M&A・事業承継のお悩みならスピカコンサルティングへご相談ください
お電話からお問い合わせ 03-6823-8728
経営・ビジネス
投稿日:更新日:

企業価値5億円の条件〜株価が高く売れた会社の事例を大解説〜

はじめに、一般的な中堅・中小企業で5億円の株式価値がつくことは「非常に高い評価を得ている」ことであり、 “成功した企業” だという共有認識をもてればと思います。そして、この書き出しを読み「自分には関係のない話か」とページを閉じるのはお待ちください。筆者は、ごく限られた成功企業の独自性溢れる施策や、天才的な発想力を褒め称えるために筆をとっているわけではありません。

私たちスピカコンサルティングは、企業価値向上に関する調査研究機関「バリューアップラボ」にて、業界ごとで異なる企業価値の向上に資する経営要素の分析しています。これまでも、中堅・中小企業を対象に、企業が継続的な成長を実現する戦略立案や経営支援を実施してまいりました。

5億円への道のりは簡単ではないでしょう。しかしながら、成功企業の取り組みを分解することで、より良い経営のヒントを多く発見することが可能だと考えています。本コラムでは、当社が分析してきた実例をもとに、高い企業価値を形成する要素について解説していきます。

目次

株価が5億円になる業績とは?

一般的にどうやって株価5億円の評価がつけられるかを確認しましょう。計算方法は以下の通りです。

ネットキャッシュ*+EBITDA*4倍〜5倍
※ネットキャッシュ: 会社にある現金相当物ー借入金
※EBITDA:営業利益+減価償却費
  • ネットキャッシュ2.5億円+営業利益5000万
  • ネットキャッシュ1億円+営業利益8000万程度

このあたりが5億円の株価をつけるラインになってきます。具体的には、年商10億円、営業利益5000万円程度の業績を10年間続けてきたような会社が得られる評価となります。先述しましたが、このような優良企業はそう多くありません。もちろん、スタートアップなどで伸び盛りの会社や他社にはないような技術力を持っていたりすると年商1億円で5億円や10億円の株価がつく場合もあります。この場合の企業価値というのは、基本的に投資した金額を7年から12年程度で回収できるのか?という想定に従って算出されます。

上場企業の株価の分布

なお、400万社近く国内にある上位4,000社の上場企業の株価は、下記のような分類となっております。

1兆円以下

3821社

2000億円以下

3414社

1000億円以下

3109社

50億円以下

834社

20億円以下

173社

※ 2025年3月17日の終値をもとに調査。社数には重複を含みます

上場していても、50億円以下の企業が 20%もありますし、20億円以下の企業は5%存在します。そもそも上場しているだけで、日本の上位0.1%となるため、5億円の企業価値で売却できるというのは、相応の評価であり、もちろん相応の業績が必要となってきます。また、上場企業の場合、オーナーの株式保有割合は希薄化されているのに対して、多くの中堅・中小企業のオーナー経営者は100%の株式を保有していますので、オーナー経営者の得られる経済的な価値は非常に高いものになります。

企業価値で経営する時代へ

そもそも、何故企業価値を上げることが大切なのでしょうか?スピカコンサルティングは、「企業にとって資金の調達コストを下げることにつながり、より有利に経営をしていくため」に企業価値の向上は大切なことだと考えています。そして、それはより高い株価でのEXITにもつながります。

そのため当社では、PER、PBR、ROEの観点から企業価値を分析し、どうすればより企業価値が高くなるのか?ということを緻密に考えていける、本質的な価値向上の支援をしています。財務的な指標から企業価値を考えた次は、非財務情報が大事になってきます。非財務情報とは、例えば、取引先との関係が強固であるや、社員の質が高いということです。こうした要素も株価が高く評価されるには、大事になってきます。

のちに「企業価値を決定する要素」を解説しますが、ここまではまず「企業価値が高い企業が実践する10の法則」をご紹介します。

◆ 企業価値が高い企業が実践する10の法則

法則1

社員が創業者の基本理念に共感している

法則2

経営計画の予測と結果が乖離していない

法則3

入社社員が前年を上回り、新卒採用を継続・拡充している

法則4

売上高の伸び率が業界上位10社と同程で、利益率が高い

法則5

決算資料が正確で、付随資料も整っている

法則6

社長への依存度が低い

法則7

優秀な社員が多数働いている

法則8

創業の理由、背景に社会性がある

法則9

取締役の世代に多様性がある

法則10

コンプライアンス意識が高い

<出所:書籍「売る力」(著者:渡部 恒郎)>

法則9の「取締役の世代に多様性がある」を、より具体的に説明すると「経営者が若く多様性がある方が企業価値が高い」傾向にあると渡部氏は述べています。実際に、日本のプライム上場企業の取締役の平均年齢は約62歳(2011年は約59歳)になり、70歳以上の比率は7%から18%に高まったという記事がありました。国際的にも、ナスダックや英国、ドイツ、韓国、香港など他の市場のどこよりも高齢の経営陣で日本の企業経営はされています。記事にもあるように高齢の取締役は経営で1番重要なデジタルに弱いことが多いなどの弊害が指摘されていました。

企業価値を決定する要因

では、企業価値はどうやって評価されるのでしょうか?その企業の業績が株価に与える影響が高いのは当然のことですが、株価を決定する要因として、①対象会社の業績が伸びているか?(取引先の社数は?社員数は?etc..)②対象企業は伸びている業界にあるのか?③対象企業がある国が伸びているのか(景気は良いのか)?、といった3要素があります。この要素をいくつかの観点から紐解いていきます。

【Point 1】対象会社の業績が伸びているか?

