日本を強くする 「100億円企業」
現在、中小企業庁の取り組みで「日本国内により多くの売上高100億円企業を誕生させよう」という取り組みが行われている。この取り組みに賛同し、100億円企業を目指すことを、「100億宣言」と呼んでいる。今回のコラムでは、この取り組みに際して売上高100億円企業はそもそもどれだけ存在するのか、そして売上高100億円企業になれたらどのような効果があるのかについて、様々なデータをもとに分析をしていく。
「100億宣言」 とは
中小企業庁の公式発表によると、「『100億宣言』 とは、中小企業の皆様が飛躍的成長を遂げるために、自ら、「売上高100億円」という経営者の皆様にとって野心的な目標を目指し、実現に向けた取組を行っていくことを、宣言するもの」とある。
中小企業が売上高100億円を目指す具体的な活動に対して、国が助成金を支給し支援する取り組みということだ。助成額でいうと、最大5億円(補助率½)であり、国がかなり力を入れている大型プロジェクトであることがわかる。
売上高100億円企業の数
では、現在国内に売上高100億円企業はどれくらいあるのだろうか。帝国データバンクによると、2023年度時点の売上高100億円企業の数は全国で15,159社であり、前年度から590社増加している(図表①)。日本国内の企業数は約500万社と言われているため、約0.3%のみが100億円企業ということになる。
更に図表①を見ていくと、100億円企業は都心部に激しく集中していることがわかる。全国で約15,000社の100億円企業が存在しているが、東京都・大阪府・愛知県だけで約8,800社となり、半数以上を占めている。そもそもの会社の数が都心部のほうが多い傾向にあることは確かであるが、地方に会社の単純なパワーを示す売上高が高い企業が少ないことは、社会全体にとって望ましいことではないはずだ。
図表①:都道府県別 年商 100 億企業の社数

なぜ売上高100億円企業を目指す必要があるのか?
企業価値向上と企業の持続的な存続を目指す上では必ずしも売上高の向上を目指すことだけが正解であるわけではないが、売上高100億円を目指すことは非常に意義のあることだと私は考える。
端的に言えば、売上高100億円企業が日本国内に増えることは、地方創生に大きく影響を与えると考える。どのように地方創生に影響を与えるかについて、3つの観点から分析していく。
100億円企業が地方創生に寄与する要素①-地域の雇用と賃金
まず分かりやすい効果として、地域における雇用の拡大と賃金の上昇が考えられる。
売上高100億円に達する企業は一般的には数百~千名程度の社員数で構成されることが多い。つまり単純に100億企業が誕生すれば、最大で千名程度の雇用を生み出すことになる。
また企業の売上高と賃金にも興味深い関係性がある。中小企業庁のデータによると、売上規模が大きくなるほど従業員1人あたりに割く人件費の金額が大きくなることが分かっている(図表②)。図表②のグラフ内で見ると、売上高1億円以下の企業と100億超の企業では、1人あたりの人件費が倍近く、金額でいえば200万円もの差が生じている。
地域内の平均賃金が上昇することで、地域内での消費額を増やすことができ、そうなると当然地域の活性化につながることが期待できる。
地方創生というテーマが生じる根本的な問題は、地方と都市圏の様々な差であり、その中でもかなりのウエイトを占める「平均賃金(年収)」という大きな問題の対策に、100億円企業の誕生はなり得るのである。
図表②:売上規模別の従業員1人あたりの人件費

100億円企業が地方創生に寄与する要素②-地域内仕入額の増加
売上規模と域内仕入の関係にも興味深い関係性がある。図表③は、売上規模別に域内仕入における額と率を示している(域内仕入率=売上高に占める域内仕入額の割合)。売上規模が100億円越えまでに成長した企業は、近隣・周辺地域からの仕入金額・仕入比率が大きく、域内需要の創出を牽引していることが分かる。
売上規模の大きな企業に成長することは、自社とその社員の豊かさだけでなく、地域の豊かさをもたらしていることが見て取れる。
図表③:売上規模別の域内仕入額・率

