M&Aコンサルタントとは?依頼する理由とメリット
近年、自社の事業承継や成長戦略構築のため、M&Aを活用することを検討する経営者が増えています。しかし、M&Aの活用を検討しようとした際、だれに相談すればよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
「銀行に相談すると与信に悪影響が出るのではないか」「税理士に相談したけど専門外のようで的を射た回答を得られなかった」といった声もよく耳にします。
本記事では、普段はあまり関わることがないが、経営者がM&Aによる譲渡を検討する際、一度は相談をしておきたい“M&Aコンサルタント”という職業について「業務内容」「依頼する理由」「費用」など解説を致します。
M&Aコンサルタントとは
M&Aコンサルタントとはその名の通り「M&A業務全般に対するコンサルティング業務を提供するコンサルタント」です。
M&Aコンサルタントにも、
- 売り手もしくは買い手のどちらか一方のコンサルティングのみをする場合(=FA)
- 売り手と買い手両者に対しコンサルティング業務を行う場合(=仲介)
の2パターンがありますが、今回は多くの中堅・中小企業M&Aにおいて採用されている「仲介」のコンサルタントにフォーカスします。
M&Aコンサルタントの業務範囲
M&Aコンサルタントの仕事は大きく以下の6項目に大別されます。
①M&Aを活用した事業承継もしくは企業成長の実現に向けたスキーム構築
M&Aと一言でいっても、「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」などさまざまなスキームがあります。どのスキームを採用するかによって、売主の手取り、税務リスク、買い手が承継するリスクなどは異なります。M&Aコンサルタントは状況によって適切なスキームのアドバイスを行う必要があります。
②企業価値の算定及び企業概要書の作成
M&Aを行う際、企業価値の算定と企業概要書の作成は必ず行わなければならないステップです。ここを飛ばしてしまうと、後々、トラブルに発展する可能性があります。企業価値の算定はなんとなくイメージが沸くと思います。企業概要書とはどのようなものでしょうか。お見合い結婚の際の釣書をイメージしていただければわかりやすいかもしれません。会社の特徴や財務内容、労務状況などをパワーポイント50-100ページほどにまとめた資料です。この企業概要書の出来がM&Aの成否に大きく影響します。
③M&Aの候補先についての情報提供及び紹介
企業概要書が完成したら、いよいよM&Aの相手先(買い手候補先)探しを行います。買い手候補先の選定は売主が行いますが、買い手候補先に関する情報提供や、シナジーの検討はM&Aコンサルタントが行います。5社や6社への提案にとどめる場合もありますが、多い時では100社ほどの買い手候補先への提案を行います。
④M&Aに関する手続についての助言及び交渉のスケジューリング
M&Aは簡単にいうと、株価提示→トップ面談→基本合意→DD(デューデリジェンス)→最終契約締結という流れを踏みます。各ステップにおいて、助言はもちろん、交渉のサポートを致します。弁護士ではないので、契約書自体を「これで進めましょう」と指示することはありませんが、草案提供やM&Aにおける一般的な解釈を説明することでサポートし、基本合意書や最終契約書締結についても、買い手側ばかりに有利な契約にならないように注意をします。譲渡対価についても、最初の株価提示で受けた金額で最後まで進ませるためには、DD(デューデリジェンス)を乗り越えなければなりません。M&Aに慣れている買い手は、M&Aに関しては百戦錬磨です。M&Aの知識があまりない経営者だけでは太刀打ちするのが難しいでしょう。
文字にすると少しわかりづらいかもしれませんが、「財務」「税務」「法務」「対象となる業界」についての知識が必須な業務となります。
M&AをするときはM&Aコンサルタントに依頼すべきか
M&Aを行う上で、M&Aコンサルタントに依頼しなければならないといった法令はありません。しかし、前述の通り「財務」「税務」「法務」に加え、M&A特有の論点についての知識がないままにM&Aを進めてしまうと、
- 不利な条件でM&Aが成立してしまう
- M&A後にトラブルに見舞われてしまう
といった可能性があります。
多忙な経営者は、M&Aについて深く勉強する時間がありません。そのため、世の中で成立しているM&Aの大半に、M&Aコンサルタントが関与しています。また、多くの経営者にとってM&Aは一生に1度経験するかどうかです。なので、各種条件の「相場」がわからないのです。
