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業界別M&A
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調剤薬局業界の2025年3月〜5月の主なM&A

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2025年3月〜5月に公表された調剤薬局のM&Aは以下の通り(表①)です。3月〜5月期間においては、「異業種M&A」「アインホールディングスによるクラフトの株式譲受」が注目ニュースでした。

目次

2025年3~5月の主なM&A

公表日

譲渡企業

業種

譲受企業

形式

2025年3月14日

株式会社エーアンドエム

調剤薬局

株式会社アインホールディングス

株式譲渡

2025年4月1日

株式会社みお薬局

調剤薬局

中部薬品株式会社

株式譲渡

2025年4月1日

有限会社愛進堂薬局

調剤薬局

中部薬品株式会社

株式譲渡

2025年4月7日

株式会社MU

動物病院

株式会社大賀薬局

株式譲渡

2025年4月11日

ウエルシアホールディングス株式会社

ドラッグストア

株式会社ツルハホールディングス

グループ再編

調剤薬局

株式交換

2025年4月24日

高知第一薬品株式会社

医薬品卸売事業

株式会社メディカル一光

株式譲渡

2025年4月24日

株式会社サイト薬品

医薬品卸売事業

株式会社メディカル一光

株式譲渡

2025年5月7日

株式会社ミワ商店

食品スーパー

株式会社クスリのアオキホールディングス

株式譲渡

2025年5月29日

クラフト株式会社

調剤薬局

株式会社アインホールディングス

株式譲渡

<表1:調剤薬局・ドラッグストア業界における公表M&A>

異業種M&Aの推進

例えば、福岡に本社を置く大賀薬局は、調剤薬局、ドラッグストア、化粧品専門店118店舗を展開しており、2024年からは動物向けの調剤事業にも参入しています。今回のM&Aでは動物病院を運営する会社をグループ化しました。「ペットも人と同じように健康を守るべき存在である」との信念のもと、地域の動物医療機関との連携を強化しています。

また、食品スーパー運営企業との積極的なM&Aを推進しているクスリのアオキホールディングスは、4月に香川県仲多度郡にて食品スーパー「PiCASO」を5店舗運営する株式会社ミワ商店の株式を100%取得しています。

ご存じの通り、調剤薬局業界においては、「特定の医療機関からの処方箋しか応需できていない薬局」いわゆる門前薬局は将来的に基本料の見直し等を経て、収益性の悪化が予測されています。

そのため、処方元の医療機関に依存することなく、処方箋を幅広く応需するため、異業種との連携を模索する企業が増えています。

前述のクスリのアオキホールディングスは、ドラッグストアだけではなく、食品スーパーとの連携を深めることで、「食品の買い物ついでに処方箋を持っていく」「処方箋を持っていくついでに食品の買い物をする」の2つのニーズを得ることを目指しています。

調剤薬局といえば、隣接業種である介護事業・ドラッグストア事業との連携が多くみられましたが、すでにそういった連携も飽和状態になってきているため、「顧客が集まってくる仕組み作り=マーケティング」を意識した異業種連携が増えていくように考えられます。

アインホールディングスによるクラフトの株式譲受

2025年5月29日、株式会社アインホールディングスとクラフト株式会社のM&Aが発表されました。クラフト株式会社の財務状況は以下(図2)の通りとも発表されています。

売上

1,536億円

営業利益

127億円

純資産

232億円

株式取得価格

591億円

<図2:2025年5月28日アインホールディングス発表資料より引用しスピカコンサルティングにて作成>

クラフト株式会社は2023年、日本産業推進機構グループ(NSSK)というファンドの傘下に入りつつ、スギホールディングスと業務提携をことにより経営破綻の危機を乗り越えた過去があります。そのファンドから、今回アインホールディングスがクラフト株式会社の株式を買い取る形でM&Aが成立します。

実は、クラフト株式会社はかつてイオンとツルハから出資を受けていた歴史もあります。

したがって、ファンドが選ぶクラフト株式会社の最終的な譲渡先は「ウエルシア・ツルハ連合」もしくは「スギホールディングス」というのが大勢の見解でした。

しかし、今回はアインホールディングスが株式の譲渡先に選ばれたということで、アインホールディングスは、おそらくほかの候補先よりも高い金額での譲受提案をしたであろうことが予想されます。

アインホールディングスの調剤売上は約3,500億円で、今回のクラフト株式会社とのM&Aでグループの調剤報酬売上は約5,000億円に到達します。ウエルシア・ツルハ連合の調剤報酬売上の約4,000億円を超えるために、クラフト株式会社のM&Aは是が非でも成功させなければならなかったのでしょう。

最後に、本件M&Aにおけるアインホールディングスの株式市場での評価(図3)も見てみたいと思います。アインホールディングスは上場企業ですので、「企業価値」が常に「時価総額」という形で公表されています。なので、M&Aの発表前後での時価総額の変化を見れば、取得価額591億円のM&Aが企業価値に与える影響がプラスだったのかマイナスだったのかがわかります。ドラッグストアも含め、調剤報酬売上が業界1位となるため、時価総額は大幅に上がる可能性もあると思いましたが、結果はM&Aの発表前後でほとんど時価総額の変化がありませんでした。

5月29日(クラフト株式会社とのM&A発表前)の時価総額

約1,987億円

5月30日(クラフト株式会社とのM&A発表後)の時価総額

約1,998億円(前日比+11億円)

<図3:アインホールディングスの株式市場での評価>

「良いのか悪いのか判断しづらい」ために株式市場が動かなかったという見方もありますが、処方箋応需をメインとする調剤薬局業界全体の成長が見込みづらい(図4)中、同業のM&Aの推進だけでは、企業価値を高めることが困難であるということなのではないでしょうか。

<図4:2022年2月14日 厚生労働省 第1回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ 資料2、及び 日本薬剤師会HP 「医薬分業進捗状況(保険調剤の動向)」より引用しスピカコンサルティング作成>

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

原 佑輔

東京都出身。東京理科大学卒業後、日系コンサルティング会社にて大手企業やPEファンドの投資先などの収益改善に貢献。2017年日本M&Aセンターに入社。調剤薬局業界の西日本エリアの責任者として、拠点立ち上げを行う。2023年スピカコンサルティングに参画。

担当者:原 佑輔部署:調剤薬局業界支援部役職:執行役員

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