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【解説付き】SBSホールディングス、 ブリヂストン物流の株式66.6%を取得し子会社化 〜同社の狙いと業界再編加速について〜

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2025年の上半期の最終日である6月30日、SBSホールディングス(以下、SBSHD)は、ブリヂストンの子会社であるブリヂストン物流株式の66.6%を譲り受けることに合意し、株式譲渡契約を締結したと発表しました。2025年10月1日を目途に実行予定としており、譲渡対価は80億円と公表されています。

SBSHDは、2024年12月期の売上が4,481億円であり、本件実行後、ブリヂストン物流の売上が加わることで、連結売上高で5,000億円に到達する見込みとなります。

ちょうど5年前の同じく初夏に発表された東芝ロジスティクスのM&Aを思い出させるようなM&Aであり、同社の戦略を振り返りつつ、本件について考察していきます。

目次

SBSHDのM&Aの戦略

SBSグループは、鎌田正彦により1987年に設立され、「不屈のベンチャー精神」を掲げ、2024年12月期では売上4,481億と、一代で業界を代表する企業へと成長しています。主な事業として3PL事業を展開しており、ロジスティクス事業を軸に国内外を問わず展開をしています。

2003年に上場した際は、売上194億円であり、当時から現在までで20倍を超える規模に成長をしている同社ですが、その戦略の軸にはM&Aがありました。過去のM&Aを辿ると、それぞれのフェーズで戦略の違いも見えてきます。

上場直後2003年~(売上200億円→1,000億円)

SBSHDは、2003年に上場してから2006年12月期までの4年間で、M&Aを21件実行しています。中でも、象徴的な案件としては、上場翌年にM&Aを実行した雪印物流(雪印乳業の子会社。現:SBSフレック)、さらにその翌年に実行した東急ロジスティック(東京急行電鉄の子会社。現:SBSロジコム)があげられるでしょう。

2003年12月期のSBSHDの状況を見ると、M&A戦略に本腰を入れる姿勢がうかがえます。売上194億円、当期純利益1.9億円、純資産16億円、現金同等物15億円という状況でした。その翌年、雪印物流のM&Aを実行したわけですが、雪印物流の譲渡対価は約30億円であり、この数字を見ても、並々ならぬ覚悟を感じられます。(公募増資し70億円を資金調達しています。)

また、翌年には当時上場をしていた東急ロジスティックに対し、TOB(株式公開買付け)を実施。上場して3年目に、上場企業へのM&Aを果たし、売上の1,000億円を達成したのです。

この時期の特徴としては、SBSHDが自社グループで持っていないものを補完する狙いが強かったと言えるでしょう。これらのM&Aにより、食品関連の部門、また不動産関連の領域に参入することができています。それぞれ、現在のSBSHDの中核をなす企業となっています。

2018~コロナ禍でも止めなかったM&A戦略(売上2,000億円→4,000億円)

同社がさらに売上で急拡大をしたのは、やはり物流子会社M&Aがきっかけでした。2018年のリコーロジスティクス(リコーの物流子会社、現:SBSリコーロジスティクス)、2020年の東芝ロジスティクス(東芝の物流子会社、現:SBS東芝ロジスティクス)等を中心に大型の物流子会社のM&Aを実施しています。コロナ禍で大きな動きを控えた企業が多かった中、上場時から変わらないアグレッシブな動きで経営方針を進めたことが功を奏したと言えるでしょう。

この頃から、M&Aでのシナジーの出し方にも変化が出てきています。上場当時のM&Aが、新規領域への進出であったことに対し、この頃からは「既存の資源との統合」という要素が入ってきています。海外拠点の事業統合や、倉庫の共同運営等、事業価値を高めるためのシナジー創出が可能になってきたフェーズであると言えるでしょう。

2023年~現在の中期経営計画

そんなSBSHDですが、2023年から2025年12月期までの3か年の中期経営計画を発表しており、売上で5,000億円を大きな数値目標として掲げています。

今回のM&Aについて

そして、今回のブリヂストン物流のM&Aですが、今まで歩んできたSBSHDの流れに沿ったM&Aであると言えるのではないでしょうか。新規の領域の獲得、既存事業を絡めた相乗効果の創出、売上の創出を実現しています。

①新規領域への参入と相乗効果

新規領域への参入と相乗効果については、「自動車製造のサプライチェーンに対する物流の強化」が大きな狙いと言えるでしょう。直近のM&Aを見てみると、2021年にグループ入りをした古河物流、2024年のNSKロジスティックスはいずれも自動車部品関連に強みを持つ物流企業であり、今回のブリヂストン物流がグループに加わることで、自動車という軸におけるサプライチェーンの強化を実現します。

