製造業2025年大予測〜再燃する貿易摩擦とDXの必要性〜
2025年の製造業はこうなる
先日の米国大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏が4年ぶりに再び大統領に就任することが決定した。トランプ氏は米国の貿易赤字削減を強く志向しており、自身のSNSを通じて、2025年1月の大統領就任後、中国からのほぼすべての輸入品に追加で10%、カナダおよびメキシコからのすべての輸入品に25%の追加関税を課す考えを明らかにした。この第二次トランプ政権下で、貿易摩擦は再び激化し、アメリカ国内への生産回帰(国内回帰)はどうしても避けられない状況とだろう。これら米国の貿易政策は、日系メーカーにも大きな影響を及ぼす可能性がある。特に、自動車メーカーにとってメキシコは重要な製造拠点であり、メキシコからの輸出をめぐる関税の引き上げ懸念から、各社は事業戦略の大幅な見直しを迫られている。また、自動車メーカーに限らず、系列の部品メーカーを含めたサプライチェーン全体が分断されるリスクにも注意を払わなければならない。今回の発表のみでトランプ政権の関税強化策が打ち止めになる可能性は低く、今後も追加的な措置が打ち出される可能性も考慮すべきだ。こうした事業環境の変化を要因に、自動車メーカーをはじめとしたサプライヤー全体で、新たな再編が一層加速することが見込まれるだろう。
2025年の製造業経営者に求められること
~2024年版ものづくり白書を読み解く~
経営の不確実性が高まる中で、中堅・中小製造業の経営者には、急速な市場変化や技術革新に柔軟に対応するため、戦略的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが求められてきた。近年、製造業全般で一人当たりの名目労働生産性が横ばいの状況が続き、既存手法だけでは収益力向上が難しくなっている。一方で、IoTやデータ分析ツール、クラウド環境の進展は、品質・コスト・納期(QCD)の改善余地を拡大し、労働生産性や顧客満足度向上への道筋を示しています。

しかし、2024年版ものづくり白書から読み取れるのは、多くの製造業経営者は日々の顧客対応や現場管理業務に忙殺され、DXやIoT活用といった将来に向けた取り組みに十分な時間と資源を割けていないという事実だ。また、新たな技術への知見不足や既存プロセスの転換に対する抵抗感も、前進を阻む要因となっている。DXは必ずしも大規模投資から始める必要はありません。生産ラインや在庫管理の「見える化」、簡易ツールによる品質データの蓄積など、小さな一歩を踏み出すことで、改善効果を確認しながら徐々に改革を拡大していくことができる。さらに、従業員教育によるデジタルリテラシーの強化もDX成功への重要な鍵と言えるだろう。たとえば、愛知県の旭鉄工株式会社はIoT活用による生産ラインの「見える化」を進め、稼働状況や不良率を即時に把握できる仕組みを構築した。生産性向上とコスト削減を実現するとともに、データ分析で顧客ニーズを的確に把握し、品質改善や納期短縮にも成功している。大規模投資に頼らず、段階的なDX推進で競争力を強化した好例と言えるだろう。
今後の持続的な成長と企業価値の向上を目指すためには、今こそ日常業務に埋没せず、段階的かつ着実にDXへの道を切り拓く経営者のリーダーシップが求められる。
大阪府出身。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、2010年に新卒でキーエンスに入社。中小企業から上場企業まで工場の生産性向上やIoTシステム導入支援などに貢献。その後、日本M&Aセンターへ入社し、業界再編部において製造業専門チームを立ち上げ。2023年スピカコンサルティングに参画。