2025年5月のエネルギー業界M&Aまとめ
2025年5月の主なM&A事例
2025年5月に公表されたLPガス業界のM&Aは、以下の通りとなりました。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年5月20日 | 株式会社クサダ(未上場・長野) | NPGホールディングス株式会社(未上場・長野) | 株式譲渡 |
NPGホールディングス株式会社は、3つの法人から構成されるグループ会社です。
1954年にプロパンガス販売事業者として創業し、現在ではLPガス・灯油・電気の提供を手掛けております。2018年には不動産事業へ参入し、ハウスドゥ4店舗を運営しています。そして今回、給排水・冷暖房設備の施工を手掛ける株式会社クサダを譲り受けるM&Aを実行されました。
人口減少や改正省令の施工などにより新規顧客の獲得が難しくなる中で、エネルギー供給事業を軸としながら、不動産事業や設備工事業といった周辺領域を内製化し、利益を自社内に蓄積しやすい構造へと転換を図る戦略であると位置づけられます。
また本稿では、前回のコラム(2025年4月/スピカだより6月号)でご紹介できなかった以下のM&A事例を解説します。
前回のコラムはこちらよりご覧いただけます「2025年4月のエネルギー業界M&Aまとめ」
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年4月24日 | 株式会社ハクエイ(未上場・福岡) | 株式会社サイサン(未上場・埼玉) | 株式譲渡 |
埼玉県に本社を構えるGas Oneグループの基幹である株式会社サイサンは、福岡県内に福岡営業所を展開しており、今回の株式会社ハクエイとのM&Aにより、九州エリアで2拠点目の営業所を確保する運びとなりました。これにより、同エリアにおける事業規模の拡大や安定供給体制の整備に加え、電力や宅配水のセット販売を通じて、地域により密着した「身近なホーム・エネルギーパートナー」として地域社会の発展に貢献する体制を構築しています。
一般的に、広域展開する大手企業の拠点は本州に集中する傾向がありますが、「LPガスを消費者に届ける」という事業の本質は、地域を問わず共通しており、エリアを越えた拠点展開によって企業の持続的な成長を目指す戦略であると位置づけられます。
今回紹介した2つの公表事例は、同一事業での効率化を志向する「縦方向の提携」と、異業種間で事業領域を広げる「横方向の提携」という異なる戦略に基づくものでした。いずれも市場環境の変化を受け、持続的な成長や安定的な収益構造を目指す中で、各社が自社の経営資源や事業ドメインを再定義している動きであると捉えられます。
LPガスの業界動向
減少の一途をたどっているLPガス販売事業者数
生活のインフラを支え、「最後の砦」とまで言われているLPガスですが、家族経営の販売店においては、人口減少や規制強化、オーナーの高齢化などの理由から、清算・廃業や大手グループの一員になる事例が散見されていました。

しかし昨今では、地場オーナー系の大手企業においても、LPガス事業に対する高い営業権を活用し、企業成長や顧客提供価値の向上に向けたひとつの経営戦略として、会社ならびに事業を譲渡するという選択肢が一般化されつつあります。
特に、2024年は数万件を超える規模のM&Aが話題になった年でした。
譲渡企業(売り手企業) | 顧客件数 | 詳細 |
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アイエスジー(千葉県) | 数万~数十万件 | 千葉・茨城を中心に3つの充填所と17つの営業所を持つ岩谷酸素系と統合 |
レモンガス(神奈川県) | 約300,000件 | 2024年7月、SMBCキャピタル・パートナーズ(ファンド)に全株式譲渡 |
豊通エネルギー(愛知県) | 推定 数万件規模 | 輸送・物流の効率化、統合基盤強化のため、LPガス販売事業及び充填配送事業を東邦液化ガスに譲渡 |
いずれも、「物流網、人材、設備投資」の3重負担と、次世代への承継や業務効率化に対する経営判断が主因です。
「規模がおおきいから安心」という考えは、今や絶対ではなくなっています。
単独資本で継続できる=勝てる会社ではなく、「市場環境の変化に対応し、長く事業を継続するための戦略」が問われる時代です。
どうしてこんなにも業界再編が加速しているのか
「誰が売っても、ガスの質は変わらない。」
これが、LPガス業界における一番の特徴かもしれません。
たとえば近所の○○商店さんが届けても、大手の△△ガスさんが届けても、家庭で使う火は変わらない。だからこそ、「サービスの丁寧さ」や「供給の安定性」、そして「価格」が選ばれる決め手になります。
そうした中で、昔からこの業界には「組む文化」がありました。
卸元に譲渡したり、協同組合で配送や充填を連携したり...。M&Aもその延長線上にあると考えれば、実は特別なことではありません。
同じ課題をもつ同業他社、中でも大手と提携することで、以下のような変化も期待することができます。
- 商流の簡略化で仕入原価の低減
- 拠点や人材の統合による物流効率化
- LPWAや集中監視システムなど、IT投資による省人化
- バックヤードの集約による事務効率の改善
- 後継者問題の解決
提携後は、提携先から様々なノウハウを享受することができるため、単独で頑張り続けるよりも、時間をかけずに課題を解決することが期待できます。
最後に
変化の波が押し寄せる中で、単独資本でやり続けるのか、大手と提携するのか。
選択肢に優劣はありませんが、「納得して選択できるかどうか」が大切だと思っています。準備が早いほど、検討に時間を割くことができます。日々の業務の合間に、一度足を止めて考えるきっかけとなれば嬉しく思います。
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兵庫県出身。立命館大学生命科学部卒業後、2021年に新卒で中堅M&A仲介会社に入社し、企業概要書の作成業務を担当。その後、M&A仲介会社の立ち上げを経験し、2024年スピカコンサルティングに参画。