◆ PER(Price Earnings Ratio、株価収益率)の観点から考える

利益をいくら出しているか?は大きく株価に影響を与えます。2025年3月時点では、東証株価指数(TOPIX)の翌年の収益からの予想PERは13倍程度、S&P500の予想PERは20倍程度となっています。(日経平均はこの10年間の予想PERの中央値は14.5倍程度に対してS&P500の予想PER16.5倍であり歴史的にも日本の方が株価水準が割安となっています。)米国の会社に比べて一般的に国内企業は低く評価されています。もちろん、PERだけでなくPBRの観点や金利(調達コスト)やROEの観点も必要になってきます。

◆ PBR(Price Book-value Ratio 、株価純資産倍率)の観点から考える

国内企業の多くは「保有する純資産より低い金額の株価しかついていない」傾向をご存知でしょうか。
三菱UFJフィナンシャルグループでPBR1.2倍、三菱商事は1.18倍であり、巨額の利益を出す総合商社やメガバンクでも、長年築き上げてきた資産の価値に比べて株価では特に国内において高くは評価されていないことが分かります。実際に東証プライム市場の上場企業は約半数がPBR 1倍を割っていますし、TOPIXに関してもPBRは1倍前後です。これに対してS&P500は3.5倍前後と、大きな差があります。米国の企業はROEを重視して、少ない資本で収益を出す経営をしていることが分かります。

◆ ROE(Return On Equity、自己資本比率[純利益÷自己資本])の観点から考える

TOPIXの平均ROEは2025年3月時点でちょうど10%程度です。ROEが8%を超過すると、株価の向上に寄与してくると言われます。上場していなくても、ROEが何%かを意識し、8%を目標にすることが企業経営において大事だとスピカコンサルティングでは考えています。中堅・中小企業では売上と利益(EBITDA)がメインの経営指標になっていることが多いですが、当社ではバリューアップコンサルティングにおいて、ROE上昇のためのコンサルティングを行なっています。なお、S&P500のROEは16%程度であり、まだまだ日米の差は大きくあります。

【Point 2】対象会社が伸びている業界にあるか?

企業の業績と株価の相関性が最も高いのはもちろんのことですが、どの業界に所属しているのか?というのは株価に対して大きな影響があります。2025年2月業種ごとの東証プライム企業のPERは下記の通りです。

総合

16.3倍

製造業

17.6倍

非製造業

15.8倍

食品業

18.2倍

不動産業

13.0倍

サービス業

17.0倍

所属する業界によって平均のPERに差があることがわかります。また、その業界が伸び盛りで、業界再編が起きている時には、M&A価格は急騰します。単に伸びているだけでなく、業界再編が起きている際は、ビジネスの転換期でもあります。

業界再編というと、単に規模が大きくなることだととらえている方もいます。しかしながら、実際には、ある業種・業界で強い企業やリーダーシップのあるオーナー経営者が集まって、“情熱を持って“業界構造を変え、新しいビジネスに挑戦していくことであると、業界再編時代のM&A戦略において記載されています※。

 このビジネスの転換期には、単独で経営するだけでなく、業界再編をして、一緒に経営することが勝ち筋となります。例えば、小さな町のスーパーでは粗利率の高いPB(プライベートブランド)は作ることはできませんが、一定以上の規模があればPBを使った全く別の戦略や戦術を使えるような広がりが生まれます。こういった業界の動きを逃さないことが重要となりますが、そのためにも業界再編の法則を学んでおくことを勧めます。

※出所:書籍「M&A思考が日本を強くする JAPAN AS NO.1をもう一度」(著者:渡部恒郎)

◆業界再編5つの法則

法則1

どの業界も大手4社に集約される

法則2

上位10社のシェア10%、50%、70%の法則

法則3

6万拠点の法則

法則4

1位企業10%交代の法則

法則5

Winner-Take-Allの法則

<出所:書籍「『業界再編時代』のM&A戦略 No.1コンサルタントが導く「勝者の選択」 」著者:渡部恒郎>

また、株価を決定付ける要因とは別に重要なことがあります。それは「株価とは人気投票である」ということです。たくさんの会社が欲しいと思っていれば株価は引き上がりますが、お相手がなかなか出てこない場合は、株価は大きく引き下がります。ですので、業界の中でたくさん買いたいと言われているうちに売却することがM&A成功の鍵となります。

【Point 3】対象企業がある国が伸びているのか?

