2025年6月のLPガス業界M&Aまとめ
日本で最も営業権 が高い業界として、2025年も多くのLPガス業界のM&Aで行われております。馴染みの深い「商圏買収」から会社を残せる「株式譲渡」まで、年間500以上の企業様が資本提携を活用する時代です。結果的に業界の進化はどんどん進んでおり、著者がLPガス業界に携わり始めた2018年には2万近くあった法人数が今では1万6千社を下回っています。そんな中、6月を代表するM&A案件としてピックアップしたのはこちらです。
6月の主な公表M&A一覧
公表日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 |
---|---|---|---|
2025年6月8日 | 陽品運輸倉庫株式会社(未上場・千葉県) | 三和エナジー株式会社(宇佐美グループ) | 株式譲渡 |
宇佐美がLPガス配送に本腰!?業界に走る衝撃と、その裏にある構造変化
「宇佐美がLPガス配送に力を入れるのか!?」
このニュースに驚いた業界関係者は少なくないのではないでしょうか。実際、私の元にも多くの問い合わせが寄せられました。私および当社が当該案件を担当したわけではないので、詳細についてはわからないことも多いですが、それでもなお、今回の動きがLPガス業界にとって大きな意味を持つことに変わりありません。
燃料配送の雄、宇佐美グループの決断
全国に7社、600台のタンクローリー、800名以上の従業員を擁する宇佐美グループが、いよいよLPガス配送の本格展開に乗り出しました。その中核を担うのは、グループ随一の配送機能を持つ三和エナジーです。
背景にあるのは、エネルギー需要の構造変化ではないでしょうか。都市ガスや再エネの普及で石油需要は縮小傾向にある一方、主要都市以外では今なおLPガスが生活の基盤を支えています。また、災害時エネルギーの砦として、日本ではなくてはならないエネルギーでもあります。「地域密着型エネルギー企業」への転換を進める宇佐美にとって、LPガス分野は単なる延長線上ではなく、“次の柱”となる可能性を秘めていると考えています。
三和エナジーとLPガスの高い親和性
今回の事業を担う三和エナジーは、もともと燃料輸送において高い専門性を有しており、LPガス配送との親和性が高い企業です。共通点は多く、以下のようなものが挙げられます。
- 危険物取り扱いへの高度な意識
- 有資格ドライバーによる配送体制
- 定期・確実なルート運行
これらすべてが、すでに三和エナジーの現場では日常的に行われている業務です。
さらに同社は、災害時燃料供給ネットワーク「EESS」なども展開しており、「運ぶ」だけでなく「エネルギーを守る」体制を整えています。LPガス配送を加えることで、家庭用エネルギーの供給までカバーする体制が整い、まさに社会的役割を一段と広げる形になるでしょう。
陽品運輸倉庫の譲渡に見える物流の現実
このたび譲渡された陽品運輸倉庫株式会社は、従業員約100名、年商40億円規模の優良企業であり、長年にわたって化学製品や燃料など特殊物流に強みを持っています(弊社調べ)。しかし物流業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しているのが現状です。
特にLPガス配送は、資格取得、車両設備、教育体制と多くのハードルがあります。また、ドライバー不足や労働環境の変化に対応するためには、多大な投資と改革が必要です。
業界に与えるインパクトとは
この一件が業界に与える影響は決して小さいものではないと捉えています。2つの観点から、今後の流れを推察してみました。
- LP業界単独では配送が回らない時代へ
慢性的な人手不足、専門資格の必要性などから、今後LPガス配送は物流専門企業との提携が常態化していくでしょう。燃料配送を得意とするプレイヤーが、灯油・ガソリンのみならずLPガスも担うという新たな標準が生まれれば、地域の供給網はより強靭なものになるはずです。 - 「同業統合」から「異業種参入」へ
LPガス業界では、昨年レモンガスがPEファンドを活用したM&Aを実施したことも記憶に新しいのではないでしょうか。今後は、物流・通信・生活インフラ・工事など周辺業界による“外部からの資本参入”が一層進むことが予想されます。これは単なる業界再編ではなく、LPガスの社会的インフラとしての再定義と捉えることもできるでしょう。
まとめ
今回の宇佐美グループによるLPガス配送への本格参入を、単なるM&Aと認識してはいけません。エネルギー業界の構造変化、物流業界の人材課題、そして地域社会における「暮らしを支える力」の再編成という、大きな潮流の中で起きた象徴的な一歩だと私は考えています。今後も同様の動きが各地で続くのか。LPガス業界の未来は、静かに、しかし確実に次のフェーズへと進みつつあります。
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慶應義塾大学経済学部卒。2010年にみずほ銀行に入行し、法人営業に従事。2014年からは日本M&Aセンターにて、地方の事業承継解決問題に取り組む。その後、中堅M&A仲介企業の取締役として業界特化の業界再編戦略本部を立ち上げる。2022年8月にスピカコンサルティングを設立。2023年7月、M&A業界をテクノロジーで進化させたい思いでGA technologiesと資本提携を実施。