2026年9月の調剤薬局業界M&Aまとめ
2026年9月の調剤薬局業界では、大手チェーンによる地域ドミナント強化のための買収に加え、上場企業によるMBO(経営陣による買収)など、中長期的なビジョンを見据えた多様な資本戦略が公表されました。
今月の事例としては、クオールホールディングスによる、宮城県・山形県等で17店舗を展開するメディカメンテグループの株式譲受が挙げられます。手薄であった東北エリアでの基盤強化と、地域密着型サービスの拡充を狙った取り組みと言えます。また、在宅医療に強みを持つHYUGA PRIMARY CAREがMBOを選択し、短期的な市場評価に左右されない経営体制へ移行した動きも注目されています。
本記事では、9月の主要事例を振り返りながら、企業の成長や理念実現の手段としてM&Aや資本政策を活用するポイントについて解説します。
この記事を見るとわかること
- 2026年9月における調剤薬局業界の主要M&A
- 上場企業であるHYUGA PRIMARY CAREのMBOとは?
- M&Aを成長戦略として検討することの重要性
9月の代表的な公表M&A一覧
今月は、プライム上場企業であるクオールホールディングス(以下、クオール社)による、株式会社メディカメンテ、株式会社MY(以下、メディカメンテG)の株式譲受が発表されました。その他にも上場企業が譲渡企業となるM&Aのニュースもいくつかありました。クオール社とHYUGA PRIMARY CARE株式会社(以下、HYUGA社)のM&Aを深堀して解説します。
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2026年9月16日 | (株)メディカルシステムネットワーク(477店舗)[スタンダード4350・北海道] | 合同会社CYD[非上場・北海道] | 1店舗の事業譲渡(なの花薬局余市店) | 薬局事業における選択と集中のため |
2026年9月16日 | (株)ファインズファルマ(2店舗)[非上場・愛知県] | (株)メディカル一光グループ[スタンダード3353・三重県] | メディカル一光を承継会社とする吸収分割 | 三重県でのドミナント体制強化および調剤事業の拡大 |
2026年9月25日 | (株)ひまわり薬局(3店舗)[非上場・京都府] | (株)メディカル一光グループ[スタンダード3353・三重県] | 100%株式譲渡 | 京都市でのドミナント体制強化および調剤事業の拡大 |
2026年9月25日 | HYUGA PRIMARY CARE(株)(65店舗)[グロース7133・福岡県] | 日本成長投資アライアンス(株)[ファンド・東京都] | MBO | 上場廃止により、長期的な観点からサービス向上につなげるため |
2026年9月30日 | (株)メディカメンテ (15店舗) | クオールホールディングス(株)[プライム3034・東京都] | 100%株式譲渡 | 宮城県・山形県でのドミナント体制強化および調剤事業の拡大 |
(株)MY(2店舗)[非上場・宮城県] |
<2026年9月の調剤薬局業界 公表M&A>
宮城県仙台市に本社を置くメディカメンテGは、宮城県・福島県・山形県で17店舗の調剤薬局を運営する中堅企業です。代表である神林氏は薬剤師であり、2013年12月につかのまち調剤薬局を開局してから地域に根差した薬局運営を手掛け17店舗まで事業拡大してきました。
また、調剤薬局事業だけではなく、地域社会への貢献として開業支援部門の設立や認知症カフェの運営など外部環境が激しい薬局業界において企業価値を高める施策を実行しています。仮に、内科の処方箋を月に1,000枚(処方箋単価:約1万円/枚)応需していたとして、1店舗で約1.2億円、17店舗であれば約20億円の売上であり、薬局業界においては中堅クラスの規模になります。地域でも上位に入る企業が、クオール社との資本提携という選択を決断された事例です。
クオール社は、調剤薬局を全国で956店舗(2026年10月1日時点)運営している大手薬局チェーンです。公開情報から地域別店舗を分析すると以下のようになります。
エリア | 店舗数 | 出店比率 |
|---|---|---|
北海道エリア | 11店舗 | 1.2% |
東北エリア | 83店舗 | 8.7% |
関東エリア | 415店舗 | 43.4% |
中部エリア | 203店舗 | 21.2% |
近畿エリア | 144店舗 | 15.1% |
中国エリア | 34店舗 | 3.6% |
四国エリア | 16店舗 | 1.7% |
九州・沖縄エリア | 50店舗 | 5.2% |
合計 | 956店舗 | 100% |
<クオールホールディングス株式会社の公開情報よりスピカコンサルティングまとめ>
出店エリアにおいては、関東での出店比率が高く、今回のM&Aは東北でのドミナント展開を後押しするものと考えられます。“あなたの、いちばん近くにある安心” をスローガンに掲げ、「利便性」と「専門性」を兼ね備えた地域密着型薬局ネットワークの構築を目指すクオール社にとって東北エリアにおける重要なパートナーを迎え入れることができたと推測されます。
最後にクオール社は2026年5月に中期経営計画を発表しており、調剤薬局事業においては早期に1,000店舗の展開と、2031年3月期には売上3,146億円、営業利益129億円(2026年3月期の調剤薬局事業は売上1,779億円、営業利益77億円)を目標に掲げています。そのため、今後も引き続き各エリアの優良薬局とのM&Aによる事業拡大を進めていくでしょう。
HYUGA PRIMARY CAREのMBOとは?
