2025年4月の食品業界M&Aまとめ
2025年4月の食品業界のM&A件数は13組(公表ベース)
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡がなされた件数は公表ベースで13組となり、1-4月の累計件数は50件となりました。なお、前年同月は14組であり前年1-4月の累計件数は51件となり、前年同様の推移となっています。
今月の主な公表M&A
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
---|---|---|---|
2025年4月2日 | 丸山食品工業株式会社 | 株式会社プレコフーズ | 事業譲渡 |
2025年4月2日 | 阿さ川製菓株式会社 | 株式会社シベール | 株式譲渡 |
2025年4月3日 | 株式会社岩村製餡工場 | 株式会社OICグループ | 株式譲渡 |
2025年4月15日 | 株式会社サンモール | 株式会社ジェーソン | 株式譲渡 |
2025年4月15日 | 株式会社狼煙 | 株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス | 株式譲渡 |
2025年4月18日 | 株式会社うちだ屋 | 日本創生投資(こむぎの) | 株式譲渡 |
2025年4月21日 | 株式会社RedList | 株式会社KeyHolder | 株式譲渡 |
2025年4月22日 | 株式会社RERA WORKS | メディエア株式会社 | 事業譲渡 |
2025年4月22日 | マリンテック株式会社 | 非公表 | 事業譲渡 |
2025年4月24日 | Ajinomoto Althea, Inc | Packaging Coordinators Inc. | 株式譲渡 |
2025年4月25日 | 株式会社帝人目黒研究所 | アサヒグループ食品株式会社 | 株式譲渡 |
2025年4月30日 | 株式会社岐阜タンメンBBC | MSD第二号投資事業有限責任組合 | 業務資本提携 |
2025年4月30日 | Mary’s Gone Crackers, INC. (亀田製菓) | ROSSEAU INCORPORATED | 株式譲渡 |
<2025年4月の食品業界 公表M&A>
【Pick UP M&A】株式会社こむぎの × 株式会社うちだ屋
今月の公表M&Aにおいて取り上げたいのは、株式会社こむぎのによる株式会社うちだ屋とのM&Aとなります。
株式会社うちだ屋の展開する博多うどんブランド「うちだ屋」は博多うどん4大ブランドの一角を担う人気ブランドです。一方で、株式会社こむぎのは堀江貴文氏が主宰するオンラインサロンから生まれた“地方活性型エンタメパン屋”「小麦の奴隷」を全国に展開する企業です。博多うどんといえば、昨年の資さんうどんのM&Aが記憶に新しいと思いますが、それに続く形となりました。
これまで、国内におけるうどんチェーンとしては丸亀製麵(トリドールホールディングス)が先行して全国展開しており国内店舗数840店舗(2024年3月)、続いてはなまるうどん(吉野家ホールディングス)が国内店舗数418店舗(2024年2月)、杵屋(グルメ杵屋)がうどんブランド113店舗(2024年3月)となっていました。ここに資さんうどん(79店舗)やうちだ屋(42店舗)がM&Aによって大手資本の傘下になり出店を加速することで業界勢力図に変化が起きると予測されます。
このように、うどん業態に熱い視線が送られる背景としては、原材料費の高騰による値上げや不景気の影が見え隠れする中で、従来はファミリーレストランで食事をしていた顧客層による、より価格を抑えた気軽な食事を求めるニーズを拾い上げ、顧客を取り込みたいという考えがあります。また、企業側としても同様に原材料費高騰による利益圧迫が止まらない中で、原材料の多くを占める小麦のスケールメリットを活かし仕入れ価格を抑えたいという意図も感じられます。今回の株式会社こむぎのはすでにベーカリーを全国に100店舗以上展開(2024年5月)しており、原材料が小麦という点でのシナジーも想定していると考えられます。