- 買主から売主への損賠賠償請求の期間はどのくらいが適正なのか
- 競業避止の範囲はどのくらいが適正なのか
- この表明保証ってよくわからないまま契約しようとしてしまっているけど大丈夫だろうか
上記はほんの一例ですが、M&Aにおいては決めなければいけない事象が山のようにあります。こういった専門性が問われる内容を経営者が自ら勉強して適切な判断を行うことはやはり難しいです。なので、M&Aコンサルタントという職業が成立しているのだと思います。
しかし、M&A仲介業界においては不動産仲介業界における宅地建物取引主任者のような国家資格がないため、だれでもM&Aコンサルタントを名乗ることはできます。経験が浅かったり、レベルが低いM&Aコンサルタントを選任したりしてしまうと意味がありません。2024年に世間を騒がせたルシアン事件のようなトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
従って、「M&Aを行う際は、“優秀な”M&Aコンサルタントに依頼をすること」が成功する確率を上げる方法であると思います。
M&A仲介会社の選び方
優秀なM&Aコンサルタントを選任する前に行わなければならないのはM&A仲介会社選びです。ほとんどのM&AコンサルタントはどこかのM&A仲介会社に属しています。よってM&A仲介会社選びも重要です。
①中小企業庁が主導するM&A支援機関に登録なされているか
※M&A支援機関:M&A支援機関に係る登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために設けられるものです。また、中小企業庁の提供する事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)において、M&A支援機関の活用に係る費用(仲介手数料やファイナンシャルアドバイザー費用等に限る。)について、予め登録されたM&A支援機関の提供する支援に係るもののみを補助対象とします。
近年、中小企業の後継者不足が叫ばれ続けている中、中小企業庁は補助金などを推進し、中小企業の「後継社探し」を支援しています。数百万円単位での補助金が採択されることも多く、できることなら活用したいため、M&A支援機関に登録されているM&A仲介会社を選択するのがよいと思います。
②過去、大きな不祥事やトラブルがないかどうか
M&A業界においては、「報酬の不透明さ」「強引な営業活動」「利益至上主義」などにより良い評判を聞かない会社も多くあります。過去、トラブルや不祥事への関与がないかは、ネット検索で大抵の情報は公開されているため、候補となったM&A仲介会社やM&Aコンサルタントについては確認をするのがよいでしょう。
③弁護士や会計士など、専門家が社内にいるかどうか
前述した通り、M&Aコンサルタントには「財務」「税務」「法務」といった専門知識が必要です。しかし、弁護士資格や会計士資格を持ったコンサルタントはほとんどおらず、実際には社内もしくは協力体制にある外部の弁護士や会計士に確認・相談をしながら進めることが一般的です。社内ではなく、外部の弁護士や会計士と連携をしている場合、タイムリーな対応や綿密なコミュニケーションをとることが難しいと考えられています。社内に弁護士や会計士がいるかどうかについても確認を行うべきでしょう。
M&Aコンサルタントの選び方
そもそも、相談する仲介会社を選ぶことはできても、M&Aコンサルタントを選ぶことはできるのでしょうか。結論、多くの場合、M&Aコンサルタントを選ぶ(指名する、担当を変えてもらう)ことが可能です。
①自社の属している業界に関しての知識がどのくらいあるか
“業界の専門用語や利益構造などについて理解しているかどうか?”
業界によって指標となる比率や数値情報があります。飲食店であれば、FL比率がA%、小売店であれば賃料比率がB%、建設業であれば粗利率がC%、などです。こういった業界固有の水準を知っているコンサルタントなのかどうかは、会話の中で分かります。
②M&Aに関する知識がどのくらいあるか
“質問に対してその場で回答が分かりやすく返ってくるかどうか?”
M&Aを行う上では知っておかなければならない知識は多くあります。“M&Aコンサルタントが知っておかなければならない知識”=“多くの経営者がM&Aを検討する上で疑問に思うこと”です。「株式譲渡をする際の税金はどのくらいかかる?」「事業譲渡と株式譲渡はどう違う?」など、気になる疑問に対して、どれだけ分かりやすく説明ができるかどうかでM&Aアドバイザーとしての力量が分かります。
③顧客目線のコンサルタントかどうか
“とにかく早くM&Aを進めようとしているM&Aコンサルタントではないか?”
