2026年7月物流業界M&Aまとめ
今月の注目事例は、ハマ キョウレックスによる群馬通商の完全子会社化です。 約5万坪の倉庫網を保有する北関東の有力拠点をグループ化できた背景には、同社が誇る徹底した収益管理システムが存在します。 さらに市場に目を向けると、M&Aを成長戦略として積極的に活用する企業とそうでない企業との間で、資本効率(ROE)や市場評価(PBR)に埋めがたい「企業価値の差」が生じ始めています。
本記事では、7月の主要事例を振り返りながら、規模の経済が働く物流業界において、自社の企業価値を最大化するための戦略的M&Aのあり方を解説します。
この記事を見るとわかること
- 2026年7月の主要M&A一覧: 福山通運やビーイングHDなど、再編市場の新たな広がりの全貌
- 【Pick Up】群馬通商 × ハマキョウレックス: 北関東トップクラスの倉庫基盤(5万坪)を獲得した大型買収の狙い
- データで見る「M&A実施企業」の強さ: 非実施企業との間にあるROE(11.38% vs 6.59%)とPBR(1倍超 vs 1倍割れ)の明暗
7月の代表的な公表M&A一覧
公表年月日 | 譲渡企業(売り手企業) | 譲受企業(買い手企業) | 形式 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
2026年7月7日 | ディールエージェント(株)[東京都]
| SRホールディングス(株)[広島] | 株式取得 | 首都圏における物流不動産領域の強化 |
2026年7月15日公表(実行日:7月1日) | 群馬通商(株)[群馬県] | (株)ハマキョウレックス[東証9037・静岡県] | 株式取得 | 北関東における保管・配送基盤の獲得 |
2026年7月17日 | (株)KYNネクストホールディングス[東京都] | 福山通運(株)[東証9075・広島県] | 株式取得 | 関東エリアでの拠点および流通加工のノウハウ獲得 |
2026年7月27日 | スガヤトランス(株)/(有)ジェイユウ軽送[千葉県/新潟県] | 株式会社ビーイングホールディングス[東証9145・石川県] | 株式取得 | 地域の輸送力の強化 |
<2026年7月の物流業界 代表的な公表M&A>
【Pick Up M&A】群馬通商株式会社×株式会社ハマキョウレックス
2026年7月1日、株式会社ハマキョウレックスは、群馬県伊勢崎市に本社を置く群馬通商株式会社の発行済株式100%を取得し、完全子会社化しました。買収後も社名や代表取締役の新山浩通氏は変更されず、従来どおりの経営体制が維持される予定です。
群馬通商は1989年設立の物流会社で、100台を超える車両と延床面積約16万5,000㎡(約5万坪)の倉庫を保有しています。大手企業を含む100社以上との取引実績を持ち、北関東エリアではトップクラスの物流センターネットワークを築いてきました。現在の売上高は約40億円に達します。
今回の買収により、ハマキョウレックスが持つ全国規模の物流ネットワークや高度な物流オペレーションと、群馬通商が北関東で培ってきた保管能力や地域密着の顧客基盤との相乗効果が期待されています。
ハマキョウレックスはこれまでも、バンスポートやサカイアゼットロジ、京阪久宝など、倉庫事業に強みを持つ物流会社を積極的に買収してきました。その背景には、同社独自の経営管理手法である「日計収支管理」と「アコーディオン方式」の存在があります。
日計収支管理とは、収支を日次で把握し、毎日の改善活動につなげる管理手法です。多くは日割りの概算値で運用されますが、日々の変化を素早く把握できるため、現場のコスト意識向上や問題の早期発見に大きく貢献しています。
一方のアコーディオン方式は、日々の物量予測に応じて人員配置を柔軟に調整する仕組みです。前日に作業量を見込み、それに合わせてスタッフ数を最適化することで、人件費を抑えながら高い生産性を実現しています。
実際、ハマキョウレックスは、自社より売上規模が大きく赤字であった近鉄物流(現・近物レックス)を買収し、約5年で黒字化を成し遂げました。このような徹底した収益管理と現場改善のノウハウこそが、大型M&Aを成功へ導く大きな原動力になっていると考えられます。
業界のニュース
M&Aをする会社、しない会社―物流業界で広がる企業価値の差
7月も物流業界では10件を超えるM&Aが発表されました。これまでM&Aに積極的ではなかったビーイングホールディングスや福山通運も今月買収を実施しており、業界再編が新たな局面に入ったことがうかがえます。上場するトラック運送会社約30社のうち、過去5年間でM&Aを実施していない企業は、遠州トラックや岡山県貨物など、わずか5社にまで減りました。
一方で、M&Aに積極的な企業とそうでない企業では、業績や市場評価に明確な差が生じています。実際に、センコーグループホールディングスやSBSホールディングス、ハマキョウレックスなど、過去5年間で6件以上のM&Aを実施している主要7社の平均ROEは11.38%、平均PBRは1.66倍(2026年8月3日時点)でした。これに対し、過去5年間M&Aを行っていない5社の平均ROEは6.59%、平均PBRは0.75倍にとどまり、資本効率や市場からの評価には大きな開きが見られます。
ROEは、株主から預かった資本をどれだけ効率的に利益へ結び付けられたかを示す指標であり、一般的には10%以上が優良企業の目安とされています。また、PBRは企業の純資産に対して市場がどの程度の価値を付けているかを示す指標です。PBRが1倍を下回る状態は、理論上「会社を解散して資産を分配した方が株価より価値が高い」と市場から評価されていることを意味します。実際、M&Aを十分に活用できていないこれら5社は、投資家から企業の解散価値を下回る評価を受けている状況です。こうしたPBR1倍割れは東京証券取引所も重要な経営課題として位置付けており、資本効率の改善や企業価値向上に向けたM&Aの活用を後押ししています。
もっとも、M&Aによって企業価値を高めているのは上場企業だけではありません。その代表例がフジホールディングス(奈良県)です。同社は2009年以降、30件以上のM&Aを実施し、売上高は2009年当時の100億円未満から現在では800億円を超える規模へと成長しました。また、営業拠点数も全国152拠点まで拡大しています。このような成長は、自社単独で営業所を新設するだけでは短期間で実現することは容易ではありません。M&Aによって各地域の物流ネットワークを効率的に取り込み、全国規模の拠点網を構築したことで、荷物の積み合わせや空車回送を削減し、積載効率や輸送効率の向上を実現しています。
このように、M&Aを成長戦略として活用する企業とそうでない企業との競争力の差は、上場企業だけでなく中小物流企業においても着実に広がりつつあります。M&Aは単なる事業承継の手段にとどまらず、営業エリアの拡大や荷主基盤の強化、人材・車両の確保、物流ネットワークの強化を通じて企業価値を高める有効な経営戦略といえるでしょう。
さらに、業界再編が進むほど、拠点網や輸送ネットワークを持つ企業ほど「規模の経済」を発揮しやすくなり、その優位性は一層拡大していきます。こうした環境変化を踏まえると、中小物流企業においても、M&Aを活用する企業とそうでない企業との企業価値や競争力の差はさらに広がる可能性があります。成長を目指す企業ほどM&Aを積極的に活用する流れは今後も加速し、物流業界の再編は一段と進んでいくと考えられます。
京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、2024年に新卒でGAテクノロジーズに入社、スピカコンサルティングに参画。運行管理者資格保有。