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2025年6月の製造業M&Aまとめ

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目次

6月の代表的な公表M&A一覧

今月は20件を超えるM&Aが公表されました。
大企業によるTOB(株式公開買い付け)のみならず、中堅・中小製造業のM&Aも多く公表されており、多くの企業にM&Aという選択肢が拡がっていることがわかる月となりました。

公表日

譲渡企業(売り手企業)

譲受企業(買い手企業)

形式

2025年6月8日

Winkelmann Powertrain México S. de R.L. de C.V.(未上場・メキシコ ラゴス・デ・モレノ)

三櫻工業株式会社(6584・茨城)

株式譲渡

2025年6月10日

東京コスモス電機株式会社(6772・神奈川)

Bourns Japan Holdings LLC(未上場・米国カリフォルニア州)

TOB

2025年6月18日

United States Steel Corporation(NYSE上場・アメリカ)

日本製鉄株式会社(5401・東京)

株式譲渡

2025年6月18日

株式会社日本システムソリューション(3166・東京)

OCHIホールディングス株式会社(3166・福岡)

株式譲渡

2025年6月24日

株式会社藤原電機製作所(未上場・京都)

日工株式会社(6306・兵庫)

株式譲渡

2025年6月30日

小野建株式会社(7414・福岡)

中央鋼材株式会社(未上場・東京)

株式譲渡

【Pick Up M&A】日本製鉄によるUSスチール買収

買収の概要

2025年6月18日、日本製鉄は米国大手鉄鋼メーカーUSスチールの全株式を取得し、完全子会社化を完了したと発表しました。買収額は約142億ドル(約2兆円)に上り、日本製鉄の米国子会社を通じて実施されました。今回の買収により、日本製鉄グループの年間粗鋼生産能力は約8,600万トンとなり、世界第4位の鉄鋼メーカーが誕生しました。

背景と戦略

日本製鉄はUSスチールの買収により、米国市場への本格参入を果たしました。米国市場は、先進国の中で唯一人口増加と高水準の内需が見込まれる点で注目されます。さらに、関税による市場保護や高級鋼材需要の拡大も期待されており、これらが同社の成長機会となると予想されます。

買収には、米政府の審査や一時的な大統領令による制限といった政治的障壁がありましたが、2025年6月に「国家安全保障協定(NSA)」を締結し、正式に承認されました。

USスチールはピッツバーグ本社を維持し、米国内での一貫生産体制を継続します。日本製鉄は2028年までに約110億ドル(約1兆6,000億円)の追加投資を予定しており、現地生産体制の強化を図ります。

本件は、脱炭素や世界的な鉄鋼需要の変化に対応しつつ、北米市場での存在感を高め、グローバル競争力を強化する戦略的な一手となります。

こうした背景を踏まえると、この買収は日本製鉄とUSスチールの2社間の取引にとどまらず、世界の鉄鋼業界全体に大きなインパクトを与えました。

その要因として、世界規模で進む産業構造の転換や、各国メーカーが直面する共通課題が挙げられます。特に、国内市場の縮小、脱炭素への対応、国際競争力の確保といった構造的問題は、もはや一企業の努力だけでは解決できず、業界全体での再編を促す要因となっています。こうした流れの中で、日本製鉄によるUSスチール買収は、今後の鉄鋼業界再編の象徴的な事例といえるでしょう。

鉄鋼業界の再編について

日本製鉄によるUSスチールの買収がついに成立し、鉄鋼業界は新たな再編フェーズに突入しました。

業界のライフサイクルは一般的に、1.導入期、2.成長期、3.成熟期、4.衰退期の4段階に分けられます。
再編は、成長期もしくは成熟期に起こりやすいとされており、今回の買収は成熟期におけるM&Aと位置づけられます。

この動きは表面的には「米国市場の攻略」や「高付加価値鋼材の確保」といった攻めの戦略に映りますが、実際には産業構造そのものを根底から作り変える大きな流れの一部です。

鉄鋼業界は国内インフラ需要のピークアウト、脱炭素投資の巨額負担、グローバル競争の激化、そして人材・エネルギー・原料調達コストの高騰という“四重苦”に直面しています。こうした環境下で、単なる「うまい立ち回り」ではなく、「再編の主役になれる構造」を持つ企業だけが生き残れる時代が到来しました。