100億円企業が地方創生に寄与する要素③-地域に与えるインパクトが大きい
日本には都心部・地方部に限らず、世界に誇る技術やサービスレベルを持った企業が多数存在する。そんな企業たちがその地域において商品やサービスを顧客に届けることで、その地域に大きな貢献をしていることに間違いない。
しかしその地域を本気で変えようと思うと、売上高数億規模の会社の力だけで実現できるだろうか。地方部においてますます加速度的に進行する少子高齢化・生産年齢人口の減少。このことから発生する都心部との様々な差は簡単に埋まるものではない。
このような問題にアプローチし、本当の意味で効果のある地方創生を実現するとなると、最低でも売上規模100億円程度の企業でなければ難しいのではないかと私は考える。図表④に記載する通り、売上規模によって、事業・採用・地方貢献の3つの領域で実現できるスケールは大きく変わってくるはずである。例えば事業の領域でいえば、売上高100億円以上の企業であれば、地域内の需要だけでは達成することが難しく、地域外の需要も取り入れて展開する必要があることに加え、海外展開を視野に入れることができる。採用の領域でいえば、売上規模の小さい会社であれば基本的には地域内での人材募集という採用方法になることが一般的であるが、100億円企業のレベルになると、地域内の学校や教育施設と連携した取り組み、つまり将来の人材へ向けた投資が可能となる。地方貢献の領域では、売上規模の大きい企業であれば大型のイベントへの投資や、スポーツチームのスポンサーになることも可能である。これもまた、それ自体が地方創生に直接的な貢献をもたらすこともあるが、目線としてはどちらかというと長期的な活性効果に向けた投資の側面が強い活動である。
このように売上規模が大きな会社は、事業・採用・地方貢献に共通していずれも「長期的な目線での投資活動」が行えるようになる。地方創生という大きな問題に対して企業が強い影響を与えるためには、短期的な目線だけでなく、長期的な目線を取り入れた企業活動をしていくことが必要不可欠ではないだろうか。
図表④:売上規模別 各領域で実現可能なスケール(一例)

100億円企業に成長した企業の3つのパターン
100億円企業が自社だけでなく、地域全体に好影響を及ぼすことができるポテンシャルを持っていることは理解できた。それでは、100億円企業になり得るような飛躍的成長を遂げている企業たちにはどのような共通点があるのだろうか。今回はこれを客観的に紐解くために、中小企業庁が主催する「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」の資料を活用していく。
図表⑤は、売上高1-10億円企業が100億円越まで成長した企業群において、中小企業庁が共通項を整理した資料である。この資料によると、大きく売上高を伸ばした企業の成長パターンは、A:成長市場型・B:独自価値創出型・C:成長志向M&A型、の3種類に区分されている。
図表⑤:売上高1-10億円から100億円越に成長した企業に共通するパターン

A:成長市場型は、市場規模が近年伸びている業種・業態で事業を行っていることが成長の主要因であると考えられる企業群である。その中で最も多く見られた業種がIT・コンサルティング業界であり、その次に高齢化に伴って需要が拡大する業種(介護・ペットなど)であった。既存領域とは全く違う、新たな事業としてこのような事業を開始することは簡単ではないが、例えば受託システム開発を主軸とする企業が自社システムを開発し、その導入・保守に関するコンサルティングを開始したり、店舗のみを運営する調剤薬局が在宅訪問を行うことで既存事業領域にプラスの売上をもたらすことを見込むことができる。
B:独自価値創出型は、市場規模が年々拡大しているような成長市場で事業を行っているわけではないものの、需要が伸びるセグメントに着目して、競合他社と異なる価値を構想した企業群である。1つの例としてバルミューダ株式会社(東京・家庭用電気製品)が挙げられている。当社商品の価格は市場商品平均の2倍から10倍+高機能、高いデザイン性を特徴として高級家電ブランド市場を確立。BALUMUDAの世界観を最大限発揮できるようプロモーション写真、動画等も自社で制作し、ブランド構築。加えて 製造部分のみを外部に委託し、企画、設計や品質検査等は内製化することによりコストカットを実現している。家電製品製造という、今までと需要が大きく変わらない分野において、「国産のスタイリッシュな高級家電メーカー」というポジションを築き上げた。このような独自のポジショニングを築くためには、やはり前述したような「長期的な目線での投資」が必要不可欠になってくるであろう。
C:成長志向M&A型は、戦略的なM&A活用等の組織再編が成長の主要因だと考えられる企業群である。同資料では、「M&Aを活用することで、上流・下流の商流を統合したり(垂直統合型)、事業エリア・顧客範囲を拡大したり(水平展開型)する事例が多く見られた」とあるが、これはまさに前回のコラムで記載した「縦・横のM&A」の考え方である(図表⑥)。「M&Aで事業領域やエリア(顧客範囲)を拡大する」というと、M&A=他社買収というイメージになる方が多いが、自社を譲渡してそれらの目的を達成する、という考え方も忘れてはいけない。このことは後段で詳しく述べる。
図表⑥:「縦・横のM&A」