うどんと同じ麺業態のラーメンの歴史を見ると、中華料理のメニューとして支那蕎麦と呼ばれた時代から独自の進化を経て、日本料理ともとらえられることができる現代の「ラーメン」が生まれるまでの約100年の間で、スープだけを見ても、しょうゆ・塩・味噌・とんこつなど様々なものが生まれ、ブランドごとに差別化を図ってきました。1990年前後に博多発祥の「とんこつラーメン」が首都圏で一大ブームとなったことを覚えている方も多いと思います。
現在、全国展開をしているうどんチェーンの多くが讃岐うどんである中、うちだ屋や資さんうどんのように「博多うどん」が全国展開を目指す動きを発端とし、国内うどん市場もラーメンの歴史同様にさらなる商品の差別化やスタイルの多様化などにより独自性が生まれていくなど、新たな局面に移行する可能性に期待できます。
なお、株式会社こむぎのによるリリースでは、5年後に80店舗超の店舗展開を目指すとの記載もあり、今後の国内うどん市場の動きに引き続き注目です。
業界のニュース
カルビーが音楽レーベルを立ち上げ?R&D拠点は3倍に拡張
大手菓子メーカーでは、商品やブランドなどの知的財産を活用した取組が増えています。大手菓子メーカーのカルビーは新たな取り組みとしてIP管理プラットフォーム「かるれっと」を開発し、2025年4月17日より実証実験をスタートしました。
これまで、カルビーは新規事業を担う「Calbee Future Labo」にて、2023年から様々なデザインやキャラクターのIPを活用したグッズやNFTを手掛けており、食べるシーン以外での顧客体験の場を広げています。今回開発した、「かるれっと」ではカルビーのIPを活用し顧客との接点を拡大することを目的としており、プラットフォーム上で登録することでデザインなどをライセンス展開することが可能となります。すでに第一弾としてコンテストで入賞した8名のクリエイターがかるれっとを通じて契約を結び、入賞作品デザインを使用した商品企画を提案する実証実験を行います。今後、カルビー食品の食べ音を使用した音楽レーベルの立ち上げやクリエイターコンテストなどを予定しているとのことです。
このように、食品企業において「食べる」以外の顧客体験をユーザー参加型で行うことは、顧客の楽しむ機会を広げるのと同時に、盛り上げ・バズらせる といった「話題性」が求められる今のSNS時代に適したマーケティング手法であるともいえます。また、これらの研究開発を行うにあたってカルビーでは自社研究開発拠点「R&Dセンター研究棟」が以前の約3倍に拡張され、また海外でのグローバルな研究開発を進めるために海外にもR&Dセンターを建設するなど、新しい商品やサービスの開発に非常に積極的です。大手メーカーでは利益をこうした次世代を担う新しい取組に投資が行われおり、大手企業と渡り合っていくためには中堅・中小企業においても積極的な商品開発や新規ビジネスへの投資が求められます。
まとめ
ここまで取り上げたように、「博多うどん」が全国展開を目指すような、既存のマーケットに対して独自性の差別化によりシェアを獲得していこうという動きがみられることや、既存の概念にとらわれず食品業界であっても「食べる」以外での顧客体験を増やす取り組みなども広がっており、人気・売上・利益の現状維持というのは決して容易ではなく、常に商品開発や新規店舗の出店など企業成長への投資が求められることがわかります。
一方で、本年のコラムで何度も取り上げるように原材料費高騰や人材獲得の難しさなど業界全体としての課題は依然続いているのが現状です。このように、企業としての投資が必要な反面、目先の企業運営そのものに課題が山積する昨今において、資本の有効活用やノウハウの蓄積は当然ながら、M&Aにより資本やノウハウまた人材などを充足させるという選択を早期に検討することは、目まぐるしく状況が変化する現代の企業運営における転ばぬ先の杖であると言えます。
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兵庫県出身。自身の経営する会社を譲渡後、業界特化型のスタートアップにて法人営業およびPdMに従事。また、講師として業界課題解決セミナーに複数回登壇。300社以上の業務改善支援の実績がある。2024年スピカコンサルティングに参画。