実際、日本の高炉メーカーはすでに日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所、日新製鋼(日本製鉄の子会社)の4社体制に収斂しつつあります。電炉メーカーもグリーンスチール対応などで選別が進み、業界全体が“4社時代”の到来を迎えています。

では、なぜ「4社」なのでしょうか。この現象は鉄鋼だけでなく、銀行、ビール、コンビニエンスストアといった他の成熟産業でも繰り返し見られます。たとえば銀行はメガバンク4グループ、ビールはアサヒ・キリン・サントリー・サッポロ、コンビニはセブンイレブン・ファミリーマート・ローソン・ミニストップ。いずれも「4社体制」が黄金律となっています。

その理由は明確です。2〜3社では過度な寡占となり競争が機能しなくなり、イノベーションや価格の硬直化リスクが高まります。一方で5社以上では競争が過熱しすぎて投資やコスト削減のメリットが薄れ、グローバル競争で不利になります。4社体制は「効率」「競争」「多様性」「グローバル対応」をバランスさせる最適解なのです。

このような再編の波は、他業界でも同フェーズにおいて起こっており自動車業界ではEV投資、銀行では不良債権処理、ビールでは国内需要縮小、コンビニでは物流・人手不足といった課題が再編を後押ししました。いずれも「規模の経済」と「多様性の維持」を両立させるために4社体制へと集約しています。鉄鋼業界再編の先にあるのは、日本の鉄鋼業界再編のみならず世界の鉄鋼業界を再編へと導く「新しい日本の鉄鋼」の姿です。

業界のニュース

日銀短観から読み解く:製造業の現在地と行方

2025年6月発表の日銀短観では、製造業の景況感が2期ぶりに改善(+12→+13)したものの、安心感にはまだ遠く、業種や企業規模による明暗が際立つ結果となりました。

鉄鋼や非鉄金属、紙パルプなどの素材業種は、原材料価格の高止まりを販売価格への転嫁で乗り越え、収益が回復しています。建設需要やインフラ更新の後押しもあり、電炉メーカーなどでは設備再編の動きも見られました。一方、自動車や電子機器といった加工・組立業種では、北米や中国市場の停滞、米国の関税強化などが重しとなり、業況感は弱含みです。

設備投資全体は底堅く、特にDX(デジタル化)やGX(グリーン化)、省人化への投資が活発化しています。IoTやAIの導入による工程改善や、カーボンニュートラル設備への更新など、企業の競争力を左右する要素としてデジタル投資が注目されています。変化に前向きな企業ほど、将来の成長余地を広げている状況です。

一方で、大企業に比べて中小企業では価格転嫁が進まず、特に下請け加工業者は原材料やエネルギーコストの上昇を吸収しきれず、収益を圧迫しています。こうした中、自社ブランド展開や直接取引、EMS化(受託生産)など、下請けからの脱却を図る動きも見られます。

先行きには不透明感が漂っており、米国の通商政策や円安、中国経済の減速など、外的要因によるリスクも無視できません。輸出依存度の高い企業では、業績下方修正が相次いでいます。

今回の短観は、製造業の底堅さと同時に、業種・規模ごとの二極化と、変化への対応力の重要性を浮き彫りにしました。中小企業にとっても、自社の強みや経営資源を見直し、時代の変化に柔軟に対応していくことが今後の成長に繋がるカギとなります。

まとめ

2025年6月の日銀短観では製造業の景況感が2期ぶりに改善しましたが、業種や企業規模による格差が鮮明になりました。素材系は価格転嫁で好調を維持する一方、自動車や電子機器などの加工系は海外リスクの影響で苦戦しています。

その中で、日本製鉄によるUSスチール買収は、北米強化や脱炭素・DX対応を見据えた鉄鋼業界の歴史的再編として注目されました。このような大手の動きは、中小企業にも影響を及ぼし、価格交渉力や投資力の差が浮き彫りになっています。

今後は、デジタル化・省力化・M&Aなどの手段を活用し、収益構造を見直すことが企業の成長を左右します。変化に対応し自ら動ける企業こそが、日本のモノづくりの未来を支える存在となるでしょう。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

石渡 隆也

神奈川県出身。横浜市立大学院生命ナノシステム科学研究科卒業後、2025年に新卒でスピカコンサルティングに参画。

担当者:石渡 隆也部署:製造業支援部役職:M&Aコンサルタント

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