2025年11月物流業界M&Aまとめ
この記事を見るとわかること
- 2025年11月における物流業界の主要M&A
- センコーグループホールディングスによる丸運へのTOBの狙い
- 物流コンソーシアムBaton(バトン)が描く未来
11月の代表的な公表M&A一覧
加熱する物流業界の再編
今月の物流業界では、例月に増して大規模なM&Aのニュースが相次ぎました。公表件数はおよそ10件にのぼります。中でも、とりわけ業界関係者の注目を集めたのが、センコーによる丸運へのTOB、そして安田倉庫による帝人物流の子会社化です。いずれも規模の大きな案件で、業界再編がいよいよ本格的な局面に入ったことを印象づけています。
丸運は、上場トラック運送企業の中でも存在感のある企業です。時価総額では17位、売上高でも22位に位置し、創業133年と老舗としてのブランドも確固たるものがあります。その丸運がセンコーグループ入りするという知らせに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。
丸運が下した今回の決断には、現在の物流業界が抱える構造的課題や、今後の競争環境への危機感が垣間見えます。この動きは、一社の経営判断にとどまらず、業界全体の再編をさらに加速させる触媒となることが予想されます。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2025年11月7日 | (株)ディーライン[東京都] | SDトランスライン(株)[東京都] | 株式取得 | SGHDの子会社であるSDトランスラインが、幹線輸送の主要委託先であるディーラインを子会社化 |
2025年11月13日 | 丸運(株)[東証9067・東京都] | センコーグループホールディングス(株)[東証9069・東京都] | TOB | 化学品や石油などのエネルギー輸送、重量物や危険物輸送の内製化 |
2025年11月14日 | 帝人物流(株)[東京都] | 安田倉庫(株)[東証9324・大阪府] | 株式取得 | 帝人グループをはじめとした合成繊維・化学品メーカーの物流関連業務の獲得 |
2025年11月28日 | 北日本運輸(株)[秋田県] | ニューホライズキャピタル(株)[東京都] | 資本参加 | PEファンドによる資本参加 |
2025年11月28日 | Total Fresh Connection Pte Ltd[シンガポール] | センコーグループホールディングス(株)[東証9069・東京都] | 株式取得 | 青果物の販路拡大、海外マーケットを視野に入れた青果輸送の始動 |
<2025年11月の物流業界 公表M&A>
株式会社丸運×センコーグループホールディングス株式会社
2025年11月13日、センコーグループホールディングス株式会社(東証9069)は、化学品や石油などのエネルギー輸送、重量物輸送や危険物輸送を手がける丸運株式会社(東証9067)を買収し、子会社化すると発表しました。買付価格は1株949円で、過去6カ月の平均株価に対して84%のプレミアムを提示。丸運も本TOBに賛同し、主要株主であるJX金属は20%の保有を維持する形で、既存取引先への配慮も行われています。
丸運がセンコーグループ入りを選んだ背景には、物流業界の一段と厳しい経営環境と、両社の目標が一致したことがあります。需要の横ばい、労働力不足、デジタル化の要求、燃料費高騰、さらには脱炭素対応など、業界全体で、個社での対応が難しい課題が増えている中、センコーと組むことで丸運の「2030長期ビジョン」や、センコーの「売上1兆円目標」の実現が早まると判断されています。
本TOBで想定されるシナジーは次の4点です。
- 営業基盤・物流ネットワークの強化
センコーの3PLのノウハウや両社拠点の相互活用、輸配送ネットワーク統合による効率化、潤滑油化成品輸送での協業強化などを見込んでいます。 - 成長分野での事業機会の拡大
丸運が計画していたリサイクル物流、機工事業、危険物保管事業などを、センコーのネットワークを活用して加速させること。 - 経営効率化と設備投資の最適化
センコーが持つ物流コンサルティングやフィジカルインターネット関連の知見を共有することで業務効率化を図り、設備投資をグループ全体で最適化します。 - 人材育成と安定的な人材確保
例年新卒を300名、中途人材を2,200名採用するセンコーの高い採用力や充実した研修制度を丸運にも展開することが想定されています。
本TOBは両社が単独では実現できなかったことを、M&Aにより実現する好事例であるといえるでしょう。
