2026年8月の食品業界M&Aまとめ
2026年8月の食品業界におけるM&A公表件数は18件となり、1〜8月の累計件数は118件と前年同水準のペースで取引が行われています。
今月の事例としては、人気外食ブランド「つじ田」「金子半之助」を傘下に持つオイシーズが、PEファンドのアドバンテッジパートナーズからDXに強みを持つD Capitalへ譲渡された取り組みが挙げられます。創業者の職人的アプローチから組織化、そしてデジタル技術を活用した効率化へと、企業の成長フェーズに応じた資本パートナーの選択が行われています。また制度面では、政府から「給付付き税額控除」の基本方針が示され、2027年4月からの飲食料品に対する消費税率引き下げ方針が提示されたことで、外食や小売、生産者のビジネスモデルの見直しに関心が集まっています。
本記事では、8月の主要事例を振り返りながら、企業の成長フェーズに応じたM&Aの活用策と、新たな税制変更が食品業界に与える影響について解説します。
この記事を見るとわかること
- 2026年8月の食品業界主要M&A一覧
- 【Pick Up】オイシーズ × D Capital: 「つじ田」「金子半之助」の成長事例に見るファンド活用のプロセスとM&Aのタイミング
- 【業界ニュース】2027年4月からの消費減税方針: 飲食料品の税率1%化が外食・小売・生産者に及ぼす影響
8月の代表的な公表M&A一覧
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで18件となり、2026年1-8月の累計件数は118件(前年同期間は112件)です。なお、前年同月は19件となっており、前年同様、食品業界のおけるM&A市場は活況が続いています。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2026年8月3日 | (株)小田屋[鹿児島県] | (株)西原商会[鹿児島県] | 株式譲渡 | 事業ポートフォリオの拡充のため。 |
2026年8月4日 | オイシーズ(株)[東京都] | D Capital(株)[東京都] | 株式譲渡 | 譲受企業の持つリソースを活用し、ブランドをさらに発展させるため。 |
2026年8月6日 | (株)富士フードサービス[山梨県] | 一冨士フードサービス(株)[大阪府] | 株式譲渡 | 両社のシナジーを発揮し、給食事業におけるさらなる成長・発展のため。 |
2026年8月6日 | (株)Food Operation Japan[東京都] | 日本製麻(株)[東証3306・兵庫県] | 株式譲渡 | ラーメン事業の国内拡大・海外進出の推進のため。 |
2026年8月6日 | (株)みとわ[群馬県] | (株)クラダシ[東証5884・東京都] | 株式譲渡 | 法人向けギフト事業への参入基盤を確立するため。 |
2026年8月7日 | (株)京樽[東京都] | SRSホールディングス(株)[東証8163・大阪府] | 株式譲渡 | 中食分野における事業基盤の拡大、および製造拠点の拡充のため。 |
2026年8月13日 | (有)三協印カトウ食品 | (株)西原商会[鹿児島県] | 株式譲渡 | 事業ポートフォリオの拡充のため。 |
2026年8月14日 | THG Taiwan Co., Ltd.(仮称)[台湾] | Trailhead Global Holdings(株)[東証3358・福岡県] | 事業譲渡 | ラーメンブランドや製麺機能を軸としたアジア地域への展開推進のため。 |
2026年8月17日 | (株)丸タカ[鹿児島県]含む2法人 | プリントネット(株)[東証7805・東京都] | 事業譲渡 | 飲食事業の早期立ち上げおよび事業基盤の強化を図るため。 |
2026年8月17日 | Mascoma Bank[米](対象事業:Blake Hill Preserves) | (株)サンクゼール[東証2937・長野県] | 事業譲渡 | 米国におけるブランドポートフォリオの拡充のため。 |
2026年8月19日 | 中日本(株)[愛知県] | (株)SMBCキャピタル・パートナーズ[東京都] | 株式譲渡 | 高品質かつ安定的な卵加工食品の提供体制を構築し、付加価値向上を図るため。 |
2026年8月19日 | (株)アメニティ[沖縄県] | (株)ホットランドホールディングス[東証3196・東京都] | 株式譲渡 | 沖縄エリアにおける事業基盤の強化およびさらなる事業拡大を図るため。 |