9月25日に上場企業であるHYUGA社がMBOによる非公開化というニュースが報道されました。非公開化やMBOとは何か、また、どのような意図があるのかを解説していきます。
まず、HYUGA社とは、代表の黒木氏が2007年に福岡県春日市にて株式会社きらり薬局として創業。訪問調剤・在宅医療に特化した「きらり薬局」の1号店を開局し、2014年には在宅訪問薬局のノウハウを全国の薬局へ提供・支援する事業(きらりプライム事業)を開始、HYUGA PRIMARY CARE株式会社に名称変更した後、2021年に東京証券取引所マザーズ市場(現:東証グロース市場)へ新規上場しました。「24時間365日自宅で安心して療養できる社会インフラを創る」という理念のもと直営店は約65店舗、きらりプライム加盟店舗は約3,000店舗を超えるまで成長しています。
今回のMBOによる非公開化とはどのようなスキームなのでしょうか。
MBO(マネジメント・バイアウト)とは経営陣が参加をして市場にある株式を買収するスキームです。上場企業である当社は市場で株式の売買が可能であり、株式を買収することにより、上場を廃止し非公開化(非上場)となります。薬局業界では昨年に日本調剤がファンドによるTOBで非公開化するというニュースがありましたが、今回はMBOつまりは経営者である黒木氏も参加をして株式を取得するという方法になります。MBO前の株主構成とMBO後の株主構成を下記図にまとめました。

上記図から分かるように今回のMBO実施後は、黒木代表約30%、エムスリーグループ約27%、日本成長投資アライアンス約43%となります。経営陣も変わらず代表取締役を黒木氏が継続することが公表されております。
“上場廃止”や”ファンド”という言葉でこのニュースを悲観的に捉える方も少なくありません。実際は、経営陣は変わらず不特定多数の株主ではなく、黒木代表の経営を支持する安定株主のみになることで、会社としてのビジョンを進めやすくなります。また、ファンドが参画するものの、黒木代表とエムスリーグループで過半数の株式を維持する構造です。これにより、外部株主の短期的な評価に左右されることなく、中長期的な視点に基づいた迅速かつ大胆な経営の意思決定が可能となります。
黒木代表の言葉では「短期的な利益を追うのではなく、長期的な目線で、これまで以上に事業を構築していく、患者様のサービスを充実させる」という明確な目標が示されています。調剤薬局事業は報酬改定を含めた国の施策の影響を受けやすい業界です。その中で、社会のインフラとして、そして地域になくてはならない医療サービスとして存続していくことが大切です。
全国に3,885社(2026年10月2日時点)しかない上場企業の経営者でも株式の売却という資本政策を自身のやりたいことを叶えるための重要戦略として検討し実行されています。会社の成長や理念実現のための重要な『資本戦略』としてM&Aを活用する企業が増えています。単に売却して終わりではなく、譲渡後にどのようなシナジーを生み出し、どのような未来を描くのか、その解像度を上げることこそが、これからの薬局経営において極めて重要なプロセスとなります。まずは、調剤薬局業界に特化したスピカコンサルティングにご相談いただければと思います。
まとめ
2026年9月は、中小企業の薬局だけでなく、上場企業であるメディカルシステムネットワークやHYUGA PRIMARY CAREが譲渡企業となるM&Aニュースが公表されました。一昔前は譲渡することが「身売りや乗っ取り」といったようなマイナスなイメージを持つ方もおられましたが現在では違います。
そもそもM&Aという経営戦略は利益を出している優良企業が選択できるものであり、赤字で不採算の事業を譲り受けたいという会社はほとんどありません。仮に、現状が赤字であったとしても、効率化や新規投資により黒字化が見込まれなければお相手を見つけることは極めて困難です。
調剤薬局業界支援部においても日々全国の薬局経営者様とお話をする中で、経営の選択肢としてM&Aを検討されている方は少なくありません。ドラッグストアの併設店増加や国による調剤報酬改定、そしてAmazon薬局など外部環境の変化による影響は避けられません。
これまで築き上げられた地域での医療体制を維持し、さらに発展させていく方法としてM&Aは活用されています。M&Aという言葉を目にしない日はないと思いますが、M&Aには株式譲渡、事業譲渡、株式交換、MBOなど様々な手法があります。患者様、社員様、ドクター、そして経営者とご家族の輝く未来のために自社にはどのような選択肢があるのかを考えていくことが大切です。
カテゴリ
京都府出身。立命館大学卒業後、株式会社三井住友銀行に入行。中小企業から大企業まで幅広い業種を担当し、事業承継や成長戦略等のソリューション提案に従事。株式会社MtechAの立ち上げを経験し、その後、経営統合を経て当社参画。