【成約事例ストーリー】機を逸したM&A、 遅い判断が招いた結果。
機を逸したM&A、 遅い判断が招いた結果
「数十年、必死にやってきた結末がこれか...」
まだ肌寒い、今年の早春、弊社のコンサルタントのもとに、一本の電話がありました。
「スピカで相談に乗ってほしい会社がある」
かつてM&Aの仲介でお手伝いさせていただいた、ある運送会社の社長からの相談でした。

聞くと、お知り合いの運送会社のA社長が、M&Aでの会社の譲渡を検討しているとのこと。
すぐにA社長に連絡を取ったところ、「今すぐ会いたい」との返答がありました。
「そんなに急を要する案件なのか」と、気を引き締め向かったその会社は、グループ売上高数十億円を誇る、地方の雄と呼べる存在でした。社屋にはトラックがずらりと並び、一見すると順調そうに見える会社です。
しかし、お話をお伺いする中で、その内情はかなり厳しいものであることが徐々に明らかになりました。
昨年の秋ごろ、同社には陸運局の監査が入っており、労務管理などを指摘され行政処分を受けていました。処分は厳しく、100日を超える車両の停車等が命じられました。
処分を受け、A社長は、ずさんな管理体制の是正を決意。拘束時間の見直し等、社内整備に取り組んでいましたが、長時間労働でこれまで高給をとっていたドライバーが次々と退職。1年で数十人ものドライバーを失う事態となっていました。
またそうした最中、先代社長による横領まで発覚。
業績も傾く中、孤立無援のA社長は「もう自分ひとりでの立て直しは厳しい」と、譲渡先を探している状況でした。

当時のA社長を取り巻く状況は厳しく、連日の退職者も後を絶たない状況で、加えて一部の社員が、全国に支部を持つ労働組合に駆け込んだことにより、組合との団体交渉にも追われるようになっていました。
このような切迫した状況であったため、お会いした時点でA社長はすでにM&A仲介には複数社と会っていました。しかし、この状況を正しく判断し、企業価値を算出できる仲介会社はなかったようです。
コンプライアンスの未整備、ドライバーの大量退職、労働組合との係争など、相当に難しい案件であることは感じていましたが、逆に「物流に特化しているスピカでしか、成約に導くことができない案件である」とも感じました。
譲り受け候補企業に提案を進めるその傍ら、日増しに会社の状況は悪化します。労働組合の交渉は激化の一途を辿り、社員の流出に歯止めをかけることもできず、A社長は日に日に憔悴していました。
夜中の3時に「朝一で電話ください」とメールがくることが多々あり、夜中に着信があることも少なくありませんでした。
紆余曲折を経て、同社はとある中堅物流企業との縁がつながり、なんとか成約に至ることができました。100人を超える従業員の雇用が守られ、A社長の心労も除くことができました。

しかし、本当にこれが諸手を挙げて喜ぶべき結末であったと言えるでしょうか。
もし仮に、A社長が5年前に相談してくれていれば。事前にバリューアップや会社の整備をしていたならば。間違いなくより良い未来を描く縁組ができていたでしょう。
これからの物流業界は、事業許可更新制や標準原価制度の適用など、事業者を取り巻く環境がこれまでに例のない速度で変化していきます。
M&Aはあくまで数ある経営手法のうちの一つです。しかしながら、消去法的にいざとなってから検討する最終手段ではありません。これは多くの方が勘違いしているところかと思います。
会社が傾き始めてからM&Aを検討し、お相手が見つからないこと、見つかっても上記の事例のように、かなり条件が限定されることが往々にしてあります。
後継者として考えていた番頭が想定より育たず、後継ぎが急にいなくなった、かねてよりの取引先が剥落し、業績が急激に悪化した、監査で指摘をうけ、管理体制の大規模なテコ入れが必要になった、など、予期せぬ““その日”はいつ来るか分かりません。
「M&Aはまだ検討しなくていいや」と思うタイミングこそが、実は一番いい条件でお相手探しができるタイミングです。
どうか、機を逸して明るい未来への選択肢を閉ざしてしまわないよう、早めの情報収集と準備をおすすめします。
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京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。