2026年8月20日 | ミリオン商事(株)[東京都] | (株)ビッグ酒販[東京都] | 株式譲渡 | 商品・サービスの拡充と事業のさらなる成長・発展を図るため。 |
2026年8月20日 | (株)トランスジャパン[兵庫県] | (株)ヤグチ[東京都] | 株式譲渡 | 関連会社を通じた業務拡大および商品の安定供給のため。 |
2026年8月21日 | (株)フレスコ関東[東京都] | (株)エコス[東証7520・東京都] | 株式譲渡 | 地域に根ざした食品スーパーマーケットを目指すため。 |
2026年8月24日 | (株)Kissaco[東京都] | ダイセーホールディングス(株)[東京都] | 株式譲渡 | ホスピタリティ事業を新たな収益の柱として育成、発展させるため。 |
2026年8月27日 | (株)グリーンフーズ[埼玉県] | (株)オーイズミフーズ[神奈川県] | 株式譲渡 | 既存事業のさらなる価値向上と、新たな食の事業領域への展開のため。 |
2026年8月28日 | (有)トーア乳業[茨城県] | (株)西原商会[鹿児島県] | 株式譲渡 | 事業ポートフォリオの拡充のため。 |
<2026年8月の食品業界 公表M&A>
【Pick Up M&A】オイシーズ株式会社 × D Capital株式会社
オイシーズは、つけ麺が有名な「つじ田」と、江戸前天丼が有名な「金子半之助」の2社が2016年10月に一緒になって設立された企業です。 つじ田の創業者である辻田雄大氏と、金子半之助の創業者である金子真也氏は中学の同級生であり、共に人気店を経営していました。お二人は、もともと美味しいものを提供することにこだわりがあり、職人や現場の専門家であり続けたいという想いを持たれながらも「自分ひとりのキャパシティでこの先もブランドのクオリティを守りきれるのか?」というジレンマをお持ちでした。
そこで、それぞれ個別に譲渡するのではなく「つけ麺(ラーメン)」と「天丼(天ぷら)」という海外でも日本食としてのニーズが高い2つの業態を統合し、オイシーズとなりました。2017年1月にPEファンドのアドバンテッジパートナーズが譲り受けましたが、ファンド側にとっても2社が1つになったことで、より大きな市場ポテンシャルを持つ魅力的な投資対象となりました。
今回のM&Aは、アドバンテッジパートナーズとしても約9年におよぶ投資期間を経ての出口戦略であったと言えます。 最近ではラーメンのM&Aが再び活況になっており、昨年末頃には「六厘舎」の運営会社、2026年2月に「超ごってり麺ごっつ」運営会社、同7月に「らぁめん小池」や「キング製麺」など都内10店舗を経営するイノセンスなど多くの譲渡事例があります。アドバンテッジパートナーズ自身も昨年11月に「三田製麺所」を運営するエムピーキッチンホールディングスを魁力屋に譲渡したばかりです。
M&Aは譲渡企業の素晴らしさだけで評価が決まるものではなく、売主のコントロールが難しい要素の1つとして「時流」があります。「売り時を逃した企業は売れない」という言葉を聞くことがあるかと思います。決して譲渡できないことはないのですが、例えば食品業界にとって不利に働く法改正やコロナのような天災など、タイミングによっては評価額が下がってしまうのも事実です。その意味ではアドバンテッジパートナーズが昨年に続き、今回「つじ田」など運営のオイシーズを譲渡したのは今が最適なタイミングであると考えたことも大きいのではないでしょうか。
2017年にアドバンテッジパートナーズが オイシーズを譲り受けたことで、オイシーズは「職人的な企業」から「属人化しない組織」へと成長を果たし、100店舗を超える一大外食グループへと成長しました。今回譲り受けたD CapitalはDXに特に強みを持ち、外食において大きな課題になっている「人材不足」や「原材料費の高騰」に対して様々な解決策を講じることが予想されています。例えば、高度な需要予測システムの導入により現場スタッフの負担を減らしつつ回転率を上げることや、仕入れや在庫管理などをデジタルで一元化し、フードロスなどの無駄なコストを削減することで更に利益率を高めるなどが考えられます。
「ラーメン」と「天ぷら」という日本を代表する分野で強いブランドを持ち、「日本の『おいしい』を世界へ」というビジョンを掲げるオイシーズが今後、グローバル展開も含めどのような成長を遂げるのか、今から楽しみなM&Aと言えるでしょう。
業界のニュース
2027年4月から食料品の消費税率が1%へ。食品業界に与える影響とは?