100億円企業を目指す中小企業に必要な2つの戦略
これまでのデータ・事実を踏まえ、中小企業がこれから売上高100億円を目指すためにどのような戦略が必要なのか、について、2つの必要な戦略があると私は考えている。
1つ目は、数年単位の経営計画の策定である。上場企業は定期的に中期経営計画や来年度の業績見込みを当然公開しており、これは投資家に対する興味喚起の意味合いもあるが、自社の成長や今後の投資計画を立てるにあたって必要不可欠なものである。これを書いている私も、自社スピカコンサルティングの経営計画を策定すること、それに必要なデータを整理し分析することに大きなウエイトを割いている。一方で中小企業庁「中小企業白書2025」によると、経営計画を策定している企業はおよそ半数しか存在しない(図表⑦)。先から述べている「長期的な目線での投資」は経営計画無しでは絶対に実現することはできない。また、先ほど記載した100億企業への成長パターンである、「どの市場で勝負するか」「どうやってポジショニングを築くか」「どのような資本政策・コーポレートアクションを取るか」を検討することすらできないであろう。計画を緻密に策定し、それに則り経営を実行し、その後に修正をすることで自社の強み・弱みが見えてくる。まずは経営における全ての土台となる経営計画を立てたうえで、そのほかの戦略を検討すべきである。
図表⑦:経営計画の策定状況

2つ目は、経営計画に基づいたコーポレートアクションの実行である。コーポレートアクションには先に述べたM&A(他社買収・自社譲渡)に加え、一部出資や借入といった財務上の意思決定全般が含まれる。売上高を今までよりも伸ばすためには、シンプルに考えると「単価を上げる」か「販売数(範囲)を伸ばす」かのいずれかになる。これを大きな規模で行っていくには、効率よく自社以外のヒト・モノ・カネを活用することが求められる。それにはM&Aや出資等の方法によって「他社を買収する(出資する)」・「他社の資本を利用する(自社の株式を譲り渡してヒト・モノ・カネのリソースを得る)」の2つの例が分かりやすい。
1つ目に説明するのは、先に述べた「縦・横のM&A」で他社を買収(他社に出資)することである。業務フローの川上・川下の企業を買収することで事業領域を増やす、または同事業の別エリアの企業を買収することで新たな顧客を獲得することが分かりやすい。他社を買収するうえで気を付けなければならないのは、全く見識がなく、明確な戦略もない状態で新たな事業領域の企業を買収することは失敗しやすいことである。これは前回のコラム「企業価値が伸び悩む『迷走型M&A』」で詳しく記述している。縦・横の領域の会社に対して買収を実行し、相手企業と自社の統合を進めたうえで、これまでよりも更に効率の良いフローで事業を回転させていくことが最も重要である。
2つ目の例は、他社の資本を利用する(自社の株式を譲り渡してヒト・モノ・カネのリソースを得る)ことだ。こちらの戦略をM&A・資本戦略でないがしろにする企業が多く見受けられるが、本来は誰しもが検討自体はする必要があると私は考える。最も身近な例を挙げると、我々スピカコンサルティングも2年前に現在の親会社にあたるGA technologiesへの株式譲渡を実行した。本件の大きな目的はGAグループのリソースを最大限活用することである。2年経った今、グループのリソースはかなり活用できている。自社の顧客管理システムや営業効率化のツールを開発するエンジニアチーム、毎年新卒採用に成功している人事部門・社員の労務管理を行う労務部門・業績を管理し決算書を作成する経理部門等、全てグループのリソースを最大限活用している。それによって現在のスピカコンサルティングはコンサルタントが自身の業務に集中することができ、間接部門の社員は可能な限り少人数で運営することができている。このように、他社を買収するだけでなく、株式を譲り渡すことで他社のリソースを活用して成長できるという選択肢があることを是非とも知っていただきたいと私は思う。
100億企業を目指し、日本を強くする
100億企業を目指すという取り組みが国主導で呼びかけられ、先に述べたような戦略が推奨されていることは実に良いことだと考える。これを機に、自社の現状分析を踏まえた中長期的な経営計画の策定・どういったコーポレートアクションを取れる可能性があるのかについて、是非ともじっくりと考えてみてはいかがだろうか。
神奈川県出身。早稲田大学商学部を卒業後、中堅M&A仲介企業に入社し、業界再編戦略本部の営業企画業務を担当。 その後、株式会社リヴァンプにて、クライアントのマーケティング・経営企画業務支援に従事。 2024年1月より、スピカコンサルティングに参画。