2025年9月の物流業界M&Aまとめ
9月の主な公表M&A一覧
9月も物流業界では多数のM&Aが見られました。
物流企業が関与するM&A件数は、9月だけで20件近くにのぼり、前年同月(8件)と比較しても、大きな増加傾向が見て取れます。以下に挙げるのはその一部ですが、上場大手から地方中小企業まで、規模の大小を問わず、多くの物流企業がM&Aを積極的に活用している実態がうかがえます。
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
|---|---|---|---|
2025年9月1日 | 新生物流サービス(広島県) | 明治ロジテック(東京都) | 株式取得 |
2025年9月2日 | 河野トラック株式会社(兵庫県) | DENZAI株式会社(東京都) | 株式取得 |
2025年9月5日 | コントラクト東日本株式会社(千葉県) | 八潮運輸株式会社(埼玉県) | 株式取得 |
2025年9月10日 | 三之丸通商株式会社(大阪府) | 株式会社Univearth(大阪府) | 株式取得 |
2025年9月12日 | Saurashtra Freight Pvt. Ltd(インド) | 株式会社上組(東京証券取引所プライム市場 9364・兵庫県) | 株式取得 |
2025年9月24日 | EXPOLANKA HOLDINGS Limited(スリランカ) | SGホールディングス株式会社(東京証券取引所プライム市場 9143・京都府) | 株式取得 |
2025年9月25日 | 加藤運輸有限会社(千葉県) | 磐栄ホールディングス株式会社(福島県) | 民事再生 |
2025年9月30日 | ICCL Group(マレーシア) | 株式会社ニチレイロジグループ本社(東京都) | 株式取得 |
2025年9月30日 | フードクオリティーロジスティクス株式会社(東京都) | 株式会社キユーソー流通システム(東京証券取引所スタンダード市場 9369・東京都) | 吸収合併 |
【Pick Up M&A】コントラクト東日本×八潮運輸
2025年9月5日、八潮運輸株式会社(埼玉県)は、コントラクト株式会社(千葉県)の子会社であるコントラクト東日本株式会社(宮城県)を譲り受けたと発表しました。これにより、八潮運輸は東北地方へ初進出を果たし、仙台エリアの顧客に対する物流サービス体制を強化します。
同社にとって今回のM&Aは14件目。年商はすでに100億円を突破しています。2010年頃には20億円台だった売上を、約15年で5倍近くにまで伸ばしてきた背景には、単なる拡大ではない、独自のPMI(経営統合プロセス)戦略が存在します。

八潮運輸がM&AのPMIにおいて重視しているのは、グループ入りした企業に対して「変えるべきこと」と「変えないこと」の明確な線引きです。
まず、変えるのは収益構造。管理会計を導入し、不採算部門の可視化を徹底。その上で、グループ全体の営業・業務ノウハウを活用し、売上拡大とコスト削減を同時に推進していきます。改善によって得られた利益の一部は、従業員の待遇向上に還元され、「選ばれる会社」への転換を図ります。
一方で、企業文化や給与制度といった“人”に関わる部分には極力手を加えません。経営者が継続する場合にはそのまま現場を任せ、八潮運輸は営業支援やバックオフィス機能の提供を通じて、伴走者としての立場を貫きます。
こうしたPMIにより、年間4,000万円の赤字を出していた企業が、グループ入り後わずか1年で月次300万円の黒字に転じた例もあるといいます。
中小の物流企業が共通して直面しているのは、営業力の不足、業務ノウハウの属人化、そして深刻な人材難。これらの課題を解決するには、経験とノウハウを持つパートナーの力を借りることが効果的です。
八潮運輸は、営業支援と業務改善を通じて収益を改善し、待遇向上を実現することで、譲渡企業自身が「選ばれる会社」となる支援を行っています。
八潮運輸の宮地社長は「利益を出せる会社にすることが、従業員を守る唯一の方法です」と語ります。その言葉通り、同社のM&A戦略は、譲渡企業やそこで働く社員や家族にとっても安心できる未来を想像させるものであるといえるでしょう。
業界のニュース
全国で最低賃金の答申が出揃い 平均66円の時給引き上げへ
2025年8月4日、各都道府県の地方最低賃金審議会において2025年度の地域別最低賃金の改定額が決定され、全国47都道府県で63円〜82円の大幅な引き上げが実施されました。
これにより全国すべての地域で最低賃金が1,000円を超え、過去最大の上げ幅となりました。
物流経営者の皆様におかれましては、今回の改定を受け、現状の賃金体系が現在の法令に照らして適性かどうか、今一度確認して頂ければと思います。
以下のような賃金体系を設定している事業者様は要注意です。
①基本給を最低賃金に合わせて設定している
このような場合、最低賃金引き上げに応じた賃上げを行わなければ法令違反となる可能性があります。
②皆勤手当や家族手当など最低賃金の計算に含まれない手当を多く採用している
最低賃金の計算にあたらない手当などを、業績給などで支給することで、最低賃金の基準をクリアできる可能性があります。
今回の最低賃金の上昇が与える影響は、適法化の側面にとどまらず、業績においても非常に大きなインパクトを与えます。
令和4年時点での、一般貨物運送事業者の売上に占める人件費は46%(全日本トラック協会 日本のトラック輸送産業 現状と課題2024より)と非常に高く、最低賃金の上昇によるコストの上昇は、そのまま業績に直撃します。
仮に売上高2億円規模の物流企業を想定すれば、今回の6.25%程度の賃上げでは約575万円の労務費増加が見込まれ、これを補うには約2.9%の運賃引き上げが必要となります。
これは燃料費や車両費の高騰といった他のコスト上昇を考慮しない試算であり、実際の負担はさらに大きくなる可能性があります。
なお、最低賃金の見直しは今後も毎年継続して行われる見込みであり、物流事業者においては、その上昇幅に見合うだけの運賃交渉力を持つことがますます重要となります。まずは、自社の賃金体系が現行の最低賃金制度に照らして適法であるかを確認するとともに、今後もその適法性を維持していくだけの運賃を確保できる体制が整っているかどうかを見極めることが求められます。

カテゴリ
京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。