2025年6月〜8月の主なエネルギー業界M&A
LPガス業界は今まさに業界再編の真っ只中にあります。省令改正、競争激化、人材問題、配送合理化。業界が抱える課題は明確ですが、会社の未来を決める舵取りは、各社各様のストーリーを持っています。
2025年6月から8月に公表されたM&A事例を振り返るだけでも、その解が一つではないことは明白です。本稿では、これらの事例から業界の新たな潮流を読み解き、特にご相談の多い充填所運営の未来について考察します。
6月~8月の代表的な公表M&A一覧
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
---|---|---|---|
2025年6月8日 | 陽品運輸倉庫株式会社(未上場・千葉県) | 三和エナジー株式会社(未上場・神奈川県) | 株式譲渡 |
2025年7月1日 | 共同瓦斯株式会社(未上場・愛媛県) | 株式会社エネサンスホールディング(未上場・東京都) | 株式譲渡 |
2025年8月22日 | 株式会社第一ガス(未上場・群馬県) | 株式会社ミツウロコヴェッセル(未上場・東京都) | 吸収合併 |
株式会社ミツウロコヴェッセル草津(未上場・群馬県) |
これらの事例は、それぞれが異なるスキーム、背景、戦略的意図を持っている点で非常に示唆に富んでいます。
1.異業種参入による物流機能の統合
陽品運輸倉庫株式会社の事例は、譲受企業がLPガス事業者ではなく、宇佐美グループの三和エナジー株式会社という、異業種からの参入である点が特徴です。これは単なる顧客基盤の拡大ではなく、サプライチェーンにおける輸送機能の強化を目的とした戦略的M&Aと言えます。
2.既存の資本関係を深化させる資本提携
株式会社エネサンスホールディングスと共同瓦斯株式会社の事例は、既存の資本関係を100%子会社化へと深化させる動きです。市場縮小という逆風の中、グループ内の連携を最大化し、経営効率を高めることで、盤石な収益基盤を築く狙いがうかがえます。
3.エリアの合理化を図った組織再編
ミツウロコグループ内における合併は、群馬県内でのグループ会社を集約する組織再編の一つです。これは、管理部門の統合や配送網の最適化を通じて、徹底したコスト削減と経営資源の集中を図る地域集中型の再編といえます。
このように、一口にM&Aと言ってもその目的やスキームは千差万別です。我々スピカコンサルティングにも日々多くのご相談が寄せられますが、一社一社の状況を深く理解し、結論を急がずオーナー様と共に長い時間をかけて最適解を模索することを大事にしています。
これからの充填所運営、どうする?
最近、私が特によくお聞きするのが充填所の運営に関する悩みです。
「単独での運営が難しいことは分かっているが、どうすれば良いのか…」
話を深く伺うと、多くの経営者が二重、三重の課題を抱えています。設備の更新に数千万円という巨額の投資が必要だが、自然減と競争激化に起因する顧客件数の減少や利益率の低下を考慮すると、投資回収の目処が立たない。加えて人材不足も深刻で、高圧ガス製造保安責任者の確保は極めて難しく、経験を積んだ作業員も見つからない。
かつて、自社の充填所を持つことは、配送効率や価格競争力における強みとして認識されていました。今や巨額の設備更新リスクと人材コストを抱える潜在的負債へと変わりつつあるといえます。
この課題に対する一つの答えが、全国的に広がりを見せている充填所の共同運営です。2024年4月に富山県で事業を開始した株式会社eパートナーとやまは、北陸の有力企業である北日本物産株式会社とサカヰ産業株式会社が、株式会社アストモスエネルギー、株式会社ジャパンガスエナジーという大手卸と手を組み、充填・配送の共同事業に乗り出しました。自社の経営資源を新規顧客の獲得や既存顧客との接点強化等、事業を伸ばしていく動きに集中させるための極めて合理的な経営判断といえるでしょう。
大手資本でも単独ではなく共同の道を選ぶという事実は、地方の中堅企業が自社単独で充填所を維持していくことの困難さを物語っています。恒久的に「あたたかい」を届けるためには、M&Aによる大手グループジョインや共同出資、統廃合を通じて他社と組むという柔軟な発想が不可欠な時代であるように思います。
10年後、自社はどのような姿であるべきか。
本稿では、市場環境が大きく変化する中で、多種多少な「他社と協力する」姿を紹介しました。しかし、あくまでこれらは数ある選択肢の一例に過ぎず、それぞれオーナー様の想い、会社の目指す姿、従業員様の未来を熟慮した結果として、目に見える形になったものです。仮に似た課題を抱えていたとしても、単純に同じスキームを当てはめればよいとは限りません。だからこそ、長い期間を掛け、様々な選択肢を同じテーブルに上げてじっくりと模索することが重要です。会社の未来を想う皆様の思考の整理や次の一歩のきっかけとして、本稿が少しでもお役に立てれば嬉しく思います。
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熊本県出身。神戸大学国際人間科学部卒業後、2024年に新卒で株式会社GA technologiesに入社、スピカコンサルティングに参画。