2026年8月5日、政府は臨時閣議にて「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定し、2027年4月1日から2年間、飲食料品の消費税率を現行の8%から1%へ引き下げる方針を定めました。消費税が導入されて以来、期間が定められた限定的な措置とはいえ税率が下がることは初となります。
外食業界では、店内飲食が10%に対し、テイクアウトだと1%になるため、外食離れが早くも懸念されています。客足が遠のくだけではなく、内食やテイクアウトの需要が高まるということは、スーパーなど小売店の買付も強まる傾向にあり、結果的に飲食店の食材仕入価格が更に高騰するといったことも懸念されています。
また、食品製造業界においては、小売店の需要が上がることで追い風のようにも見えますが、実は農家や生産者などには懸念されていることもあります。例えば、年間売上1,000万円以下の免税事業者の場合だと、消費税率が下がることで販売先から受け取る税込収入が減る可能性があります。農産物の売上は消費税が8%→1%に減る分減少するのに対し、肥料や燃料を購入する際に支払う消費税は10%のままなので出費が大きくなるという「ねじれ」構造です。支払いが大きいため、販売価格を上げたいところですが、今回の消費減税は物価高対策であり、消費者も「価格が下がること」を求めているので、なかなか価格転嫁して値上げというわけにもいきません。
当然ながら政府も対策を検討しており、外食についてはテイクアウトやデリバリーのための設備投資に対する費用補助や、プレミアム付き食事券の発行などが検討されています。農家への支援策としても、売上高に応じた給付金の支給や、還付の前倒し特例などが考えられています。
このように様々な影響は考えられますが、根本にあるのは昨今の物価高に対して、中低所得者層の家計負担を直接減らすための施策です。まだ閣議決定の段階のため、100%確定しているわけではないものの、ルールが新しくなるのであれば、それに合わせた戦略を考えることが肝要です。例えば外食業界でいけば、店舗で食べるからこそ体験できる価値をどう高めるか、もしくはテイクアウト需要を確実に押さえにいく方法はないのか、など今から検討できることもあるかもしれません。
まとめ
8月のM&Aでは、オイシーズとD CapitalのM&Aをオイシーズの歴史からご紹介させていただきました。時代と共に企業のフェーズをM&Aの活用により高めていっているように感じます。昨今、人手不足や原材料高騰が多く話題に上がる業界だからこそ、このタイミングでDXに強いファンドの傘下に入ることに意味があるように思います。コロナ禍の際にはデリバリー業態が大きく躍進するなど、時代と共に業態は変化してきました。来年4月に控えている消費減税など、また新たな時代を迎えようとしています。こうしたタイミングで大資本と手を組み、企業価値を高めていくことも今の食品業界にとって検討すべきことなのかもしれません。
宮崎県出身。慶應義塾大学卒業後、新卒でリクルートに入社。ブライダル事業に9年間携わった後に、日本M&Aセンターに入社。一貫して食品業界のM&Aに従事し、2020年には同社で最も多くの食品製造業のM&Aを支援した。食品業界専門グループの責任者を務め、著書に「The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密」がある。2024年スピカコンサルティングに参画。