物流クライシスが迫る中、各事業者に求められている物流効率化やIT化への対応は上場企業にとっても単独で対応することが難しいものになっています。業績も堅調で、エネルギー輸送の最大手である丸運ですら、業界への強い危機感から、1社単独ではなくグループで戦っていくという選択肢を採りました。物流企業のオーナーの皆様におかれましても、自社の現状を正確に把握し、市場環境の変化に対して常にアンテナを張り続けることが求められています。
業界のニュース
進む大手の合従連衡
11月20日、物流コンソーシアム「baton(バトン)」は、特積みトラック事業者が企業の垣根を越えて協働する国内初の中継輸送の実証実験を来年2月から開始すると発表しました。関東〜関西間の幹線輸送をドライバー交代方式で行い、対象路線の拡大や企業横断で利用できるデータベースの構築、さらにはドライバーの労働環境改善につながる仕組みづくりを進める方針です。
同コンソーシアムには、西濃運輸・福山通運・名鉄NX運輸・トナミ運輸など特積み大手11社が参画。2月からは複数社が先行して実証を始め、中継輸送によりドライバーの拘束時間を適正化し、長距離区間でも日帰り運行を可能にすることを目指します。

代表を務める東京海上ホールディングスは、深刻化する労働力不足を踏まえ、「企業の枠を超えた物流協力が不可欠」と強調しています。ご存じの通り、2030年には輸送力が3割不足すると見込まれ、業界全体で“輸送の全体最適”を進める必要性が高まっています。
こうした企業横断の取り組みは、国土交通省が2040年の実現を掲げる「フィジカルインターネット(PI)」構想への第一歩として、業界内でも大きな注目を集めています。PIとは、物流をインターネットのように標準化・効率化し、貨物の規格統一とネットワーク化によって輸送の全体最適を実現しようとする構想です。
PIの主要要素は以下の3点にまとめられます。
- 貨物のモジュール化・標準化
荷物を規格化された「コンテナ」や「カプセル」に分け、運送手段や倉庫間で効率的に扱えるようにする(T11型パレットや40ftコンテナなど)。 - ルーティングの最適化
データ通信と同様、貨物が最適ルートで自律的に移動する仕組みを構築する。 - オープンネットワーク化
企業ごとの閉じた物流網ではなく、共通規格に基づいて複数企業が貨物をやり取りできるネットワークを形成する。
今回のコンソーシアムは、まさにこれらPIの要件を満たす取り組みであり、今後は特積み貨物のみならず、百貨店、スーパー、建材といったさまざまな業種へ波及することが期待されています。政府も2040年に向けて、全貨物の標準化、最適ルーティングが可能なシステムの整備、すべてのトラックとドライバーの動態管理(リアルタイム同期)の導入を進める方針です。これらの要求水準に対応できない企業は、市場から淘汰される可能性すら指摘されています。

一方で、PIに参加するには荷物・運行データの電子化や共有が不可欠です。いまだFAXやホワイトボード中心で業務管理を行う企業では、PIプラットフォームへの参加が難しく、進む共同化や積載率向上の流れから取り残されるリスクがあります。しかし、RFID付き標準パレットや動態管理システムの導入には多額の投資が必要であり、中小物流企業が単独で対応するのは容易ではありません。PIの整備が進む中、追随できなければ物流ネットワークから外れ、事業継続そのものが難しくなる恐れもあります。
そのため、大手グループへの参画やM&Aの活用などにより、時代が求める投資水準に合わせた事業アップデートを図ることが重要です。物流クライシスが迫るなか、行政の求める変化のスピードは加速しており、それに呼応して大手各社も輸送効率化の取り組みを一段と強めています。
自社の立ち位置を正確に見極め、次の時代に向けた一手をいかに早く打てるか、その決断こそが、これからの物流企業の未来を大きく左右することになるでしょう。
まとめ
昨年の「2024年問題」を経て、物流業界の変化は一段とその速度を増しています。改正物流二法や下請法の改正、事業許可更新制の導入など、業界を取り巻く環境は大きく様変わりしています。こうした変化をタイムリーに把握し、市場が求める水準へ自社のサービスを着実にアップデートしていくことが、これまで以上に求められています。
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京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。