M&A仲介会社の中には、売上ノルマや売上目標の設定が厳しい会社もあります。それに伴い、M&Aコンサルタントが追い込まれてしまい、強引な営業やM&Aの推進をしてしまう場合もあります。もちろん、M&Aを実施すると決めた場合には、なるべく早く成約をした方がオーナーのためになることも多々あるのですが、M&Aを検討しているタイミングにも関わらず、決断を急かせるような対応をするM&Aコンサルタントは、顧客目線とは言えないと思います。
上記3つのポイントは、M&Aコンサルタントと面談をする際、意識して確認すべきポイントです。あとは性格が自分と合うか、一緒に食事に行きたいと思うか、など会社の重要な未来を一緒に考えるパートナーとなるので、人間性も大切です。
また、上記①についてですが、M&Aコンサルタントには、ほとんど例外なく、得意不得意な業界があります。これまで100件のM&Aを支援しているコンサルタントだったとしても、未経験の業界はあります。
- 製造業M&Aの経験は豊富だけど医療機関M&Aについては経験がない
- 食品業M&Aの経験は豊富だけど建設業M&Aについては1件しかコンサルティングしたことがない
自社の属している業界でのM&A経験がどれくらいあるのかは、ヒアリングをする必要があります。
M&Aコンサルタントへの支払い報酬
M&Aコンサルタントへの支払い報酬は、所属しているM&A仲介会社によって異なります。発生することが多い費用について、下記していきます。
①着手金・・・0円~500万円
アドバイザリー契約を締結する段階で発生する費用です。着手金が発生するM&A仲介会社もあれば、発生しないM&A仲介会社もあります。着手金についてはM&Aの成否に関わらず発生し、M&Aが成立しなくても返金がなされないことが多いです。
②中間報酬・・・0円~成功報酬の20%
譲受候補先との間で基本合意が実現した段階で発生する費用です。着手金同様、中間報酬が発生するM&A仲介会社もあれば、発生しないM&A仲介会社もあります。着手金についてはM&Aの成否に関わらず発生し、M&Aが成立しなくても返金がなされないことが多いです。
③成功報酬・・・500万円~
譲受候補先との間でM&Aが成立した段階で発生する費用です。多くのM&A仲介会社が最低報酬額を設定しており、安いところだと500万円程度の金額からサポートをしてもらえます。成功報酬の計算については「総資産レーマン」もしくは「株価レーマン」という計算式で算出されることが多く、M&A仲介会社によって異なります。
※総資産レーマン:M&A対象となる会社の時価総資産額を元に成功報酬額を計算する
【例】
譲渡企業の時価総資産額 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下 | 最低報酬 2500万円 |
5億円超え10億円以下 | 4% |
10億円超え50億円以下 | 3% |
50億円超え100億円以下 | 2% |
100億円超え | 1% |
※株価レーマン:M&A対象となる会社の譲渡額(役員退職慰労金等含む)を元に成功報酬額を計算する
【例】
譲渡企業の譲渡額 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下 | 最低報酬 2500万円 |
5億円超え10億円以下 | 4% |
10億円超え50億円以下 | 3% |
50億円超え100億円以下 | 2% |
100億円超え | 1% |
④リテーナーフィー・・・月額5万円~
M&A仲介の会社によっては、月額報酬(リテーナーフィー)が発生する場合もあります。こちらについても①着手金②中間報酬と同様、M&Aの成否に関わらず発生し、M&Aが実現しなかったとしても返金が行われないことが多いです。
M&Aブローカーに要注意
最近では大手上場企業のM&A仲介会社のコンサルタントでも、「コンサルティング」ではなく「ブローカー」のような動きをしている方がいます。
- 企業概要書が10ページ程度しかない
- 買い手候補企業(ロングリスト)として提案された会社のことを理解していない
といったことが散見されているのです。
また、ルシアン事件の当事者であるルシアンHDのような悪質な買い手候補企業と取引していたり、成約前の契約書の写しを不正に偽造するなどしてM&A仲介会社の売上をかさ増ししていたりするなど、プロフェッショナルなコンサルタントとは到底呼べないような方も存在しています。会社選び、M&Aコンサルタント選びには細心の注意が必要です。
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この記事の執筆者
東京都出身。東京理科大学卒業後、日系コンサルティング会社にて大手企業やPEファンドの投資先などの収益改善に貢献。2017年株式会社日本M&Aセンターに入社。調剤薬局業界の西日本エリアの責任者として、拠点立ち上げを行う。2023年スピカコンサルティングに参画。