2025年7月の食品業界M&Aまとめ
7月の主な公表M&A一覧
子会社の吸収合併などの組織再編やマイノリティ出資、合弁会社の設立などを除き、過半数以上の株式譲渡または事業譲渡が行われた件数は、公表ベースで14件となり、1~7月の累計件数は93件となりました。なお、前年同月は13件、前年1~7月の累計件数は77件となっており、累積件数では増加傾向にあるといえるでしょう。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
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2025年7月1日 | 株式会社イノダコーヒ(非上場・京都) | キーコーヒー株式会社(2594・東京) | 株式譲渡 |
2025年7月1日 | 株式会社Food Emotion(非上場・東京) | 株式会社日本共創プラットフォーム(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年7月2日 | 株式会社モリノキ(非上場・神奈川) | 株式会社Antway(非上場・東京) | 事業譲渡 |
2025年7月3日 | 宇佐パン粉有限会社(非上場・大分) | ヤマエグループホールディングス株式会社(7130・福岡) | 株式譲渡 |
2025年7月3日 | 株式会社鈴木商店(非上場・北海道) | 栗林商船株式会社(非上場・鹿児島) | 株式譲渡 |
2025年7月3日 | 青柳食品販売株式会社(非上場・東京) | エコナックホールディングス株式会社(3521・東京) | 株式譲渡 |
2025年7月4日 | 株式会社北研(非上場・栃木) | 株式会社OICグループ(非上場・神奈川) | 事業譲渡 |
2025年7月11日 | 株式会社fufumu(非上場・東京) | キッコーマン株式会社(2801・千葉) | 事業譲渡 |
2025年7月15日 | OSMICホールディングス株式(非上場・東京) | 株式会社キャピタルギャラリー(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年7月17日 | 株式会社宮崎酒造店(非上場・千葉) | 株式会社穴太ホールディングス(非上場・千葉) | 事業譲渡 |
2025年7月18日 | 豊創フーズ株式会社(非上場・東京) | 株式会社フーデックホールディングス(非上場・東京) | 株式譲渡 |
2025年7月24日 | 株式会社Yappa(非上場・東京) | ワイエスフード株式会社(3358・福岡) | 株式譲渡 |
2025年7月30日 | 有限会社松尾魚嘉(非上場・福岡) | 株式会社サワライズ(非上場・福岡) | 株式譲渡 |
2025年7月31日 | 有限会社マルヒロ太田食品(非上場・北海道) | クックビズ株式会社(6558・東京) | 株式譲渡 |
京都の老舗コーヒー店である株式会社イノダコーヒ(以下、イノダコーヒ)をキーコーヒー株式会社(以下、キーコーヒー)が譲受しました。
本件の注目すべきポイントは、イノダコーヒは2022年9月にアント・キャピタル・パートナーズが運営するファンドに株式譲渡が実行されており、今回の株式譲渡はファンドから事業会社であるキーコーヒーに再度譲渡された点です。
個人オーナーからの譲渡により、ファンドによる企業価値の向上が実施され、さらにシナジーの見込める事業会社に譲渡されるといったファンドが関与するM&Aの一連の流れが実施されました。
また、イノダコーヒとキーコーヒーは一度目の株式譲渡以前である2021年に業務提携契約を締結しており、従前から良好な関係性やシナジーが見込めたことも本件M&Aの実施に影響したと考えられます。
このような、企業成長のためにその時にベストな企業に譲渡をすることができるというのもM&Aの醍醐味であり、事業会社の子会社となることでイノダコーヒがどのように変化するか、今後に注目です。
業界のニュース
2030年を見据えた大手冷凍食品メーカーの戦略
昨今の共働き世代や高齢者世帯の増加に加え、食の時短効率化といったライフスタイルの変化により、冷凍食品市場は需要が増加。冷凍食品大手メーカーはそれぞれ市場の変化を見据えた動きをとっています。
株式会社ニップン(以下、ニップン)は長期ビジョン2030の中で、成長分野である冷凍食品事業の売上高目標を900億円(23年度比73%増)と発表。主に中食や家庭内での需要増加を見込んでおり、4月にM&Aで連結子会社化した株式会社畑中食品のもとで冷凍食品の新工場を建設中です。
また、日清食品冷凍株式会社は「2030VISION」の中で、「冷凍麺の2つの“シンカ(深化・進化)”により、ニッポンの孤食をもっと笑顔に変えていく」取り組みを推進すると発表しています。
具体的には冷凍麵の(1)購入者あたりの購入数拡張に向けたクロスカテゴリー購買促進(衝動購買促進)(2)LTV(顧客生涯価値)拡張に向けたヘルス&ウェルネス市場開拓(3)未顧客開拓に向けたTVコマーシャル攻勢、などの取り組みで冷凍食品市場の活性化を図るようです。
冷凍食品の需要が増加する一方で、原材料費の高騰による価格改定が引き続き行われています。
冷凍うどんに力を入れているテーブルマークでは、価格改定の影響もあり販売実績は金額で前年比1桁前半減、販売数で前年比一桁後半減となっています。この数字を受け、テーブルマークは技術力を投入し、味を高める取り組みや、注力商品を工程が短縮できる商品に絞るなどの対策を進めています。
このように市場としては拡大傾向にある冷凍食品市場ですが、価格に対する顧客の目線は厳しく、効率的な生産体制の構築による原価調整や金額に納得感のあるブランディングなど、各大手メーカーの企業努力が引き続き求められる状況にあります。
まとめ
中食市場では、冷凍弁当などの冷凍食品宅配や完全栄養食品が盛り上がりを見せています。
日本能率協会総合研究所「MDB有望市場予測レポート」によると、冷凍宅配弁当市場は2023年度に325億円の市場規模となりましたが、2029年には540億円の規模に大幅増するとの予測がされています。
また、完全栄養食品市場においても、株式会社富士経済「変革期を迎える完全栄養食の現状と将来展望」では、2022年の144億円の市場規模から2030年には546億円の規模に大幅増するとの予測がされています。
このような急成長市場における適切な投資を行うことで、市場の先取りや先行者利益を享受することが可能です。
需要増に対して生産能力向上に必要な投資が行えない企業や、適切なマーケティング戦略が打てていない企業も多いのではないでしょうか。本コラムで紹介したような大手とM&Aで組むことにより一度に課題を解決するといった戦略を打つ企業もいます。成長戦略としてのM&Aという選択肢は、今後成長が期待される分野において冷凍食品業界に限らず行われてくると予測できます。
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兵庫県出身。自身の経営する会社を譲渡後、業界特化型のスタートアップにて法人営業およびPdMに従事。また、講師として業界課題解決セミナーに複数回登壇。300社以上の業務改善支援の実績がある。2024年スピカコンサルティングに参画。