2025年7月のエネルギー業界M&Aまとめ
7月の主な公表M&A一覧
年間で500以上の事業者がM&Aを活用するLPガス業界では、事業者の会社状況やオーナー様の意向に合わせて「商圏譲渡」から「株式譲渡」まで、様々な形でM&Aが行われています。そんな中、7月を代表するM&A案件としてピックアップしたのはこちらです。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年7月1日 | 共同瓦斯株式会社(未上場・愛媛) | 株式会社エネサンス | 株式譲渡 |
「株式譲渡」は100%に限らない、オーナー独立性を維持しつつ大手資本を活用した成長戦略
株式会社エネサンスホールディングス(以下「エネサンスホールディングス社」)が、関連会社(※)である共同瓦斯株式会社(以下「共同瓦斯社」)の全株式を2025年7月1日付で取得し、完全子会社化しました。このM&A案件は、共同瓦斯社が本件実施より前の段階から、20%以上50%未満の一部株式をエネサンスホールディングス社に渡していたことで、すでに創業家の独立性は維持しつつエネサンスホールディングス社の経営資源を活用した成長戦略をとっていたという点が非常に興味深い内容になります。
※関連会社:親会社が議決権の20%以上50%未満を保有している状態
著者自身が当該案件を直接担当したわけではないため、詳細についてはわからないことが多いですが、大手の経営資源を活用したことで実現できたことは少なくないはずです。
もともと共同瓦斯社は、LPガス事業の将来を展望した愛媛県宇摩郡土居町内の小売業者8社が集まり、昭和37年12月「土居瓦斯販売株式会社」として始まりました。そこから、複数拠点の営業所開設・充填所の建設・ゴールド保安認定事業者の取得を経て、飛躍的な発展を遂げております。(共同ガス㈱ホームページより https://kyodo-gas.com/company/history/)
一般的に、株式譲渡となると「100%の株式を渡さなければいけない」と思われがちです。しかし、共同瓦斯社が実践していたような「一部株式のみを譲渡する」という事例はLPガス業界では少なくないのです。もう少しイメージしていただくために、実際に著者自身がご支援させていただいた事例をご紹介します。
山梨県甲府市の地場の雄が決断した34%株式譲渡
山梨県甲府市に本店を構える株式会社窪田商店(以下「窪田商店社」)。LPガス販売の他、不動産賃貸事業、太陽光発電事業を営んでおりました。窪田商店社は2024年8月1日付で株式会社サイサン(以下「サイサン社」)との資本業務提携に合意し、株式34%をサイサン社に譲渡しました。
◆ 窪田商店社が資本業務提携を通じて想い描いたビジョン
窪田商店社が今回、資本業務提携を決断した目的は、主に2点になります。
① LPガス事業の生き残り戦略として
窪田商店社は、甲府市内でトップクラスに匹敵する規模で経営されており、無借金で非常に安定した状況であった一方、甲府市内は業界最大手の事業者を中心に大手事業者が入り混じっている激しい市場環境であり、将来的に窪田商店社が生き残っていくためにはそういった事業者と戦い続けなければいけない状況でもありました。今後も安定してLPガス事業を展開し、激しい市場環境で生き残るためにも、LPガス事業のさらなる利益率改善、配送業務の効率化は必要であり、資本業務提携を通じての実現を期待しておりました。
② 不動産賃貸事業・太陽光発電事業拡大のための資金調達として
上記で述べたようにLPガス事業は無借金で順調に推移していた一方、不動産賃貸事業と太陽光発電事業を拡大するための資金調達が課題となっていました。今後も大胆な追加投資をするためには、金融機関からの融資枠の拡大、投資資金の確保が必要な状況でした。
◆ 資本業務提携を通じて叶えられた窪田商店社の成長戦略
窪田商店社は、本資本業務提携を通じ下記の点を実現しました。
- LPガスやガス器具の仕入原価削減となり、利益率向上
- 配送の業務量が減る夏季に、サイサン社の配送・保安業務を担うことで人的資源を無駄なく活用
- 法人格の信用力向上に伴い、金融機関からの融資枠拡大
- 株式を流動化し、得た資金を既存事業・新規事業に投資
自社の株式を活用した資本政策。これまでの現状維持では叶えられなかったことを資本政策の力で実現し、窪田商店社としての成長に寄与しました。
ご紹介した事例のように、資本政策は事業者の会社状況やオーナー様の意向によって様々な打ち方が考えられます。業界環境が激しく変化する中で、生き残っていくためにはどのような手を打っていくべきか?今後の生き残り戦略を考える一つのきっかけとなれば嬉しく思います。
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福島県出身。芝浦工業大学システム理工学部卒業後、2022年からスピカコンサルティングの立ち上げに参画。