◆ 世界の経済からみた日本の立ち位置

紀元1000年から2000年の間に世界の人口は22倍になり、人口1人あたりの実質所得は13倍、世界の実質GDPは300倍になりました。

生産人口 × 1人あたりの労働生産力(労働時間×質)

上記の指標で、今後の日本という国のパワーについて考えてみたいと思います。日本の就業人口は、下記のように推移してきました。生産年齢人口(15歳から64歳)は2017年に7,423万人でしたが、2030年には6,656万人へと767万人減少し、2060年に4505万へと減少していくと予測されています。急ピッチで生産人口が減少していくことにより、日本全体のトレンドは厳しいものと予測されています。

1870年

約1868万人

1950年

約3568万人

1990年

約6249万人

1998年

約6514万人

<出所:Maddison 1995a>

◆ 日本の戦い方は時間だった

バブル期の日本人はとにかく長時間働いていました。1990年では日本人が2031時間に対してアメリカ人は1878時間でしたので、この時のイメージから「日本人は働きすぎだ!」と良く議論されることが多いように思います。しかしながら、実際には日本人の労働時間は、1987年の2120時間をピークに下がってきました。2023年では日本人の労働時間は1611時間であり、アメリカ人の労働時間は1799時間となっています。日本人の労働時間は非常に長いという認識は今や昔のものとなっています。

※2023年の「世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD)」

◆ 労働時間あたりの質

労働時間あたりの実質GDPは、1998年では米国人を100とすると日本人は65でした。2023年には、OECD加盟国において、時間あたりの生産性は38カ国中28位、1人あたりの生産性は32位でした。アメリカ人の1人あたりの労働生産性は81,585USDに対して、日本人は50,276USDですので、現状でも米国を100とすると日本人はわずか61.6でしかありません。「生産人口×1人あたりの労働生産力(労働時間×質)」と考えると、人口が減少し、労働時間と生産性も全て日本は劣っており、日米比較において、PERやPBRなどが低くなる傾向にあります。日本は高齢化が進み、人口の中央値が48歳だが、2050年には日本が54歳、アメリカが42歳、中国は47歳になります。1949年に270万人の赤ちゃんが誕生しましたが、2024年では72万人(昨対比5%減)でした。

出生率は3分の1となり、ますます人口が減少し、地方のインフラを維持することが厳しくなってきます。こういったことを踏まえると、日本の企業の価値としては数年単位の景気の波を考慮する必要があるものの、中期的な評価としては厳しくなると見込んでおくことも大切なことです。

世界の人口増大の主軸は、アジアやアフリカとなっています。サミュエル・P・ハンチントンは著書「文明の衝突」で「西側」「東側」という分類から、文化は人間が社会のなかで自らのアイデンティティを定義する決定的な基盤であり、文化の多極化が進み、7つか8つの文化によって構成されるとしました。そのなかでも、日本は他のどの文明にも属していない中間文明であり、どの文化からも理解を得られやすいポジショニングを活かし、M&Aによる国際的な連携のリーダーシップをとることができチャンスが全くないわけではありません。

そもそも株価を高く売るべきなのか?

そもそも株価を高く売るべきなのか?

株価を実力よりも高く売却するということはどういったことが起こり得るのでしょうか?実力以上に高すぎる株価はその後の経営を圧迫することになります。

もちろん、なるべく高く売却したいというオーナー経営者様のご意向も大事ですが、売却した後に、買い手企業は投資した資金の回収をしなければなりません。高すぎる株価は、譲渡後の経営を厳しくし、買手企業の経営にダメージを与えるだけでなく、働いている社員の給与を正当に引き上げられない、適切な広告費を投じることができずに顧客に商品が届かない、などの問題が発生します。

それはオーナー経営者様の本意ではないと思いますので、なるべく良い条件の買い手企業を探してくることと同時に「適正な株価」がどの程度なのか?ということをスピカコンサルティングではきちんとお伝えすることに重きをおいています。

右肩上がりの時に売却をするべき。業績の悪い会社は誰も買わない

会社を買う時も譲渡する時も伸びている時にM&Aというアクションをとるこということを覚えておいてください。右肩下がりの会社を積極的に買いたいという方はいません。コーポレートアクションは、業績が良い時に実行することに価値がありますが、手遅れになっているケースをよく見ます。ぜひ、右肩上がりの業績が良い時にM&Aについて考えてみてください。

担当者からのコメント アイコンこの記事の執筆者

石井 大貴

神奈川県出身。早稲田大学商学部を卒業後、中堅M&A仲介企業に入社し、業界再編戦略本部の営業企画業務を担当。 その後、株式会社リヴァンプにて、クライアントのマーケティング・経営企画業務支援に従事。 2024年1月より、スピカコンサルティングに参画。

担当者:石井 大貴部署:経営企画室役職:バリューアップコンサルタント