実現しづらかったグローバル生産・販売体制の強化を図る目論見があります。

一方、京セラにとっても、コネクタは自動車・産業機器・通信インフラといった成長分野において戦略的に重要な電子部品です。JAEの高い技術力とブランド力を取り込むことで、京セラは部品ポートフォリオの拡充と製品用途の拡大を進める狙いがあります。両社が補完し合うことで、グローバル競争力のあるコネクタ事業の創出を目指す構図が読み取れます。

近年、電子部品・コネクタ業界を含む製造業では、顧客ニーズの多様化(自動車の電動化、通信の高速化、産業機器の高機能化など)を背景に、再編や協業の動きが急速に進んでいます。今回の京セラとJAEの提携は、まさにその潮流の中で、部品メーカーが単独でグローバル体制を構築する難しさを踏まえ、「補完による成長」を選択した好例といえるでしょう。

また、本提携の背景には、親会社であったNEC(日本電気)の「事業の選択と集中」戦略にも注目が集まっています。NECは最新の統合レポートで、「ITサービス」と「社会インフラ」の2領域に経営資源を集中する方針を明確にしており、JAE株式の売却はその一環と位置づけられます。これにより、NECは「ものづくり型の電子部品事業」から距離を置き、上流のソリューションやサービス事業に経営資源をシフトさせています。

製造業全体を見渡すと、こうした「コア事業への集中」と「非コア事業の再編」が各社で進み、空いた領域を他の部品メーカーが取り込むことで新たな再編が生まれる構図が広がっています。今回の京セラとJAEの提携も、その象徴的な動きといえるでしょう。

大手メーカーが事業ポートフォリオを再定義し、重点領域に集中する中で、部品サプライヤーにとっては、顧客企業の資本政策や調達構造の変化がリスクであると同時に大きなチャンスにもなります。業界再編の波を見据え、どの企業とどの領域で補完関係を築けるかが、今後の自社の成長戦略を左右していくでしょう。

業界のニュース

フィジカルAIが変えるものづくりの現場

ソフトバンクは2025年10月、スイスの ABB Ltd のロボティクス事業を約54億ドル(約8 000億円)で買収することで合意しました。これは、同社が「フィジカルAI=AIを単なるソフトウェアとしてではなく、現実世界で動く“身体”としてロボット等に実装する次世代戦略」に舵を切ったことを象徴しています。

製造業の視点から「フィジカルAI」を整理すると、これまで工場・製造現場では情報系(設計、制御、監視)と物理系(機械、設備、ロボット)が明確に分かれていました。しかし、センサー+AI(知覚)+ロボット(動作)を融合させたフィジカルAIの導入が進むことで、「作業を自ら認識・判断し、実際に動く機械」が現場の主役になっていきます。

熟練技能者の高齢化や労働力不足、変化の激しい顧客ニーズといった課題に対して、フィジカルAIは生産性向上を強力に後押しすると考えられます。今後、AIを“頭脳”としてだけでなく、“現場で動く手足”として活用できる企業が、ものづくり競争の主導権を握ることになるのではないでしょうか。

まとめ

京セラと日本航空電子の提携は、コネクタ事業の補完を通じたグローバル競争力強化を狙うものであり、NECの事業再編とも連動した動きです。製造業全体で「選択と集中」と「補完による成長」が進む中、「フィジカルAI」の潮流も加わり、ものづくりの構造変化は加速しています。今後は、企業同士の協業とAI技術の融合が、産業競争力の新たな軸となると考えます。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

藤川 祐喜

大阪府出身。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、2010年に新卒でキーエンスに入社。中小企業から上場企業まで工場の生産性向上やIoTシステム導入支援などに貢献。その後、日本M&Aセンターへ入社し、業界再編部において製造業専門チームを立ち上げ。2023年スピカコンサルティングに参画。

担当者:藤川 祐喜部署:製造業支援部役職:執行役員

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