独立した物流子会社同士では、共同配送などのサプライチェーン全体での効率化を図るために、それぞれの親会社(各メーカー)の承認を必要とし、実現が難しいような状況があります。これを各メーカーがそれぞれ物流子会社を運営している状況ではなく、SBSHDが中心となり、サプライチェーン全体での物流という視点を持つことで、必要な設備投資の強化、付加価値の向上を狙っていくことが可能になるということです。

②売上の創出

SBSHDは今回のM&Aにより、2025年12月期の売上5,000億円が達成見込みになりました。また中期経営計画で定めた売上計画の達成と同時に、売上5,000億円台という大台に乗ることにもなります。中期経営計画の中では、成長イメージとして、2030年12月期の売上7,000億円という記載もあり、5年後のさらなる成長にも期待されます。

③66.6%の取得の意味

本件の特徴の一つである、取得比率についても触れたいと思います。今回取引金額80億円で、66.6%の株式取得と発表しています。実は、過去のM&Aにおいてもこの「66.6%」の譲受けは、SBSHDのM&Aに多く見受けられます。直近で実行しているリコーロジスティクス、東芝ロジスティクス、古河物流、NSKロジスティクスはいずれも66.6%の譲受けとなっています。

この意図としては、33.4%を残すことで、元の親会社(メーカー)との良い関係性が保たれ、物流子会社の成長に向けて同じ方向を向くことができることがあげられます。成果を上げれば、配当という形で、M&A後も元親会社(株主)に対して収益還元をすることができるためです。先に記載した通り、従来の枠組みにとらわれない物流を再設計することで、それぞれの会社はさらに発展をし、その成長分も元親会社が受け取ることができることで、それぞれにとって良い形を目指すための意図が66.6%に込められています。

業界全体の再編加速

①2024年から加速している業界再編

今回のM&Aは、自動車部品物流のサプライチェーンという視点で、大きな変化になることが予想されます。物流の業界の再編について、大きなインパクトを与えるようなM&Aは昨年も多く起こりました。

下記の表は昨年の大きなM&Aをまとめたものですが、売上1,000億円を超える企業の譲渡が相次ぎました。求荷求車大手のトランコムの外資ファンドへの譲渡や、三菱電機ロジスティクスやアルプス物流、NSKロジスティクスといった物流子会社の再編。非上場企業の大手であるナカノ商会のヤマトHDへの譲渡も大きなニュースとなりました。これまでは“譲り受ける(買い手サイド)”企業であった規模の企業が、譲渡(グループ入り)側に回っている印象を受け、まさに業界全体の統廃合が始まったことが分かります。

②業界の再編

このような動きは、物流業界に限らず、他の業界でも同様の動きをしており、大手への集約の動きは止まることはないと言われています。

例えば、ドラッグストアの業界を見てみると、今年4月にウエルシアとツルハホールディングスの統合が発表されました。これは業界1位と2位の経営統合であり、3位にはこちらも2021年に経営統合したマツキヨココカラ&カンパニーが続いています。ドラッグストア業界は、業界再編の最終局面に入っていると言えるでしょう。

物流業界も昨年からの動き見てみると、上場企業・非上場企業や、規模の大小は関係なく、グループの統廃合が活発化しています。本コラムではSBSHDのサプライチェーン戦略を紹介しましたが、グループで付加価値を出していく、大手物流企業と新しい形の物流を作っていくための前向きなM&Aが増加しています。

どの業界も、業界再編は一度始めると止まることなく、加速をしていくことが特徴です。物流業界も止まることなく、この再編の波が続いていくでしょう。感度の高い情報収集と、スピード感のある行動が肝要です。

まとめ

業界の再編を象徴するM&Aとして、SBSHDとブリヂストン物流のM&Aを解説しました。SBSHDの業界の流れを読んだM&A戦略、それに対する実行力はとても参考になります。

物流業界は再編の真っただ中であり、その変化も非常に速いスピードで進みます。まずは業界で何が起きているのかを知ることが大切です。そのうえで、“自社の立ち位置と現在価値”を知るようにしましょう。客観的に自社を把握し、今後のうち手を考え、経営していくことが大切です。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

宮川 智安

群馬県出身。実家は7代続く水産業の卸売り。
早稲田大学卒業後、新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。2021年度には同社で最も多くの物流業界M&Aを成約へと導いた。2023年よりスピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。

担当者:宮川 智安部署:物流業界支援部役職:ディールマネージャー

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